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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第一章 獣人
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奴隷の少女

ソルヌを発ってから数日。


俺はお尋ね者になっていた。


国の計画を邪魔したからか。


それとも、ヒドラを封印した力を警戒されたのか。


理由はわからない。


だが、捕まるわけにはいかなかった。


今向かっているのは、人間国の外れにある場末の町――トピア。


国ですら干渉を諦めた無法地帯だ。


ならず者や犯罪者が集まり、力だけがものを言う。


身を隠すには都合がよかった。


俺には時間が必要だった。


《魔法創造》で新たな力を得るための時間が。


制約次第では使えない魔法もあるだろう。


それでも、手札は多い方がいい。


トピアまでの道のりは険しかった。


道端には打ち捨てられた死体。


魔物が群がり、肉を喰らっている。


原形を辛うじて保っている程度だった。


その光景に、前世の記憶が蘇る。


肉壁として使い捨てられた人々。


魔物に食い散らかされた死体。


吐き気を堪えながら、俺は歩き続けた。


そして辿り着いたトピアは――想像以上だった。


建物の大半は崩れ、窓ガラスは割れている。


魔法によってできた跡もあちこちに残っていた。


薬に溺れる者。


朝から酒を煽る者。


顔が潰れるまで暴力を受けた者。


まるで地獄だ。


だが、この町は単なる貧民街ではない。


元Aランク冒険者。


名の知れた暗殺者。


闇市で巨万の富を築いた売人。


表では生きられない実力者たちも、この町へ流れ着いていた。


ここでは、力がすべてだった。


トピアにはギルドが存在しない。


依頼は仲介人を通して秘密裏に行われる。


無名の俺では、まともな依頼は回ってこないだろう。


それでも今は、生きるしかない。


ソルヌで稼いだ金はまだ残っている。


だが、金を持っていると知られると面倒事になる。


俺は粗末な宿と最低限の食事を選んだ。


不自由な生活には慣れている。


屋根があるだけ、昔よりましだ。


……なのに。


孤独だけは、どうしても慣れなかった。


人の優しさを知ってしまったからだろう。


アンジェさんたちを思い出し、その夜は眠れなかった。


翌日、依頼人を探して町を歩き回る。


だが、勝手がわからない。


仲介人が変装しているのか。


それとも地下に取引場でもあるのか。


伝手のない俺には、虱潰しに探すしかなかった。


情報屋でも探そうと路地裏へ入った時だった。


「お前さん、お尋ね者のロイだね?」


フードを被った商人が声をかけてきた。


一気に警戒心が跳ね上がる。


浅はかだった。


国の人間が潜んでいてもおかしくない。


逃げれば余計に怪しまれる。


俺は腹を括った。


「……ああ、そうだ」


商人は肩を竦める。


「安心しな。売る気はないさ」


「むしろ依頼をしたい」


依頼内容はこうだった。


獣人国との国境付近に存在する山岳地帯――ヴァント。


“死の山”と呼ばれる危険地帯だ。


凶悪な魔物が多く、近づく者はほとんどいない。


だが今、そこで国軍が怪しい動きをしているらしい。


調査と妨害。


それが依頼だった。


「国に楯突けるような骨のある奴じゃなきゃ頼めなくてねぇ」


「実力者は、こんな面倒な依頼受けなくても食っていけるし」


「お前さんみたいな奴を見つけられたのは運が良かったね」


確かに。


国に追われている俺には丁度いい依頼かもしれない。


「……わかった。引き受ける」


「そう言うと思ったよ」


商人は報酬を差し出した。


一年は遊んで暮らせる額だった。


「先払いでいいのか?」


「俺が逃げる可能性だってあるだろ」


商人は笑った。


「その時はお前さんを売ればいいさ」


「死んだなら死んだで、ヒドラ復活の情報を国に売れば元は取れるし」


合理的だった。


俺には拒否権などない。


「あと、ヴァントへ行くなら獣人族を連れていくとよいさ」


「あいつらは山の地理に強いし」


獣人族。


精霊の加護を受けた種族。


自然との親和性が高く、山岳地帯の地形の把握にも優れていると言われている。


「冒険者に依頼すればいいのか?」


「それとも手配を――」


商人は奥を指さしてこう答えた。


「奴隷を買えばいいさ」


一瞬、言葉を失った。


奴隷。


そんな発想、自分にはなかった。


人として扱われなかった過去があるからこそ、その言葉に嫌悪感を覚える。


「……ふざけるな」


思わず声が荒くなる。


周囲の視線が一瞬だけこちらを向き、すぐに逸れた。


商人は淡々と続ける。


「考え方を変えてみるといいよ」


「依頼が終わった後に解放してやれば人助けさ」


「悪趣味な連中に買われるより、よっぽどましだね」


綺麗事だけでは済まない。


その現実を突きつけられた。


「……わかった」


「そうする」


商人と別れた後、俺は奴隷市場へ向かった。


そこで、奴隷商らしい男に声をかける。


「獣人族を買いたい」


男は不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「一見さんに売れるのは、売れ残りだけだ」


連れて来られたのは、一人の赤い瞳に赤い毛色の獣人族の少女だった。


薄汚れ、傷だらけ。


それでも、本来は綺麗な毛並みなのだろうとわかる。


年齢はまだ幼い。


そして何より、その目。


隷属の首輪を付けられてなお、こちらを殺しそうなほど睨みつけていた。


「魔法適性が低くて戦力にもならねぇ」


「この町じゃ身体目的で奴隷を買うやつもいねぇし」


「それにこの気性難じゃ商品価値はねぇ」


その言葉が、胸に突き刺さる。


魔法適性が低い。


その理由だけで価値がないと言われる。


まるで昔の自分だった。


助けなければと思った。


「お前さんが買わなきゃ、屠殺して肉になるだけだ

獣人族の肉は硬くてまずいが、餓えた奴らにゃ需要があるしな」


奴隷商が吐き捨てる。


怒りで拳が震えた。


だが、隷属の首輪をしたものは主人が死ねば道連れになる。


今は耐えるしかなかった。


奴隷商はひったくるように金を受け取り、所有権の移譲魔法を発動した。


少女の主人は、俺になった。


奴隷市場を出た後。


俺は少女へ手を差し出した。


「……これからよろしく」


だが少女は答えない。


ただ鋭い目で、俺を睨み続けていた。

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