託された命
俺とルナは竜人国へ依頼で来ていた。
遡ること数日前。
カトレアと買い物に出かけていた時のことだ。
見知った顔を見かけた。
「あらロイさん、それにカトレアさんも、こんにちは」
獣人国ギルドの受付嬢のビオラさんだった。
「こんにちは、今日はどこへお出かけですか?」
「人間国のギルドですよ、ロイさん」
「えっ!?」
獣人が人間国に行くなんて考えられなかった。
「あ、ロイさんは知らないんですね。
人間国自体、獣人を差別しているのは、前国王とその周辺だけで、国民の方々は友好的なんですよ」
「ああ、そうだな。私もそれで人間国に出稼ぎに行ってたんだ」
カトレアも頷いた。
人間国の国王の死後、上からの圧力はなくなり、獣人への差別の強制は撤廃された。
もちろん個人的な恨みを持つものはいる。
だが、獣人が出歩く分には問題なくなっているようだった。
「そうか、そうなのか……」
素直に喜ばしかった。
獣人国側は侵攻を受けた側だから、まだ同じようにはいかないだろう。
だが、いつかは相互に行き来ができるようになれば良いと思う。
「では、人間国のギルドには何用で行くのだ?」
「人間国のギルドとの共同会議に出席するためですね。
相互の国で依頼を共有したり、まあいろいろですね。
何分参加が初めてなもので……」
人間国の国王により中断させられていた共同会議も再開されたようだ。
「あ、今度ロイさんたちの依頼したい案件があるので、宜しくおねがいしますね。
それでは!」
「あ、ちょっと!」
言い終わる前に小走りでビオラさんは去って行った。
その時の依頼が竜人国のダンジョン攻略の手伝いだった。
物理耐性がある魔物の討伐だったので、俺とルナで請け負った。
今は討伐が終わり、森へ帰るところだった。
「竜人国ってすっごい高いところにあったね」
「そうだな、防衛はしやすそうだ」
竜人国は山岳の上に存在している。
宮廷に至っては上空に浮かんでいる。
「だけど何度も行き来はしたくないな」
足場も悪く、行き来だけで体力をかなり消耗させられる。
それに竜人国の国境付近は怪鳥の魔物がいる。
「ちょっと遠回りして正解だったな」
竜人が滅多に通らない道があり、平坦で歩きやすい。
飛行できる竜人にはただの遠回りだが、人間にはありがたい。
しばらく歩いていると。
「お兄ちゃん!あそこに誰か倒れてる!」
ルナが何かを見つけたようだった。
まだ俺の目には見えなかった。
「行ってみるか」
俺とルナは倒れている人の方へ向かった。
近付くと俺にも見えてきた。
一匹の竜が倒れていた。
「大丈夫ですか?」
「しっかりして!」
俺とルナで声をかけると、竜はゆっくり顔を動かす。
「この子を……頼みます……」
大事そうに抱えた卵を差し出してきた。
声を出すのもやっとというところで、何とか絞り出した声だった。
「これは酷いな……」
見ると全身に深手を負っており、目も殆ど見えていなさそうだった。
おそらくもう長くはもたないだろう。
「お兄ちゃん、助けてあげられる?」
「助けてあげたいが、ちょっと厳しい……」
「そんな……」
ルナが悲しそうな顔をする。
ヒールをかけても、むやみに苦痛を引き延ばすだけ。
超回復薬生成で作ったポーションは持ってきていない。
その時、ルナが声を上げた。
「お兄ちゃん遠くから何かが来てるよ」
「ルナ!卵を持って急いで竜人国を抜けよう」
傷跡を見る限り、怪鳥の仕業じゃない。
爪痕ではなく、魔法で襲われた跡だ。
「おそらく今こちらに来ている何者かに襲われたんだ。
せめてこの竜が守ろうとした卵だけでも守ろう」
「う、うん……わかったよ」
ルナが竜から卵を受け取ると、竜は安心したかのように目を閉じた。
「この竜の想いだけは無駄にしない……」
目の前の命を救えなかったことに胸が痛む。
ルナの目にも涙が溜まっていた。
俺とルナは急いで竜人国を抜ける。
「あの竜はお母さんみたいだね。
子供を守るために頑張ったのかな?」
「そうだな、命をかけて子供を守ったんだろうな」
竜人国の国境を抜ける。
ルナによると追ってきたのも別の竜だった。
亡骸で立ち止まり、何かを探すような動きを見せていたという。
「この卵を狙ってたのかな?」
「そうだろうな」
どうしてこの卵が狙われていたのかはわからない。
今後この卵をどうするべきか考える必要があった。
ひとまず森へ帰ってきた。
他のみんなも別の依頼で出かけており、俺たちが最初の帰還だった。
「卵って温めないといけないよね?」
「確かにそんな気がするな」
俺もうろ覚えで、よくわかっていなかった。
ルナは卵を抱きかかえると、布団にくるまった。
「これで卵を温めるんだ」
俺はその光景を微笑ましく眺めていた。
一息つくと食事の準備へ向かう。
魔導書を片手に肉を焼いていると。
「帰ったぞ」
「ただいま!」
「ただいまデス」
ネモとシアとアーティが帰ってきた。
カトレアは自宅に帰っている。
「おお、いい肉の匂いだ」
ネモが肉の匂いを嗅いでいる。
「お姉ちゃんはしたないよ」
シアに咎められて、ネモが照れ笑いする。
「そういえばルナサマはどうされマシタ?」
「ルナなら部屋に……」
部屋にいると言おうとしたその時。
「きゃあ!」
ルナの悲鳴が聞こえて来た。
「「ルナ!」」
「ルナサマ!」
「ルナちゃん!」
ルナの声を聞きつけ、四人でルナの部屋へ駆け出した。
「一体何があったんだ……」
もしかしたら追跡者が。
そんな不安を抱きながら走る。
「ルナ!」
ルナの部屋の扉を勢いよく開ける。
その先で目に飛び込んだのは。
ベッドから転げ落ちたルナと、卵から孵化した幼竜だった。




