60話スクリム四日目
四日目、三人の様子には、これまでとは違う気安さが漂っていた。
「――おはよう、というべきか、こんばんはというべきか」
通話開始と同時に、叶がふざけた調子で切り出すと、シャーロットがくすくすと笑った。
「もう夜なので、こんばんはでいいと思います」
「うむ、些細なことに拘るでない、クリムゾフィア殿」
三日間を共に過ごしたことで、三人の間には、かつてはなかった軽口を交わせるほどの気安さが育っていた。
この日は、これまでの練習の成果を試すように、積極的な立ち回りを意識した。
「今日は、少しリスクを取ってみましょう。撃破数も稼いでいきたいです」
シャーロットの提案に、叶とフィガロは頷いた。
一ラウンド目、三人はこれまでより一歩踏み込んだ立ち回りを見せた。物陰に隠れる敵にも積極的に仕掛け、確実に数を減らしていく。
「――前に出るぞ!」
「援護します!」
フィガロの号令に、シャーロットが即座に応じる。息の合った連携で、二体を立て続けに撃破した。
二ラウンド目は、序盤から激しい撃ち合いに巻き込まれた。複数の敵に囲まれかける場面もあったが、叶の的確な索敵が窮地を救った。
「――北の物陰にもう一人、伏兵がいる。今出れば挟み撃ちになるぞ!」
「――ならば、先手を打つ!」
フィガロが咄嗟に動き、伏兵を制圧する。危うい均衡を、三人の連携が僅差で覆した瞬間だった。
「――さっきの、危なかったですね」
「うむ、だがギリギリで凌げた。この五日間の成果だな」
三ラウンド目は、これまでとは打って変わって、慎重な立ち回りに徹した。攻めるべきところは攻め、退くべきところは迷わず退く――そのメリハリが、これまでの日々よりずっと自然に発揮されていた。
「――ここは退きましょう。無理に交戦する必要はありません」
シャーロットの冷静な判断に、叶とフィガロは素直に従った。判断力への信頼が、迷いのない即応へと繋がっていた。
結果は上々だった。積極的な交戦を仕掛けつつも、致命的な事故を起こすことなく、堅実に撃破数と生存順位を両立させることに成功した。
『今日は攻めてるな』
『三人の連携、なんか息ぴったりになってきてる』
『これが練習の成果ってやつか』
――◇――
ラウンド間の待機時間、コメント欄には、これまでの四日間を追いかけてきた視聴者たちの声が、途切れることなく流れていった。
『四日目にしてここまで来るとは』
『初日の壁ドン思い出すとほんと感慨深い』
『このチーム見てるの日課になってきた』
『明日で最終日か、寂しいな』
叶は、その一つひとつに目を通しながら、静かな充実感を噛み締めていた。自分たちの積み重ねが、こうして誰かの日常の一部になっている――その事実が、何よりの励みだった。
――◇――
特に印象的だったのは、四ラウンド目だった。劣勢の中、叶が的確な索敵で敵の位置を掴み、フィガロとシャーロットが同時に動くことで、二体を撃破。さらに、遠方から狙いを定めていた叶自身のスナイパーが、逃げようとした三体目を仕留め、一気に三体を撃破する場面があった。
「――クリムさんまで決めてくれるなんて!」
「うむ、この距離ならもう慣れたものだ」
「――今の、綺麗に決まったな」
「ですね! 三人の呼吸が完璧に合ってました」
その一幕に、コメント欄も大いに沸いた。
『クリム様のスナイパー、ここに来て本当に頼りになってきたな』
『三人纏めて撃破は流石に興奮する』
五ラウンド目は、これまでの集大成と呼べる内容だった。索敵、援護、指揮――それぞれの役割が一切の淀みなく噛み合い、危なげなく上位で試合を終えることができた。
終盤、残り三チームまで絞られた場面では、これまでにない緊迫したやり取りが交わされた。
「――西に一チーム、東にもう一チーム。挟まれる前に、どちらかを叩くべきだ」
「西を先に。東のチームは装備が薄いのを確認済みです、後回しでも大丈夫です」
シャーロットの判断は、これまでの練習で積み重ねてきた観察眼そのものだった。三人は迷いなく西へと動き、そのまま制圧に成功する。
「――決まったな」
「うむ、見事な判断だった」
残る一チームとの最終局面も、危なげなく制した。五日間を通して、最も洗練された勝ち方だった。
「――今日は、文句なしの一日だったな」
叶が満足げに呟くと、二人も同意する気配がした。
スクリム終了後、三人だけの通話では、これまでで一番賑やかな雑談が繰り広げられた。
「なあ、大会が終わったら、何かご褒美的なことをしたいな」
叶がふと漏らすと、フィガロが興味深そうに反応した。
「ほう、例えばどんなことだ?」
「うーん……三人で、また別のゲームで遊ぶとか」
「いいですね、それ。カジュアルなやつがいいです、対戦とかじゃなくて」
シャーロットの言葉に、叶も頷いた。
「うむ、それも一興だな」
他愛のない雑談が、いつまでも続きそうな空気だった。大会という目標に向かって積み重ねてきた時間が、いつしか三人にとって、かけがえのない日常の一部になっていた。
「――なんだか、こうして話しているだけで、楽しいな」
叶の呟きに、二人が同時に頷く気配がした。
「私もです」
「うむ、俺もだ」
シャーロットが、ふと思い出したように付け加えた。
「そういえば、本番が終わったら、後夜祭というのもあるらしいですよ。チームをシャッフルして、カジュアルにお祭り騒ぎをするとか」
「ほう、それは楽しみだな」
「――ただ、正直に言うと」
フィガロが、少し名残惜しそうな声で続けた。
「今のこのチームが、一番居心地が良い。後夜祭で別のチームになるのは、少しだけ寂しいものがあるな」
その言葉に、叶とシャーロットは同時に頷いた。
「同感です。でも、それはそれで新しい出会いだと思えば、悪くないかもしれません」
「うむ。それに――」
叶は少し考えてから続けた。
「このチームが解散するわけではない。後夜祭が終われば、また俺たちに戻ってこられる。そう思えば、寂しさよりも楽しみの方が勝るな」
「――クリムさん、良いこと言いますね」
シャーロットの声には、素直な感心が滲んでいた。
四日目のスクリムは、確かな手応えと、それ以上に温かい時間を三人に残して幕を閉じた。




