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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第八章 変異種ヒドラ
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封印解除

 即位式から翌々日。

 今宵は新月である。

 森には仕掛けが施されており、ヒドラに対する防衛線を張っている。


「ついにこの日が来たか……」


 ソルヌのみんなの仇である変異種ヒドラ。

 封印術により俺の中に封じ込めている。

 当時の俺では倒せる相手ではなかった。


 だが、力をつけた今。

 再び封印を解き、討伐する。

 そのために準備を進めてきた。

 みんなは俺に話しかけてこない。

 俺がセンチメンタルな感情であることを理解しているからだ。

 月明りが無く薄暗い夜が俺の心の闇を呼び起こす。


「そろそろ始めるか」


 鍵状の魔道具に魔力を込める。

 みんなは周囲で構えに入っている。

 俺が封印を解いたらすぐに動ける状態だ。

 痛みが走る手の甲へ鍵状の魔道具を当てて解錠する。


「《封印解除》!」


 俺の声とともに空気が震える。

 手の甲の紋章が光り輝き、魔力が流れ出す。

 しばらくすると白く大きな多頭の蛇が姿を現す。

 その姿はソルヌの町で暴虐を尽くしたあの変異種ヒドラで間違いなかった。


「これが、変異種ヒドラ……」

「なんて威圧感だ……」


 前衛を張るネモとカトレアが呟く。


「すごい、こんな魔物がいたなんて」

「半端ない魔力だよー」

「ワタシも見た事ないデス」


 シア、ルナ、アーティもその姿に驚いていた。

 だが――


「思ったより大したことないな……」


 父やキメラ、瘴気の根源に比べれば恐るに足りなかった。

 無力の頃のような絶望的な力の差は感じられなかった。


「いや、ヒドラは魔力を吸収して力を増していく。

 力をつける前に倒さなければ」

「《豪炎球》!」


 俺の詠唱を合図に、みんなも一斉に動く。


「《水球連弾》!」


 ルナも魔法を唱え、大量の水球を撃ち出す。

 俺の横にはシア、ルナの横にはアーティが控える。


「あたしの剣を食らえ!」

「私も行くぞ!」


 ネモとカトレアもそれぞれ飛び掛かり、ヒドラの脚へ剣を振り下ろす。

 ヒドラは呻き声をあげるが、傷一つついていない。


「ちくしょう、硬いな」

「刃が通らなかった」


 ネモとカトレアの剣撃は硬い鱗に弾かれてしまった。

 そして俺とルナの魔法も鱗に防がれる。


「効いてないね……」

「いや、これでいい」


 鱗は破れない。

 だが、その硬さを維持する魔力は確実に削れている。

 ヒドラは尾を振り上げ、ネモとカトレアに叩きつける。


「遅い!」

「見切った!」


 ネモとカトレアは軽々回避する。


「任せて!《障壁》」

「シールド展開デス」


 地面を叩きつけた際の衝撃波をシアとアーティが防御する。

 こちらも全員無傷だった。


「グワアアアアアアア」


 衝撃波で仕掛けが起動し、爆発する。

 硬化させていなかったヒドラの胴体に傷をつけた。

 傷はすぐに消えてしまうが、治癒に魔力は消費させられている。


「攻撃もあの時と比べてだいぶ控えめだな」


 明らかにヒドラの動きが悪かった。

 おそらく魔力を十分に供給できていないからだろう。

 ブレスを撃ってこないのがその証左だろう。


 ヒドラは攻撃をやめ、移動に切り替える。

 このままではジリ貧になると判断したのだろう。

 ものすごい勢いで外へ向かっていく。


「行かせないよ!《火球(フレア)》」


 ルナがヒドラの進行方向に火球を放つ。

 周囲の仕掛けが発火して爆発し、地面に穴が空く。

 ヒドラはそのまま穴へと落ちた。


「うまくいったね!」


 キメラとの戦いの時の時間稼ぎに使った手法を真似た落とし穴戦法。

 ヒドラ相手にも効果てきめんだった。

 ヒドラは必死に這い上がろうとする。


「たたみかけよう!《豪炎球》」


 俺は詠唱し、豪炎の球を撃ち出す。


「ルナもいくよ!《豪炎球》」

「わたしも!《豪炎球》」


 俺とルナとネモの豪炎球がヒドラに直撃する。

 鱗の硬化で傷は負わせられなかったが、ヒドラは再び穴に叩きつけられる。


「私の出番だ!」


 カトレアが素早く穴の近くのロープを短剣で切断していく。

 枯れた木々が次々と穴を塞ぐように倒れた。

 かなりの重量があり、簡単には取り払えない。


「次はワタシデスネ」


 アーティが背中の翼を展開する。

 そして空中に飛び上がり、鳥のように空を飛んだ。


「うわぁ、アーティちゃんすごい!」


 ルナが空を飛ぶアーティに感嘆する。

 アーティが穴の上空へ到着すると。


「目標地点到達デス、投下シマス」


 収納スペースを開放し、その中から燃料を投下する。

 そのままアーティが旋回し、穴から離れたことを確認した。


「よしみんな離れろ!」


 指示を出して、すぐに全員穴から距離を置く。

 次の瞬間、爆音とともに穴が炎に包まれた。


「狙い通り、木材を焼こうとしてブレスを吐いたな」


 燃料が撒かれた木材にヒドラのブレスが引火し、爆発を起こした。


「ギャアアアアアア」


 ヒドラは自身の吐き出したブレスに全身を焼かれている。

 全身を焼かれながらも、必死に穴から這い上がろうとする。

 その時だった。


『頼む……助けてくれ……』


 穴から人の声が聞こえた。

 低く唸るような女性の不気味な声だった。


「えっ!?人の声」

「誰か巻き込んじゃったの?」


 ルナとシアが声を上げる。

 そんなはずはない、この森に入ってきた者は誰もいなかった。


「どうするロイ?」


 ネモが俺に指示を仰ぐ。


「どうするべきか……」


 燃え盛る穴から聞こえた正体不明の声。

 無視すべきか、それとも火を鎮火させるべきか。

 俺は選択を迫られたのだった。

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