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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第一章 獣人
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身体強化

 カトレアは斬撃を回避しながら、反撃の隙を探る。

 隙自体はある。

 だが、あまりにも露骨だった。

 誘っている。


 今までの自分なら、飛び込んだ瞬間にカウンターで斬り伏せられていただろう。

 圧倒的な技量差。

 まともに戦えば勝ち目はない。

 時間を稼げば、きっとロイが来てくれる。

 希望はそこにしかなかった。


 だが、本来の作戦では、ロイは潜伏地点へ向かっているはずだ。

 私は指示に背いた。

 来る保証なんてどこにもない。

 それでも、信じたかった。


「逃げてばっかりじゃ、俺様は倒せねぇぞ?」


 司令官の剣が唸る。

 重く、速く、鋭い。

 回避するだけで精一杯だった。

 心が折れそうになる強さ。

 それでもロイなら。

 瞳から迷いが消えた。


-----------------------------------------------------------


 男はそれを感じ取った。

 恐らく援軍が来る。

 何人来ようが負ける気はしない。

 だが、部下の追撃を躱すような奴だ。

 万全を期すならこの小娘を先に始末しておくべきだろう。


「秘儀――神殺斬」


 瞬間。

 空気が震えた。

 男の剣に収束した魔力が、地面を抉る。

 避けられない。

 当たれば死ぬ。

 カトレアの背筋を冷たい恐怖が駆け抜けた。


 次の瞬間、衝撃波が周囲の岩肌を砕いた。

 カトレアの身体が吹き飛ばされる。

 だが、斬られた痛みはない。


「……え?」


 斬撃が、掻き消されていた。

 土煙の向こう。

 そこに立っていたのは――


「来てくれた......」


 目の前にはロイの姿があった。


-----------------------------------------------------------


「斬撃が打ち消されただと……?」


 司令官は驚愕の表情で、目の前の魔術師の少年を見た。

 だが、すぐに冷静さを取り戻す。


 体つき。

 装備の軽さ。

 武器を持たない立ち姿。

 完全な後衛型の魔術師。

 恐らく肉弾戦や武器戦闘は得意ではないだろう。

 対魔法装甲がある以上、魔法そのものは脅威にならない。

 警戒すべきは飛び道具による搦め手くらいだろう。


「はん、小僧が一人増えたところで、俺様の敵じゃねぇよ」


 司令官はロイへ狙いを定めた。

 先ほどの大技は相殺された。

 ならば次は、詠唱する暇すら与えず叩き潰す。

 魔術師では回避しきれない速度で攻めればいい。

 小娘が庇うか、小僧に直撃するか。

 どちらにせよ終わりだ。


「秘儀――斬撃の飛礫!!!」


 放たれたのは、目で追うことすら困難な超高速の連撃。

 空気が裂け、岩肌が砕け散る。


「ロイ!!!!」


 カトレアは叫んだ。

 避けられない。

 そう確信し、思わず目を背けそうになった。

 だが。


「何故だ……何故躱せた?」


 司令官の目が見開かれる。

 ロイは寸前のところで斬撃を回避していた。

 あり得ない。

 魔術師が回避できるような攻撃では無いはずだ。


「何故躱せたかって?」


 ロイは笑う。


「これのおかげさ」


-----------------------------------------------------------


 俺の身体は淡い魔力を纏っていた。


「ちっ……身体強化か」


 司令官は舌打ちした。


 ――ソルヌのギルドにいた頃。

 アインさんとゲイルさんと共に討伐依頼へ出ていた時のことだ。


「何?身体強化を覚えたい?」


 ある程度打ち解けた頃、アインさんへ相談したことがあった。


「パーティを組んでる時は前衛が守ってくれると思う。

 でも、いざって時に自分の身くらい守れなきゃ駄目だと思って」


 俺がそう言うと、アインさんは「なるほどな」と頷いた。


「身体強化ってのはな、簡単に言えば魔力って道具を使うイメージだ」


 感覚で使ってるから細かい理屈は知らねぇけどな、と笑いながら続ける。


「重要なのは二つ。“制御”と“許容”だ。例えるなら魔石車がわかりやすい」


 魔石を動力に走る移動用魔道具。

 街でもよく見かける乗り物だ。


「まず制御についてだが――」


 魔石車は人よりも、馬車よりも速い。

 だが、その分操縦が難しい。

 曲がる時も、適切なタイミングで、適切な方向へ、

 適切な角度で操作しなければならない。

 一つでも狂えば道を外れる。

 止まる時も、タイミングがズレれば、通り過ぎてしまう。

 それらをすべて適切に制御して初めて、使いこなすことができる。


「次に許容だ」


 アインさんは俺を見た。


「お前、魔力が多ければ多いほど身体強化も強くなると思うか?」


 魔法知識に疎かった俺は素直に頷いた。


「半分正解、半分外れだな」


 アインさんは笑う。


「確かに魔力が多けりゃ出力は上がる。だがな――」


 魔石車も、魔石を大量に使えば速く走れる。

 しかし、速すぎれば乗っている人間が耐えられない。

 車体そのものが壊れる場合だってある。

 それが物理的な許容。


 そしてもう一つ。


「どれだけ速くても、制御できなきゃ意味がねぇ」


 操縦できない速度なら、結局出力を落とすしかない。

 慣れてない奴は極端に速度を落とさなきゃ扱えない。

 それなら、走った方が早い。


「出力だけあっても意味はねぇってことだ」


 その言葉を聞いて、愕然とした。


「……それじゃ、俺には無理か」


 身体強化を諦めかけた時だった。


「いや、頭使えば方法はある」


 アインさんはニヤリと笑った。


「例えば真っ直ぐ走るだけならどうだ?」


 障害物もない。

 曲がる必要もない。

 なら必要なのは加速と停止だけ。


「それに身体の方もな、長時間は無理でも一瞬だけなら耐えられることがある」


 つまり。

 制御する箇所を限定し。

 短時間だけ最大出力を叩き込む。

 それなら未熟でも扱える場合がある。


 ――そして今。

 俺はそれを実戦で使っていた。


「はは……すごいな」


 カトレアは乾いた笑みを漏らした。

 まさか身体強化まで習得しているなんて思わなかった。

 だが司令官はすぐに違和感へ気づく。


「だが小僧、お前――」


 目を細める。


「その小娘みてぇに、身体強化を維持した戦いはできねぇようだな」


 俺は既に身体強化を解除していた。

 だが、不敵な笑みを浮かべて言葉を返す。


「一瞬使えれば十分さ」


 深く息を吐き。

 再び魔力を練り上げる。


「ここから反撃開始だ!」

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