表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第一章 獣人
10/18

もう二度と

目的地であるヴァントへ向かう道中。


俺は何度か少女へ話しかけた。


だが、返事はない。


「名前はなんて言うの?」


「戦うことはできるのか?」


隷属の首輪によって、


・主人を守る

・命令に従う


といった基本行動には従うようになっている。


だが、命令ではない会話には応じないらしい。


……人間を信用できないのだろう。


それは当然だ。


もし自分が同じ立場なら、絶対に信用しない。


このままでは埒が明かない。


本当は使いたくなかったが、俺は質問を“命令”に変えた。


「名前を答えてくれ」


少女は少しだけ嫌そうに顔を歪め、


「……カトレア」


と、小さく呟いた。


可愛らしい名前だった。


「カトレア、いい名前だな」


思ったことをそのまま口にする。


少女は一瞬だけ目を丸くした。


「……ありがとう」


褒められるとは思っていなかったのだろう。


だが、すぐに無表情へ戻る。


「戦闘は?」


「身体強化魔法だけ」


「それも下手」


「才能ないから」


奴隷商の言う通り、魔法は苦手らしい。


それでも――。


「身体強化が使えるのか。すごいじゃないか」


俺は本心で言った。


だがカトレアは、鋭く睨み返してくる。


「……馬鹿にしてるの?」


冷たい声だった。


失敗した。


魔法が当たり前の世界で、その言葉は嫌味にしか聞こえない。


俺が“まったく魔法を使えなかった人間”だったなんて、知るはずもないのだから。


「信じてもらえないかもしれないけど」


「俺、一度死んでるんだ」


カトレアは心底呆れたような顔をした。


無理もない。


馬鹿にされたかと思えば、次は意味が分からないことを口走ったからだ。


「これから話すことは、信じなくてもいい」


「でも聞いてほしい」


俺は話した。


魔法適性がなく、魔法が一切使えなかったこと。


家族に捨てられたこと。


差別され、戦争で死んだこと。


神によって転生したこと。


そして、ソルヌで起きたすべてを。


カトレアは最初こそ疑っていた。


だが、俺の表情が冗談に見えなかったからだろう。


半信半疑ながらも話を受け入れ始めていた。


実際に戦争が起きていることも知っていたこと。


また、道中に貼られていた俺の指名手配書も信憑性を後押ししてくれた。


まだ信用されたわけではない。


それでも、少しだけ距離が縮まった気がした。


人目を避けながら進むこと数日。


俺たちは、ソルヌだった場所へ辿り着いた。


住民たちは近隣の町へ避難させたため、もう誰もいない。


残っているのは瓦礫の山と、


ギルドの仲間たち、


そしてアンジェさんの墓だけだった。


気づけば涙が零れていた。


すると、カトレアがそっと俺の服の裾を掴む。


慰めてくれたんだろう。


心配してくれているのは伝わった。


……本当は優しい子なんだろう。


その夜は、ソルヌ近くの小さな洞窟で野営することにした。


翌日の動きについて考えた。


カトレアの服は、年頃の少女が着るにはあまりにも酷かった。


ボロボロで衣類と表現するのも憚られるほどの布切れだ。


まずは、まともな服装をさせてあげたい。


翌日。


俺は再びソルヌへ戻り、瓦礫となった武器屋から使えそうな装備を持ち出した。


「……私は奴隷だぞ」


「奴隷に武器なんて渡すのか?」


奴隷に装備を与えることは珍しい。


戦闘奴隷でもない限り、なおさらだ。


「武器や防具があった方が依頼もやりやすいだろ」


そう答えた後、少し迷ってから続けた。


「それに――」


「俺は、君を失いたくない」


カトレアの目が一瞬だけ揺れた。


頬も少し赤くなった気がした。


だが、すぐにそっぽを向く。


「……そりゃ、奴隷を失ったら損だもんな」


「高い金払ったんだし」


そう考えるのが普通だ。


だから俺は否定しなかった。


「そう思ってくれていい」


今日の野営用にカトレアに薪集めを頼んだ後、


俺は《魔法創造》が使えるようになっていることを思い出した。


次は、何を創るべきか。


その瞬間、アンジェさんの最期が脳裏を過った。


もし、あの時。


命を繋ぎ止められる魔法が使えていれば――。


そう考えた瞬間、自然と言葉が口をついて出た。


「《超回復薬生成》」


あらゆる病気と怪我を治療する魔力ポーションを生成する魔法。


ただし、生者にしか使えず、呪いには効果がない。


制約は二つ。


・一か月に一本しか生成できない

・生成後一週間、回復魔法が使用不能になる


強力な魔法の割に制約は軽い。


戦闘前には使えないが、平時に作り溜めしておけばいい。


これなら――。


もう二度と、助けられなかった後悔をしなくて済むかもしれない。


「《超回復薬生成》」


空のポーション瓶へ、魔力を流し込むと濁った青色の液体が満たされていく。


試しにヒールを使おうとしたが、発動しない。


本当に制約は機能しているようだった。


翌朝。


墓標へ手を合わせ、俺たちはソルヌを後にした。


ヴァントまでは徒歩で三日ほど。


道中では魔物と遭遇し、


カトレアの戦闘能力を確認したり、


たまたま通りかかった魔人国の行商人から物資を補充したりしながら進む。


そしてついに――。


死の山、ヴァントへ辿り着いた。


「……行こうか」


以前より少しだけ距離の縮まったカトレアと共に、


俺はヴァントへ足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ