即位式
五人との買い物の翌々日。
即位式の日となった。
俺はいつものローブを身に着けている。
男の礼服は戦闘服と決まっている。
結界の外から人間国を見ると、人影が一切なかった。
国民は皆、即位式の準備で多忙を極めている。
「お兄ちゃんお待たせ!」
ルナの声が背後から聞こえた。
足音は五人分ある。
「お……、おお……」
言葉を失い、声にならない声が漏れる。
目の前には、まるで五人のお姫様のような姿があった。
「お兄ちゃんどうかな?」
純白の礼服にティアラとローレンティアの花飾りを合わせた装いで、上品な印象を受けた。
普段の可愛らしさに加えて、エルフの王女らしい気品が感じられる。
「美しいな……美人だよ」
「美人!?そっかぁ……」
ルナはにかむように笑った。
「あたしはその……どうかな?」
アイボリーを基調とした礼服にアネモネの髪飾りを合わせた装いで、柔らかな印象にまとまっていた。
普段の凛々しい雰囲気とは違い、今日は素直な可愛らしさが目を引く。
「今日は雰囲気が違うな。
華やかで綺麗だ」
「そ、そうか……よかった……」
ネモは胸をなでおろした。
「ロイサマ、ワタシはどうデスカ?」
サファイアブルーの礼服に青い薔薇の髪飾りを合わせた装いで、華やかだった。
人形のように整った容姿も相まって、どこか神秘的な雰囲気を漂わせている。
「神秘的で目を奪われた」
「て、照れマス……」
アーティの頬が赤らんだように見えた。
「わ、私はどうだろうか?」
深紅の礼服にカトレアの花飾りを合わせた装いで、いつもより大人びて見えた。
飾りすぎない姿が、かえって彼女らしい可憐さを引き立てている。
「その色、本当に似合うな。可憐だ」
「……っ!」
カトレアは声には出さず、尻尾をブンブン振っている。
「私はどう?」
薄桃色の礼服にレウィシアの花飾りを合わせた装いで、可愛らしさを底上げしていた。
自分に似合うものをよくわかっていて、うまく着こなしている。
「シアらしい可愛らしさを感じた」
「そ、そう……ありがと」
シアは真っ直ぐに褒められるのに弱いため、しおらしい表情になる。
「みんな本当に素敵だよ」
五人の方を見て、俺はしっかりと伝えた。
五人の表情がパッと明るくなる。
宮廷へ向かうまでの間、通り過ぎる人々の目線をみんなが奪っていったのだった。
宮廷に着き、しばらくすると、即位式が始まる。
王子が国王の冠の贈呈を受ける。
いつもの商人のイメージとはかけ離れた凛々しい姿。
それを現すかのように、国民からの惜しみない拍手が送られる。
「私の父上が皆に迷惑をかけた。
その償いとして、この国をより良くするため、命をかける所存である」
割れんばかりの歓声だった。
「私は皆にまだ信頼を得られていないところがある。
少しずつ功績を積み上げ、いつしか信頼を勝ち取ってみせるとここに誓う!」
元国王の悪政に苦しめられた者は多い。
重圧に押しつぶされず頑張って欲しいと思った。
即位式も終わり、招待者向けのディナーが開かれる。
俺たちはそこに参加していた。
みんなは食事に夢中になっている。
俺は今はぶらぶらと一人歩き回っていた。
「やあ、お前も着ていたか」
ペルシカさんに声をかけられる。
「お久しぶりです、ペルシカさん」
元人間国の軍師で、現在は魔人国で軍師をしている。
「殿下、いや陛下のことは赤子の頃から見てきたからな、感慨深い」
ペルシカさんは遠い目をしていた。
幼い王子に戦術を叩き込んでいたのが彼女だという。
「まあ、父親のように道を踏み外さないことを願うよ。
じゃあまたな」
ペルシカさんは背を向けると右手を上げて、去って行った。
「おお、ロイ殿ではないか」
「やあ、ロイ殿久しぶり」
「ご無沙汰しております、陛下。
それにヴァルさん」
獣人国国王とヴァルさんに声をかけられた。
「あれがロイ殿の大切な人たちかい?
みんな綺麗だな」
ヴァルさんが遠目にいるみんなの方を指さした。
「ええ、そうです」
「そうか、頑張れよ」
ヴァルさんの言葉で男として成長できたと思う。
感謝してもしきれない。
「募る話もあるのだが、人間国の新国王の席に行かなくてはならぬからな。
またロイ殿が獣人国に来た時にゆっくり話そうではないか」
そう言って、ヴァルさんと獣人国国王も去っていった。
しばらく歩いていると、見知らぬ二人に声をかけられる。
男の方は黒髪の少年で魔術学校の制服を身に着けており、
女の方も同じく黒髪の少女で片目を前髪で隠しており、漆黒のドレスを身に纏っていた。
「あなたがロイさんですね?」
男の方に声をかけられる。
「はい、そうですが君たちは?」
そう返すと、彼らから衝撃的な言葉が返ってきた。
「ずっと探しておりました兄上」
「お兄さま」
「えっ……」
突然声をかけてきた二人は俺の弟と妹だという。
「人違いじゃないか?」
にわかに信じられなかった。
「いえ、僕たちの父はマーリン、母はヴィヴィアン。
これだけ伝えれば信じてもらえますか?」
人間国の宮廷魔術師であった実の父と母。
その名前と完全に一致していた。
「確かに俺の弟と妹で間違いない。
だけど、どうして俺のことを知っている?」
父も母の記憶から、俺は完全に消えていた。
俺を知る人間は森のみんなと王子くらいである。
「家に僕たちではない子供がいた形跡を見つけたのがきっかけです。
父も母も僕のことを長男と言うけれど信じられなくて、
陛下と謁見する機会をもらった時に聞きました」
そこでようやく話が繋がった。
「君たちは俺に父と母の敵討ちをしたいのか?」
「いえ、僕たちも両親には愛されませんでしたから。
遊ぶことも許されず勉強、勉強で」
「そう……ずっと魔法の勉強ばかりさせられてた」
父も母も魔法のことにしか興味がなかった。
その子供も自分たちの魔法への探求の跡継ぎくらいにしか考えていなさそうだった。
「でも魔法の才能が無かった兄上が、何故魔法を使えるようになったのか。
それも強敵を何度も打倒して、父を破った腕前を知りたいと思っています」
「それは私も気になる……」
確かに魔法の才能がなく捨てられた人間が、こうして魔法を使っていることは信じられないだろう。
夜も更け始めたため、近々会う約束を取り付ける。
「それでは兄上、ごきげんよう」
「兄さまごきげんよう……」
俺に弟と妹がいたという事実に衝撃を受けた。
新月も明後日に迫る今、悩みの種がまた一つ芽吹いたのであった。




