表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第一章 獣人
12/37

真っ直ぐな感情

傷も癒え、俺たちは歩みを速めた。


魔物との戦い方にも工夫が生まれていた。


今までは互いに別々で敵を倒していたが、それでは片方が窮地に陥った時の対応が遅れる。


だから戦い方を変えた。


基本的に俺が主体で戦闘を行う。


撃ち漏らした敵や死角からの奇襲、詠唱中の隙はカトレアに補ってもらう。


魔力が無限にある俺が主戦力となり、カトレアの負担を減らす形だ。


もちろん、俺も彼女を守れるよう意識して立ち回る。


討伐速度こそ多少落ちたが、安全性は格段に上がっていた。


何より――カトレアが以前ほど無茶をしなくなった。


「少し休憩しよう」


近くの岩場に腰を下ろす。


カトレアも隣に座り、小さく息を吐いた。


最近の彼女は、以前より穏やかな表情を見せることが増えていた。


その変化を見れば見るほど、こんな少女から笑顔を奪った人間の国が許せなくなる。


少し迷った末、俺は口を開いた。


「あのさ、話したくなければ無理にとは言わないけど……どうして奴隷になったの?」


かなり踏み込んだ質問だ。


それでも、聞いておきたかった。


カトレアはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。


「故郷に、病気の母親がいるんだ」


――カトレアの話では


獣人の国の小さな村で、母と妹の三人で暮らしていたこと。


父は戦争で亡くなり、それでも母は女手一つで自分たちを育ててくれたこと。


だけど無理が祟って身体を壊してしまったこと。


「私と妹で薬草を採ったり、力仕事をしてお金を稼いでた。

 ヒールを使える医者にも診てもらった。

 でも、少し楽になるだけで……全然治らなくて」


徐々に弱っていく母親を見ていられなかったのだろう。


だから彼女は人間の国へ出稼ぎに出た。


もっと良い薬を買うために。


もっと腕の良い医者に診せるために。


けれど待っていたのは、希望ではなかった。


「騙されたんだ。

 気づいた時には捕まってて……そのまま奴隷商に売られた」


歯を食いしばり握り拳を作る。


「そんな……」


胸が締め付けられる。


こんな優しい子が、どうしてこんな目に遭わなければならないんだ。


人間の国への怒りが、また胸の奥で膨れ上がっていく。


カトレアは遠くを見るような目をしていた。


母の最期に立ち会えないかもしれない絶望。


妹に負担を押しつけてしまっている罪悪感。


何もできない自分への無力感。


色んな感情が混ざり合った、苦しそうな表情だった。


気づけば、俺の中でカトレアの存在は大きくなっていた。


孤独だった自分の隣にいてくれた人。


心を開いてくれた人。


失いたくないと思える人。


だけど、それ以上に――。


大切な人を失う後悔を、彼女にしてほしくなかった。


だから俺は決意する。


「なあ、カトレアさん。

 この依頼が終わったら、隷属契約を解除する。

 故郷に帰ってほしい」


カトレアの目が大きく見開かれた。


「……は?」


次の瞬間、怒鳴るような声が返ってくる。


「どうしてそんなこと言うんだ!!

 私が弱いから!?足手まといだからか!?」


予想外の反応に、思わず言葉を失う。


彼女の表情は、最初に出会った頃のように刺々しかった。


だけどその奥には、はっきりと悲しみが滲んでいる。


この世界で奴隷を解放する理由など限られている。


不要になったから。


邪魔になったから。


だから彼女は、捨てられると思ったのだろう。


信用した相手から価値がないと言われる。


それはきっと、想像以上に辛いことだ。


獣人族は何より、誇り高い人種だ。


俺は、本当に不器用だ。


でも、これだけは譲れない。


「頼む、聞いてくれ」

「嫌だ、聞きたくない……!」


カトレアは耳を塞いで首を振る。


あれほど気丈だった彼女が、今は年相応の少女のように感情を露わにしていた。


本当はこんなことしたくなかった。


だけど、お願いでは届かない。


俺は命令という形を取る。


「落ち着いて、話を聞いてほしい」


隷属契約の力によって、カトレアの身体がびくりと震えた。


苦しそうな表情で、それでも彼女は俺を見る。


「前にソルヌで話したよな。

 俺は、大切な人を目の前で失った。

 ……もう二度と、あんな後悔はしたくないんだ」


静かに言葉を続ける。


「正直、今から戻っても間に合わないかもしれない。

 それでも、まだ可能性があるなら諦めてほしくない」


たとえ嫌われてもいい。


また孤独に戻ることになったとしても――。


大切な人を失って泣く姿なんて、もう見たくなかった。


「それに……これがある」


俺は荷物の中から一本のポーションを取り出した。


濁った青色の液体。


手元にある唯一の。


「超回復薬生成。

 どんな病気や怪我でも治せるポーションを生成する魔法だ」


制約のことも話した。


月に一本しか作れないこと。


生成後は一週間、回復魔法が使えなくなること。


そして、今手元にある唯一の一本を彼女に渡した。


「お母さんのために使ってほしい」

「そんなの……受け取れるわけないじゃない!」


カトレアの瞳から涙が溢れる。


出会ってまだ一か月も経っていない。


家族でもない。


主人と奴隷。


そんな関係の相手が、ここまで自分を想ってくれる理由なんて分からないのだろう。


「お願いだ。

 俺と同じ後悔だけは、しないでくれ」


涙が止まらなかった。


俺はそっとカトレアを抱きしめた。


「意味わかんないよ……」


そう呟きながらも、カトレアは抵抗せず、静かに身体を預けてくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ