迷い
翌日。
今日はルナと買い物に行く日だ。
「お兄ちゃんとデート!デート!」
前に出かける時に買ったセーラーワンピースを着ている。
スカートを翻してくるくる回っていた。
二人で出かけるのは久しぶりだった。
前と違うのは変身魔術を使わなくても良いところだ。
「まずは飯から行こうか」
今は昼前だが、町に着く頃にはちょうど良い時間になる。
「はーい!」
魔石車の運転手に声をかけて、乗車する。
「やっぱり魔石車は速いね」
「そうだな、俺もいつか運転できるようになりたいな」
魔石車は男としての憧れでもある。
魔力の制御が得意ではないため、今は乗りこなせないだろう。
想定より早く町に着いた。
「ルナ、何が食べたい?」
「んーとね、前食べたところで食べたいな」
「わかった、そこ行くか」
大衆向けのレストランへ向かう。
席についてメニューを開く。
「俺はこれにしようかな」
「ルナは前に食べたこれにする!」
注文を済ませると、五分もしないうちに料理が運ばれてきた。
「このお肉大好き!!!」
ルナが幸せそうに頬張る。
口元にはソースがべったりついていた。
「こらこら、はしたないぞ」
布で口元を拭ってやる。
「えへへ、ありがとう」
前と同じやり取りをしていた。
「そういえばルナは、やりたいこととか、欲しいものとかあるか?」
いつも頑張っているルナに、何かをしてあげたいと思っていた。
「うーん、そうだなぁ……」
珍しくルナが考え込む。
「学校に行ってみたいかも」
ルナくらいの年であれば学校に行くのが一般的である。
魔法や算術、歴史などを学び、友達と遊び、部活動に勤しむ。
年頃の子と同じことに憧れがあるようだ。
「学校か、なるほどな」
比較的周囲が落ち着いてきたし、検討すべきかもしれない。
「学校で何がしたいんだ?」
「えっとね、みんなと勉強して、みんなと遊びたいの」
ルナは同い年の友達が少ない。
カトレアの妹のシランさんくらいだ。
同い年の子たちと仲良くしたいと思うのは当然のことだろう。
「ちょっと色々と聞いてみるよ」
食事を済ませた後は、服屋へ向かう。
「いらっしゃいませ!!!!」
明るく元気な声で挨拶をされる。
「うっ……」
前にルナの服を買った時の店員だった。
俺はこの圧のある接客が苦手だった。
「こんにちは!」
ルナも元気に挨拶を返す。
「あら可愛い子ね、それにその服!」
ルナのセーラーワンピースに目ざとく気付く。
この店で買ったものだからだろうか。
「今日は何をお探しでしょうか?」
距離を詰められる。
俺はたじろぐが、ルナは気にも留めない。
「国王の即位式に呼ばれているので、この子の礼服を買いに来ました」
「国王陛下の即位式ですって!
それは大変、うちにあるものの中でも特に良いものを見繕わなくっちゃ」
店員はルナの手を取ると、奥の方で連れて行ってしまった。
「ふぅ……ようやく解放された」
俺は一息つく。
店の中をぶらつきながら、服を見る。
生きるので精一杯だった時期が長かったので、服装にこだわる余裕がなかった。
「これ良さそうだな……あ、これもいいな」
自分が気になった服を列挙していく。
「うわぁ、全部黒色だ」
悲しきかな、俺にセンスと呼べるものはないようだった。
「お待たせ!」
しばらくすると袋を持ったルナが戻ってきた。
「それに決めたのか?」
「うん、当日まで秘密」
店員に声をかけて、代金を払う。
「そういえば、お二人は恋人でしょうか?」
「さて、どうでしょう?」
ルナが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
否定も肯定もしない。
「どうですかね?」
俺もルナに合わせてはぐらかす。
「あらあら。
それではまたのお越しをお待ちしております!」
店員には含みのある表情でお見送りをされ、店を後にする。
ルナは大事そうに袋を抱えている。
「気に入ったものが買えたみたいだな」
「うん!いっぱい可愛いのがあって迷っちゃった」
魔石車に乗って、帰路につく。
疲れたのかルナはうとうとしている。
今日わかったことは、ルナは学校への憧れがあるということだ。
叶えてあげたいが、学校について詳しくない。
今度誰かに聞いてみるかと考えていると、森の近くについた。
「ルナ、ついたよ」
「ふぁぁぁ……お兄ちゃんおはよう」
寝ぼけたルナの手を引きながら家へ帰った。
その夜、俺はまた眠れないでいた。
ルナは俺に好意を持っているのは間違いない。
だが、好意の形はわからなかった。
兄の代わりなのか、異性としてなのか。
言葉通りに捉えるなら兄の代わりだろう。
でも、そう決めつけてはいけないような気がしていた。
「よく考えると、他のみんなとも同じ店に買い物に行くんだよな」
また勘違いされるんだろうか。
店員の反応が気になってしまう。
「うーん、ダメだ、外の空気を吸いに行くか」
考えすぎるのが俺の悪い癖だ。
一度頭を切り替えて、他のことに集中すべきだ。
ルナとアーティを起こさないように静かに家を出る。
今日は森を巡回している。
ヒドラはこの森で封印を解かなければならない。
その時少しでも優位に戦えるよう、場所の選定が必要だった。
「ここは木が密集しすぎている」
ヒドラは火を噴くため、延焼しそうな場所は避けなくてはいけない。
「消火できる水源から遠いな」
水属性の魔法だけではまかないきれないため、
水源にも近い場所が理想だ。
「結界に近すぎるな……」
絶対条件として森の外へヒドラを出すわけにはいかない。
そのため、結界から遠い場所である必要がある。
なかなか厳しい条件が付きまとう。
巡回すること一時間。
「お、ここは条件に何とか合致してそうかな」
条件を何とか満たす場所が見つかった。
「ちょっと弄る必要はありそうだけど、ここで決めるか」
ヒドラの封印を解く場所は決まった。
後は戦術を考えるのみだ。
「たくさん歩いたからか、眠気がきたみたいだな」
欠伸を一つすると、家に戻る。
空を見上げると昨日よりまた少し欠けた月。
刻一刻と迫る仇との再戦。
正直心は虚無だった。
待ちわびるでもなく、かと言って気も乗らなかった。
封印は解かなければならない。
だが、本当に倒すべきなのか。
国王の話を聞いた後だからだろうか。
ソルヌに行った時にふと心によぎったことがある。
みんなを殺したのはヒドラで間違いない。
ただ、暴走はヒドラの意志なのだろうか。
人間国に操られていたのではないか。
国王の話を聞いた後、今更になって思ってしまった。
「俺って本当に中途半端だな……」
心の整理をつけるために行ったことで、余計に心が乱れてしまっている。
自問自答を繰り返しながら、就寝するのであった。




