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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第八章 変異種ヒドラ
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夕焼けと手

ルナと買い物に行った翌日。


本日はネモと買い物に行く日だ。


「お待たせ」


ネモが時間通りにやってきた。


初めて見る装いだった。


ニットの上のロングカーディガンにロングスカート。


大人っぽさと色っぽさを兼ね備えていた。


「ネモ、似合ってるよ」

「あ……ありがと……」


ネモは照れて俯いてしまった。


実際本当に似合っていた。


普段は鍛錬着か軽装鎧の出で立ちであることが多く、

ギャップを感じてしまう。


魔石車の乗るまで、ネモは俯いたままだった。


車内でもほとんど話せなかった。


気まずい時間が流れていた。


「ついたみたいだな」

「そう……だな」


運転手に代金を支払って、魔石車を降りる。


「どこ行こうか」

「あ、あたしのおすすめの店があるんだけど……」


徐々に声が小さくなり、最後まで聞こえなかったが、

おすすめの店に連れて行ってくれるようだ。


数分歩くと、こじんまりとした食堂についた。


建物に歴史が感じられる。


「ここだ」


ネモに促されるように店に入る。


「いらっしゃい。

 あら、アネモネちゃん久しぶりだねぇ。

 隣の方は旦那さん?」


顔なじみらしき店員にからかわれて、ネモは顔を真っ赤にしている。


「そ、そんなんじゃない……ゴニョニョ……」


最後は声にならず、聞き取れなかった。


「男嫌いなあなたがねぇ……隅に置けないねぇ」

「いいから!注文!」


わかった、わかったと店員が注文を聞いてきた。


ネモが薦めるメニューを頼んだ。


「ロイ、すまない。

 あいつは騎士学校時代の親友だ」


昔の話を教えてもらう。


彼女は同じ騎士学校出身で卒業後ともに騎士の道へと進んだが、

戦争で重傷を負い、一命を取り留めたが、戦えない身体になってしまったそうだ。


それでもみんなの役に立ちたいと、騎士学校の生徒が通う、この食堂で働いているそうだ。


ネモも学生時代この食堂にお世話になったという。


「はいはい、昔の話は終わり終わり。

 こちらが食堂の看板メニューのステーキ定食ですよ」


テーブルの前には立派なステーキが鎮座している。


「「いただきます!」」


肉を口に運ぶと肉汁が広がる。


肉厚があって食べ応えがある。


とても美味しかった。


「アネモネちゃんもまた笑えるようになったんだね」


店員が感慨深そうにネモのことを見ていた。


確かに出会った頃は常に険しい表情をしていた。


学校時代からなのか、その前からなのかはわからない。


だが、知らなくても良い話だ。


今笑えている。

その事実だけで十分だった。


「ごちそうさまでした」

「やっぱりここの食堂のご飯は最高だな」


お腹も満たされ、心も満たされた。


「お勘定を頼む」


ネモが伝票を渡すと、店員はそのまま破り捨ててしまった。


「今日は私の奢り、お代は頂きません」

「それは悪い、いくら親友とはいえ」


ネモは食い下がるが、店員は頑なに拒む。


「いいの、いいの。

 今日はデートでしょ。

 そんなオシャレまでしちゃって。

 お代は楽しむのに使ってよ」

「しかし……」


信念を曲げない性格のようだ、おそらく代金は受け取らないだろう。


「それでは今度仲間を連れてここにまた来ます。

 その時はちゃんと払わせてください」


店員はそういうことだからとネモを出口まで追い出した。


「またきてね。

 今度はレウィシアちゃんとか、お仲間さんを連れてね」


ウィンクするとそのまま店へ戻っていった。


「いい人でしたね」

「いい奴なんだが、変わり者なんだよな」


ネモははにかむように微笑んだ。


自然と顔を見て会話ができるようになっていた。


店員が緊張を解いてくれたように感じた。


服屋までの道中は他愛のない会話をした。


「男嫌いは治った?」

「いや、多少はましになったが、やっぱりロイ以外の男は苦手だな」


獣人族や人間のまともな男性とも接する機会があり、多少は緩和したようだが、

まだ、ネモの男嫌いは解決していないようだ。


「そうだ、ロイ。

 今日は本当にすまなかった」

「えっ?」


突然ネモに謝られた。


「最初の方、まったく話せなくて。

 緊張しちゃって、頭の中が真っ白になったんだ。

 あまり普通の女の子として過ごすのに慣れてなくて……」


しおらしく肩を竦めてしまった。


今まで妹を守るため、生き残るために戦い続けていた。


「俺もあんまりこういうの慣れてなくて……

 フォローもエスコートもできなくてごめん」


俺も同じだった。


「あたしたち似た者同士だな」

「そうかもな」


顔を合わせて笑い合う。


しばらく歩き続け、服屋についていた。


「いらっしゃいませ!あら……」


店員と目が合った。


昨日とは違う女性を連れてきたせいか、視線が痛い。


「あたしの余所行きの服を買いに来た。

 彼は付き添いだ」

「あら、そうでしたか。

 それでしたらこちらのフロアになります。

 お連れの方とご一緒の方がよろしいでしょうか」

「いや、いい」


ネモもルナと同じく、当日に見せたいと、一人で選びに行った。


一人になってしまった。


「相変わらず服屋は暇だ……」


暇つぶしに俺はマネキンをじっくりと観察し始めた。


「これ新しい魔法に応用できないかなあ?」

「アーティの材質と似てるな……」


そんなことを考えながら、しばらく眺めていると。


「待たせた、行こうか」


手には袋を抱えていた。


「早かったな」

「ああ、一目惚れというか、一目で気に入るものがあってな」


とても良い買い物ができたようだ。


「またのお越しをお待ちしております!」


店員からの視線に気づかないふりをして退散する。


そのまま魔石車に乗って、帰路につく。


窓から夕焼けを眺めていた。


「どうした?あたしの顔をまじまじと見て」


いつものような口調だが、顔は真っ赤だった。


それは夕日よりも綺麗で鮮やかな色だった。


森の近くにつき、魔石車を降りる。


「ロイ!今日は本当に楽しかった」


ネモは喜んでくれていた。


「こちらこそ楽しかった」


一緒にいて心地よかった。


ネモは少し俯いて手を差し出した。


「なあ……森まで手を繋いでくれないか?」


怯えた子供のように震えているのに気付く。


「もちろん」


ネモの手を取り、繋ぐ。


手の震えは治まった。


ほんの数百メートルの距離であったが、ゆっくり時間をかけて歩いた。


ネモの手の温かさが伝わってくる。


剣を振るうその手は今俺の手を握っている。


度重なる鍛錬や戦いで傷つき、硬くなったその手が愛おしく感じる。


目的地につき、その手は離れる。


ネモは名残惜しそうに手を離した。


俺もまた、その温もりは忘れられそうになかった。

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