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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第八章 変異種ヒドラ
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迷い

 翌日。

 今日はルナと買い物に行く日だ。


「お兄ちゃんとデート!デート!」


 前に出かける時に買ったセーラーワンピースを着ている。

 スカートを翻してくるくる回っていた。

 二人で出かけるのは久しぶりだった。

 前と違うのは変身魔術を使わなくても良いところだ。


「まずは飯から行こうか」


 今は昼前だが、町に着く頃にはちょうど良い時間になる。


「はーい!」


 魔石車の運転手に声をかけて、乗車する。


「やっぱり魔石車は速いね」

「そうだな、俺もいつか運転できるようになりたいな」


 魔石車は男としての憧れでもある。

 魔力の制御が得意ではないため、今は乗りこなせないだろう。

 想定より早く町に着いた。


「ルナ、何が食べたい?」

「んーとね、前食べたところで食べたいな」

「わかった、そこ行くか」


 大衆向けのレストランへ向かう。

 席についてメニューを開く。


「俺はこれにしようかな」

「ルナは前に食べたこれにする!」


 注文を済ませると、五分もしないうちに料理が運ばれてきた。


「このお肉大好き!!!」


 ルナが幸せそうに頬張る。

 口元にはソースがべったりついていた。


「こらこら、はしたないぞ」


 布で口元を拭ってやる。


「えへへ、ありがとう」


 前と同じやり取りをしていた。


「そういえばルナは、やりたいこととか、欲しいものとかあるか?」


 いつも頑張っているルナに、何かをしてあげたいと思っていた。


「うーん、そうだなぁ……」


 珍しくルナが考え込む。


「学校に行ってみたいかも」


 ルナくらいの年であれば学校に行くのが一般的である。

 魔法や算術、歴史などを学び、友達と遊び、部活動に勤しむ。

 年頃の子と同じことに憧れがあるようだ。


「学校か、なるほどな」


 比較的周囲が落ち着いてきたし、検討すべきかもしれない。


「学校で何がしたいんだ?」

「えっとね、みんなと勉強して、みんなと遊びたいの」


 ルナは年の近い友達が少ない。

 ルナより年下の、カトレアの妹のシランさんくらいだ。

 近い年頃の子たちと仲良くしたいと思うのは当然のことだろう。


「ちょっと色々と聞いてみるよ」


 食事を済ませた後は、服屋へ向かう。


「いらっしゃいませ!!!!」


 明るく元気な声で挨拶をされる。


「うっ……」


 前にルナの服を買った時の店員だった。

 俺はこの圧のある接客が苦手だった。


「こんにちは!」


 ルナも元気に挨拶を返す。


「あら可愛い子ね、それにその服!」


 ルナのセーラーワンピースに目ざとく気付く。

 この店で買ったものだからだろうか。


「今日は何をお探しでしょうか?」


 距離を詰められる。

 俺はたじろぐが、ルナは気にも留めない。


「国王の即位式に呼ばれているので、この子の礼服を買いに来ました」

「国王陛下の即位式ですって!

 それは大変、うちにあるものの中でも特に良いものを見繕わなくっちゃ」


 店員はルナの手を取ると、奥の方で連れて行ってしまった。


「ふぅ……ようやく解放された」


 俺は一息つく。

 店の中をぶらつきながら、服を見る。

 生きるので精一杯だった時期が長かったので、服装にこだわる余裕がなかった。


「これ良さそうだな……あ、これもいいな」


 自分が気になった服を列挙していく。


「うわぁ、全部黒色だ」


 悲しきかな、俺にセンスと呼べるものはないようだった。


「お待たせ!」


 しばらくすると袋を持ったルナが戻ってきた。


「それに決めたのか?」

「うん、当日まで秘密」


 店員に声をかけて、代金を払う。


「そういえば、お二人は恋人でしょうか?」

「さて、どうでしょう?」


 ルナが悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 否定も肯定もしない。


「どうですかね?」


 俺もルナに合わせてはぐらかす。


「あらあら。

 それではまたのお越しをお待ちしております!」


 店員には含みのある表情でお見送りをされ、店を後にする。

 ルナは大事そうに袋を抱えている。


「気に入ったものが買えたみたいだな」

「うん!いっぱい可愛いのがあって迷っちゃった」


 魔石車に乗って、帰路につく。

 疲れたのかルナはうとうとしている。

 今日わかったことは、ルナは学校への憧れがあるということだ。

 叶えてあげたいが、学校について詳しくない。

 今度誰かに聞いてみるかと考えていると、森の近くについた。


「ルナ、ついたよ」

「ふぁぁぁ……お兄ちゃんおはよう」


 寝ぼけたルナの手を引きながら家へ帰った。



 その夜、俺はまた眠れないでいた。

 ルナは俺に好意を持っているのは間違いない。

 だが、好意の形はわからなかった。

 兄の代わりなのか、異性としてなのか。

 言葉通りに捉えるなら兄の代わりだろう。

 でも、そう決めつけてはいけないような気がしていた。


「よく考えると、他のみんなとも同じ店に買い物に行くんだよな」


 また勘違いされるんだろうか。

 店員の反応が気になってしまう。


「うーん、ダメだ、外の空気を吸いに行くか」


 考えすぎるのが俺の悪い癖だ。

 一度頭を切り替えて、他のことに集中すべきだ。

 ルナとアーティを起こさないように静かに家を出る。


 今日は森を巡回している。

 ヒドラはこの森で封印を解かなければならない。

 その時少しでも優位に戦えるよう、場所の選定が必要だった。


「ここは木が密集しすぎている」


 ヒドラは火を噴くため、延焼しそうな場所は避けなくてはいけない。


「消火できる水源から遠いな」


 水属性の魔法だけではまかないきれないため、

 水源にも近い場所が理想だ。


「結界に近すぎるな……」


 絶対条件として森の外へヒドラを出すわけにはいかない。

 そのため、結界から遠い場所である必要がある。

 なかなか厳しい条件が付きまとう。


 巡回すること一時間。


「お、ここは条件に何とか合致してそうかな」


 条件を何とか満たす場所が見つかった。


「ちょっと弄る必要はありそうだけど、ここで決めるか」


 ヒドラの封印を解く場所は決まった。

 後は戦術を考えるのみだ。


「たくさん歩いたからか、眠気がきたみたいだな」


 欠伸を一つすると、家に戻る。

 空を見上げると昨日よりまた少し欠けた月。

 刻一刻と迫る仇との再戦。

 正直心は虚無だった。

 待ちわびるでもなく、かと言って気も乗らなかった。

 封印は解かなければならない。

 だが、本当に倒すべきなのか。

 国王の話を聞いた後だからだろうか。


 ソルヌに行った時にふと心によぎったことがある。

 みんなを殺したのはヒドラで間違いない。

 ただ、暴走はヒドラの意志なのだろうか。

 人間国に操られていたのではないか。

 国王の話を聞いた後、今更になって思ってしまった。


「俺って本当に中途半端だな……」


 心の整理をつけるために行ったことで、余計に心が乱れてしまっている。

 自問自答を繰り返しながら、就寝するのであった。

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