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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第一章 獣人
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ヴァント

ヴァントは、噂通りの過酷な土地だった。


カトレアのおかげで道に迷うことはない。


だが、足場は悪く、断崖や急斜面ばかりが続く。


さらに現れる魔物も強力だった。


前衛はカトレア。


俺は後衛から魔法で援護する。


カトレアは魔法の適正が低いと言っていた。


確かに、身体強化の精度そのものは高くないのだろう。


だが、それを補って余りある技術があった。


無駄のない動き。


的確な回避。


そして迷いのない斬撃。


相当努力してきたのだとわかる。


魔法を諦め、自暴自棄になっていた昔の自分より、ずっと立派だった。


カトレアはオークやワイルドボアを次々となぎ倒していく。


その動きは、まるで踊っているようだった。


思わず見惚れてしまうほどに。


「《風の刃(エアスラッシュ)》!」


俺は風属性の応用初級魔法を放つ。


得意な炎魔法は、この山では使いづらい。


木々へ燃え移れば、大惨事になるからだ。


だからこそ、普段使わない魔法を試す良い機会だった。


「……はぁ」


戦闘の合間。


カトレアが小さく息を漏らした。


「私も、あんな魔法が使えたらな」


その視線は、俺の魔法へ向けられていた。


羨望。


嫉妬。


そして、無力な自分への嫌悪。


複雑な感情を抱えたまま戦っていた、その時だった。


「しまっ――」


一瞬、カトレアの集中が途切れる。


死角から飛び出した魔物への反応が遅れた。


前方にも敵がいる。


距離を取れていれば両方対処できたはずだ。


だが、今の体勢ではどちらかを受けるしかない。


カトレアは前方の敵を素早く斬り伏せ、防御姿勢を取った。


多少の負傷は覚悟していた。


だが――痛みが来ない。


不思議に思って目を開ける。


そこには、肩から血を流すロイの姿があった。


自分を庇ったのだと理解する。


「……なにしてるの」


「奴隷を庇う主人なんて」


信じられないものを見るように俺のことを睨みつけた。


だが、その表情は今までのような侮蔑の意味ではない。


悪戯をした子供を叱るような、そんな表情だった。


「ごめん」


「カトレアを守らなきゃって思ったら、身体が勝手に動いてた」


魔法では間に合わなかった。


間に合ったとしても巻き込む危険もあった。


だから咄嗟に、《風起こし(ウィング)》を背後へ放って加速したのだ。


「主人が死んだら、奴隷も死ぬんだけど」


少し意地悪そうに言われ、俺は固まった。


……完全に忘れていた。


「ほんとにごめん」


「完全に失念してた」


本気で謝る俺を見て、


「ふふっ……先が思いやられるわね」


カトレアは呆れたように笑った。


初めて笑うところを見ることができた。


「今日はこの辺で野営しましょう」


「怪我の手当ても必要だし」


「そうだな」


行商人から買った包帯とポーションで治療を行う。


カトレアは慣れた手つきで包帯を巻いてくれた。


「……慣れてるんだな」


そう言うと、カトレアは手を止めずに答える。


「私も、たくさん怪我してきたから」


その横顔は、どこか優しかった。


最初に会った頃の険悪な雰囲気は、もうほとんどない。


「ありがとう」


「もっと気をつけないとな……」


「強くならないと」


今は《超回復薬生成》の制約で回復魔法が使えない。


本来なら、依頼が終わるまで使うべきではなかった。


だが、どうしても一本作っておきたかった。


“助けられなかった後悔”を、もう繰り返したくなかったからだ。


慢心していた。


傷など負わないと思っていた。


いつか痛い目を見る。


そう自戒する。


翌日。


怪我も考慮し、俺たちは慎重に進むことにした。


最短ルートではなく、魔物の少ない道を選ぶ。


そのおかげで周囲を見る余裕ができた。


毒や棘を持つ植物が多く、基本的には潜伏には向かない。


だが、場所によっては死角や奇襲向きの場所がある。


道幅は狭く、大軍は展開しづらい。


急斜面も多く、大規模魔法を使えば土砂崩れが起きる可能性がある。


逃走経路は少ない。


《魔法創造》はまだ使えない。


ならば、今ある手札だけで戦うしかない。


地形を利用すること。


少人数である利点を活かすこと。


戦術が重要になる。


俺は、アインさんたちに教わったことを一つずつ思い返していた。


本当に、感謝してもしきれない。


その頃――。


「おい、修復はまだか!」


ヴァントの奥地。


黒い鉄の塊が鎮座していた。


周囲では、大勢の兵士や技術者が慌ただしく動き回っている。


「くそっ、山を甘く見ていた……!」


司令官らしき男が悪態をついた。


国軍は強い。


実力だけならAランク冒険者級の者も多い。


だが、それは“戦闘能力”の話だ。


未開地の踏破能力とは別物だった。


おそらく移動中の事故か、魔物との戦闘で損傷したのだろう。


「急げ!」


「獣人国侵攻までに間に合わせるんだ!」


「この《魔力圧縮魔導砲》を……!」

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