王子様
カトレアとのお出かけの翌日。
本日はレウィシアさんとお出かけする日だ。
「遅いですよ~」
俺が集合場所に向かうと既にレウィシアさんがいた。
時計を見ると約束の時間の十分前だった。
「ごめん、待たせた」
レウィシアさんの服装はやわらかな色合いのワンピースに、軽く羽織ったカーディガン。
服が主役にならず、彼女の可愛らしさを引き出していた。
「その服すごく似合ってます」
他の人の時もそうだったが俺は気の利いた褒め方ができない。
自分の語彙力の無さに愕然とする。
「えへへ、ありがとう」
レウィシアさんははにかむように笑う。
いつもなら深追いしたり、からかってみせたりしそうだが、
素直に喜んでくれていた。
「レウィシアさんがどこに行きたいですか?」
「私のことシアって呼んでよ」
返事の内容が想定外で面を食らった。
「わかりました、シアさん」
「シ!ア!」
さん付けも許さない意志の強さを感じた。
確かにレウィシアさん以外の人は年上でも呼び捨てだった。
やはり一人だけ違っていたことを気にしていたのだろうか。
「シア」
「うん」
シアは満足げに頷いた。
「私もロイくんって呼ぶね。
それともロイの方が良いかな?」
「ロイくんでお願いします」
この時をもって二人の呼び方が変わった。
「やっぱり気になってたんだよね。
一人だけなんか距離を感じてて」
「それは申し訳ない」
やはり気にしていたようだった。
「それに何か私にだけ口調が丁寧じゃない?
お姉ちゃんの方が年上なのに結構砕けてるし」
「わかった、気を付けるよ」
他のみんなと違い、二人でいた時間が極端に短かった。
それが原因かはわからないが、無意識にそうなってしまったのだろうか。
「シアはどこに行きたい?」
「オシャレなカフェを見つけたからそこに行こうよ」
実は俺はカフェに行くのは初めてだった。
男が行く場所というイメージが無かったからだ。
魔石車に乗って、目的地へ向かう。
服屋からそう離れていないところにあるらしい。
車内ではシアに窓から見える店について教えてもらっていた。
目的地に到着し、魔石車を降りる。
「なんだこれは……」
目の前には貴族のお屋敷のような外装の店が鎮座していた。
「これ本当にカフェなのか?」
「あってるよ、貴族気分を味わえるのが売りのカフェなんだって」
どう見てもお屋敷にしか見えない。
シアに引っ張られるように店内に入る。
「おかえりなさいませ。ご主人様、お嬢様」
貴族のお屋敷の使用人の服装をした店員がお出迎えをしてくれていた。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
「俺はダン・ド・リオンティーをお願いできますか?」
「私は紅茶をお願いします」
「かしこまりました」
一礼すると店員はロングスカートを翻して去って行った。
立ち振る舞いも優雅だった。
「ダン・ド・リオンティーって初めて聞いたかも」
「深いコクがあって、結構好きなんだよ」
獅子に似た植物の魔物の根を焙煎した飲み物だったはずだ。
「お待たせいたしました」
ダン・ド・リオンティーと紅茶が運ばれてきた。
その後軽食を注文する。
食べ終えたあと、今度はケーキを注文した。
「ロイくん、ちょっとお花摘みに行ってくるね」
シアは席を立った。
俺は一人店内を見渡す。
「それにしてもすごいなあ、本にあったお屋敷の内装にそっくりだ」
実際の子爵家をイメージに作られたらしく、本格的だった。
しばらく経って、注文を持ってきた店員に声をかけられる。
「食後のデザートをお持ちいたしました」
聞き覚えのある声に振り返った瞬間、目を疑った。
「シア……!?どうしてその格好を」
「どうでしょうかご主人様」
給仕服を身に纏ったシアがそこにいた。
「実はこのカフェ給仕服の貸し出しもやっていて、
私も着ちゃいました」
落ち着いた雰囲気の給仕服もよく似合っていた。
「ご主人様に食べさせてあげますね、口を開けてください」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいって」
抵抗していたが根負けし、口を開けて食べさせてもらった。
恥ずかしさのあまりケーキの味を感じられなかった。
「いってらっしゃいませ。ご主人様、お嬢様」
店員にお見送りされて、店を後にする。
「いやぁ、楽しかった」
シアは上機嫌だった。
「俺は疲れたよ……」
他の客に好奇の目で見られて神経がすり減ってしまっていた。
普段とは違う道を歩き、服屋へ向かう。
「うっ……また胃が痛くなってきた」
服屋に到着し、俺の胃がまた痛む。
「いらっしゃいませ」
いつもの店員が俺に気付き、こちらを一瞥した。
「じゃあロイくん。
私は礼服見てくるから、適当に時間つぶしておいてね」
そう言ってシアは一人で奥の方へ行ってしまった。
店員が俺を笑顔で見ている。
表情は笑っているが、目が笑っていなかった。
「あ、そうだ。肌着を買わなきゃだった」
そう言って逃げるように売り場へ向かった。
買い物を済ませた後は、魔石車に乗って帰路につく。
車内で俺は疲れからうとうとしてしまっていた。
そして、そのまま寝てしまった。
シアに起こされ、目を覚ますとシアの肩にもたれ掛かっていた。
「ごめんシア!重くなかった?」
「平気平気。それにしてもぐっすりだったね」
気付けば目的地に到着しており、魔石車を降りる。
二人で森へ歩いて帰る。
「ねえ、ロイくん……」
道中でシアに声をかけられ、振り向く。
夕日をバックに立つシアの顔が夕日のように赤く染まっていた。
「どうしたシア?」
「実は私、ロイくんのことが好きなの」
いつもの明るいシアの表情とは打って変わり、怯えるような不安そうな表情をしていた。
「え……?」
好意は持たれているとは思っていたが、惚れられているとは思ってもみなかった。
「ロイくんは口づけで命を救ってくれた。
私にとって王子様だったんだよ」
王子様が姫に口づけで命を救う内容の童話がある。
瘴気から解放するため、聖魔力をシアに流し込む際に、口づけをした。
それに重ね合わせていた。
「でも今までそんな素振りは一度も」
一緒に行動している間にはまったく気づけなかった。
「そりゃね。
お姉ちゃんがロイくんのこと好きなの知ってたから」
シアはネモが俺に好意を持っていることを知っていて、気持ちを押し殺していたのだ。
「でも、やっぱり諦められない」
シアは泣きそうな表情になっていた。
俺は目が離せなかった。
シアは何かを決意したように一歩踏み出した。
「俺は……」
言葉を紡ぐより先にシアが駆け寄り、口を塞がれた。
柔らかいものが触れ、温かさを感じる。
「告白の答えは今じゃなくていいからね」
いつものシアの表情に戻っていた。
「じゃあ先に帰るね」
そう言って一人で走って帰ってしまった。
俺はシアの背中が見えなくなるまで呆然と立ち尽くすのだった。




