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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第八章 変異種ヒドラ
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アンティークドール

ネモと出かけた更に翌日。


本日はアーティと出かける日だ。


「お待たせシマシタ」


アーティがやってきた。


服装はいつものローブだった。


アーティにはお出かけ用の服を買ってあげるつもりでいる。


「よし、じゃあ行くか」


魔石車に乗らず徒歩で向かう。


アーティは食事から栄養を摂取できないため、

食事にはいかない予定を立てている。


人間国をこうして歩くのも久しぶりだった。


お尋ね者だった時期も長かったのと、

最近は魔石車での移動が多かったからだ。


「なあ、アーティ。

 その、姉妹の声は今も聞こえるのか?」


あの日のことは避けつつも遠回しに聞いてみる。


「そうデスネ……聞こえると言えば聞こえマス。

 聞こえないと言えば聞こえないデス」


哲学的な返しだった。


「ど、どういうことだ……?」

「彼女たちはワタシの一部みたいなものデス。

 なので干渉されることがあるのですが、それが彼女たちなのかワタシの意志なのかハッキリしなくなってマス」


詳しく聞くとアーティの人格に姉妹の人格が取り込まれたような感覚だという。


アーティの主人格の乗っ取りの懸念はないが、あの時の思いやこれからの思いがアーティだけのものか不確かになる。


前以上に人間らしい感情表現ができるようになっているが、手放しでは喜べなくなっていた。


そうこうしているうちに目的地である魔道具屋についた。


「すごいデス……」


アーティは興味津々に店内を見渡している。


「俺も初めて来たが、すごいところだな」


辺り一面に魔道具の数々。


「おや、初めて見る顔だね」


店主のおじさんが気怠そうな雰囲気で近づいてきた。


「まあ、ゆっくり見て行ってよ」


それだけ言うと奥に引っ込んで行った。


「一通り見て回るか」

「はいデス」


武器から防具、日用雑貨から、用途のわからないものまで取り扱っている。


俺は魔導銃に近いものが置いてあるか見るが、やはり扱いはない。


アーティは何から何まですべてに目を奪われているようだった。


店内を一通り見て回ると、魔法傀儡向けのコーナーを見つけた。


「ロイサマ、これはワタシ用のものデスカ?」

「そうみたいだな」


翼や魚のヒレのような拡張用のパーツ。


防御に特化したボディスーツのような入れ替えパーツ。


ドリルやロケット砲のようなものまである。


「かっこいいデス……」


アーティは目を離せずにいた。


「おや、珍しいね。

 魔法傀儡のパーツに興味があるなんて」


店主が物珍しそうにこちらに寄ってきた。


「実はワタシ、魔法傀儡なのデス」


アーティが球体関節の身体を見せる。


「な、なんだって!

 なんで魔法傀儡が自立して動いているんだ!」


店主は子供のように目を輝かせる。


魔法傀儡は魔力で操る魔道具の一種であり、自立するアーティは例外中の例外である。


「うわぁたまらん、このボディ」

「ロイサマ、この人やばいデス」


鼻息荒い店主にアーティがドン引きしてしまっている。


「店主さん、あんまり不埒な真似は控えて頂けると」

「いやあ、すまんすまん。

 すごい貴重なものを拝ませてもらって、つい興奮してしまった」


悪気は無さそうだが、多少は警戒すべきだろう。


「お詫びとして何か一つプレゼントするよ」

「アーティ、お言葉に甘えよう。

 どれが欲しい?」

「えっと……そうデスネ……」


アーティがしばらく悩んだ末に、翼のパーツを選んだ。


「まいどあり!

 兄ちゃん、お嬢ちゃん、また来てくれよな」


その後もいくつか魔道具を購入し、店を後にした。


「まあ、アレな人だったけど。

 良かったな、そのパーツ」

「はい、とてもかっこいいデス」


アーティの背中に既に装着してある。


森に帰ったら飛ぶところを見せてもらおう。


またしばらく歩くといつもの服屋につく。


「うっ……今日は何を言われることやら」


俺は表情が強張る。


アーティは不思議そうな表情で店に入った。


「いらっしゃいませ!

 お客様、本日はどういったご用件でしょうか?」


店員はいつもと変わらない表情だった。


俺はできるだけ目を合わせないようにする。


アーティは首を傾げている。


「彼女の礼服を買いに来たのと、それとお出かけ用の服も」

「ロイサマ!?」


アーティが声を上げた。


お出かけ用の服を買うとは伝えていなかった。


「アーティはお出かけ用の服持っていないだろ?

 前回の勝利祝いということで」

「はい……デス……」


アーティはしおらしい反応を見せた。


「とはいえ、俺服選びのセンスが壊滅的だからなあ……。

 店員さん、彼女に似合う服を見繕ってもらえませんか?」


極力目を合わせないように声をかけた。


傍から見れば恥ずかしい光景だろう。


「そうね……あなたは何か好みはあるの?」


店員はアーティに問いかける。


「いえ……ワタシもこの手の知識には疎いデス……」


アーティも自分の好みを分かっていなかった。


「そうですね、えっと……あなたは魔法傀儡ですか?」

「はい、そうデス」


おそらく球体関節の身体で気づいたのだろう。


店員が「それなら露出が殆どないものが良さそうかな」と呟く。


魔法傀儡の服を選ぶ機会はそうあるものではない。


かなり店員は苦心しているように思える。


「お待たせしました!こちらへどうぞ!」


アーティが店員に連れられて試着室に入って行った。


「一体どんな装いになったんだろう……」


店員の見立ては信用している。


柄にもなく緊張していた。


「ロイサマ……どうでしょうか……?」


試着室のカーテンが開くと、そこには精巧なアンティークドールのような少女が立っていた。


深い青を基調にしたドレスに、黒いレースや装飾が幾重にも重ねられている。


夜空を閉じ込めたような色合いだった。


腰元はコルセットで美しく締められ、幾重ものレースが静かに揺れている。


「こちらはゴシックドレスというものになります」


退廃的で神秘的な雰囲気に目を奪われた。


傀儡人形ならではの無機質さと寡黙な雰囲気が、その装いをより際立たせていた。


アーティのために存在すると言っても過言ではなかった。


「すごいな……綺麗だ……」


ファッションについて疎い自分でもこの凄さは分かる。


「は……恥ずかしい……」


いつもの語尾が無くなるくらい照れている。


「ですが……いざという時動きにくいのでは……」

「それがですね、実は取り外せまして」


そう言って店員がアーティの服を取り外す。


「ちょ、ちょっと!」


部分的とはいえ、目の前で脱がされる光景に、ロイは合わせて背を向けた。


「もう大丈夫ですよ」


店員に言われ振り返ると、先ほどとは打って変わり、動きやすい格好になっていた。


オーバースカートやレースケープを外し、装飾はぐっと少なくなった。


それでも神秘的な雰囲気は少しも失われていない。


「これがいいデス……」


アーティが俯きながらも意志の強い口調で言った。


他にもいろいろ試してはと言う雰囲気ではなかった。


「俺もそれがいいと思うよ」


アーティの顔がパッと明るくなったように感じた。


その後アーティは店員と礼服選びに行った。


礼服は他のみんなとの約束で当日見せるという話だからだ。


俺は上の空で外を見ていた。


アーティの美しさに見惚れていた。


自分がギャップに著しく弱いということを身をもって実感した。


「お待たせデス」


アーティが二つの袋を持ってやってきた。


表情はとても柔和に感じる。


あの姿が頭から離れない。


気付けば、アーティのことばかり考えていた。


他のみんなと優劣があるわけではない。


だが、アーティの良さに気付かされた一日だった。

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