姫巫女
竜の群れが周囲を行き来している。
どこかせわしない様子だった。
「くそ、どこにあるんだ?」
物を探している様子だった。
「そっちにはあったか?」
「いや、こっちもない」
焦りからか空気が張り詰めている。
怒号があちこちに響き渡る。
時間が残されていない。
「早く見つけないと厄災に間に合わないぞ」
「そうなったら竜人族が滅んでしまう」
皆が皆深刻そうな顔をしている。
厄災の日は刻一刻と近づいている。
「もしかしたら既に生まれてしまったのでは?」
「そうなると既に国外に出てしまった可能性があるぞ」
絶望した空気が流れる。
ただでさえ時間が無いのに、途方もない状況になっている。
「他国にも声をかけなければ」
「お前らは人間国を探しに行け」
「俺たちは再度国内を探す」
それぞれ散開していった。
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月光の森。
みんなで食事をしている。
幼竜向けにワイルドボアの肉を買ってきた。
本によると、ワイルドボアは竜人族の好物らしい。
「おいしい!おいしい!」
幼竜に与えると、美味しそうに食べていた。
「わー!美味しそうに食べてる」
ルナがパッと表情を輝かせて幼竜を眺めている。
俺たちもそれを見て微笑ましく見守っている。
「そう言えばこの子に名前はつけないのか?」
家族として迎え入れる以上、名前があった方が良い。
「うーんとね、リンちゃんにしようと思うの」
ルナが既に名前を決めていたようだった。
「へぇ、いい名前だな」
「ちなみにルナちゃん。
その名前をつけた理由って聞いても良いかな?」
ネモとシアが興味津々で聞いていた。
「りんどうっていうお花があってね。
漢字に竜って書いてあったの」
「なるほど、竜胆か」
竜胆の竜の部分を取って、リンちゃんという由来らしい。
「リンちゃん、可愛い名前を貰えてよかったね」
「きゃっきゃ!」
シアからリンちゃんと呼ばれて、はしゃぐように笑った。
この幼竜は女の子だったらしい。
その時、ガチャッと皿の音がする。
リンちゃんが顔を皿にくっつけてしまっていた。
「リンちゃんお口の周りにソースがべったりだぁ」
ルナがリンちゃんの口を拭いてあげている。
「今までは俺がルナの口を拭ってたんだよな……」
俺はしみじみした気持ちでそれを見ていた。
「あ、ミルクを上げなきゃ」
そう言ってルナが哺乳瓶でミルクを与える。
リンちゃんは美味しそうに飲んでいる。
「やっぱり若い子は成長が速いねぇ」
ネモもしみじみと呟く。
「お姉ちゃん、おばさんくさいよ」
「なんだと!シア!」
姉妹もなんだか楽しそうにじゃれ合っている。
「平和デスネ‥‥‥」
「そうだな……」
俺とアーティは穏やかな時間を堪能していた。
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その頃、獣人国では。
「今日は少し遅くなってしまったな……」
私は月光の森を後にして自宅へ帰っている。
「それにしてもシランが生まれた頃を思い出すな……」
妹のシランが生まれた時は私も溺愛していたことを思い出していた。
「あ、カトレアさん」
獣人国ギルドの受付嬢のビオラさんに声をかけられた。
「ビオラさん、こんばんは」
それから何気ないやり取りを少し交わした後。
「それではそろそろお暇させてもらおうか」
「あ、最後にいいですか?
実はかなり大きめの依頼が来てますよ」
何やら報酬が破格な依頼が来ているようだった。
「話を聞かせてもらえないか?」
「はい!竜人国からの依頼で、ある卵を探しているという内容です」
「なっ……」
竜人国、卵、その二つの内容であの幼竜のことが思い浮かんだ。
「どうやら姫巫女様というすごい力を持った竜人の方が生んだ卵らしくてですね。
何故かその卵を持って姫巫女様が行方をくらましたそうで、探しているみたいです」
「そ、そうか……」
ロイたちから聞いた話や状況を鑑みると、あの幼竜で間違いなかった。
「あれ?カトレアさん。
何かご存知なのですか?」
「い、いや知らないな」
咄嗟に私ははぐらかした。
気取られて問い詰められればボロが出る恐れがある。
「何かわかったら教えてくださいね」
「ああ、わかった」
そう言ってビオラさんと別れた。
「これはかなり大事になっているな」
姫巫女――
人魚国の海巫女、人間国の盲巫女と並ぶ三大祭女の一人ではないか。
その姫巫女が逃亡し、死んでいる。
「動いている規模は計り知れない」
おそらく竜人国全体の問題になっている。
下手をすれば竜人国と敵対してしまうだろう。
「明日ロイたちにこのことを話さなければ」
私は頭を抱えながら、自宅へと帰った。
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竜人国のとある屋敷。
「姉上が死んだだと……」
無骨な青年が失意に落とされる。
何よりも愛する姉の死を信じられずにいた。
「それもこれも我々一族に流れる忌々しい血のせいだ」
姫巫女は特殊な力を持ち、厄災から国や人々を守る存在。
しかし、その力を宿した者は使命に縛られ、生涯自由を許されない。
「どうして我々ばかりこんな目に遭うのだろうか……」
姫巫女の弟である自分もまた、辛い人生を送ってきた。
理不尽さを嘆くしかない。
「我が守らなければ」
そんな姉が使命を投げ捨て、命をかけてまで守ろうとした子供。
何としても守らなければならない。
「奴らに渡してなるものか」
奴らより先に見つけ出さなければならない。
「姉上。
我が必ず、あなたが守ろうとしたものを守ります」
青年は人から竜へと姿を変える。
そしてどこかへ飛び去ったのだった。




