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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第八章 変異種ヒドラ
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誠意

 俺は一人で町に繰り出していた。

 気持ちの整理のため。

 そして、ソルヌへの墓参りのために。


 仇の一端であった国王は死んだ。

 それはもうどうすることもできない。

 だが、手の甲に浮かぶ紋章。

 変異種ヒドラを封印した時のものだ。

 依頼の報酬で封印を解く魔道具を手に入れた。

 それにより再び変異種ヒドラを復活させて、この手で葬る。

 それが俺ができる唯一の敵討ちだった。


 しばらく歩き、ソルヌへ着く。

 相変わらず荒廃してしまっている。

 魔物が暴れた痕跡が所々に残されていた。

 墓標もかなり朽ちてきている。


「墓標も綺麗にしてあげないとな……」


 供え物を置いて、俺も地面に腰掛ける。

 周りを見渡しても、あの頃の面影はない。

 ただ、空を見上げれば、あの頃と変わらない青空が広がる。

 いつもの日課として、墓標一つ一つに語りかける。


「アインさん、俺みんなに頼られるくらい強くなったよ……」


 アインさんのように強くなりたいと思っていた。

 ただ、どれだけ強くなっても、もう追いつくことはできない。


「ゲイルさん、頭を使った戦いでいくつか戦果を挙げたよ……」


 ゲイルさんからは常に頭を使って戦うよう叩き込まれてきた。

 そのおかげで勝てた戦いは少なくない。

 ギルドのみんなにもそれぞれ語りながら手を合わせる。


 そして最後にアンジェさんの墓標の前に来た。

 いつものように百合の花を置く。


「アンジェさん、いつも守ってくれてありがとう。

 ペンダントのおかげで今日まで生きられてるよ」


 俺は懐からコードだけになった首飾りを取り出した。

 この首飾りに命を救われた。


「それに守りたい人たちができたよ」


 家族のように愛してくれたアンジェさんに伝えたかった。

 家族のように大事な人ができたこと。

 しばらく、他愛もないことを話した。

 心の中の蟠りが少し解けた気がした。

 立ち上がると墓標に向けて頭を下げる。


「また来ます」


 俺はソルヌを後にした。



 その後は、獣人国をぶらついていた。

 獣人の人間に対する目も変わったように感じる。

 人間に恨みがある獣人はまだまだ多いだろう。

 実際、ルナとアーティと三人で来た時のように、

 人間国に家族を殺された者は大勢いる。


 だが、諸悪の根源であった人間国の国王が倒れた。

 それに俺たちの姿を見て考え方を改めた人も多いという。

 世界は少しずつ変わっている。


「やあ!ロイ殿、ご無沙汰してるね」

「総司令官!ご無沙汰しております」


 獣人国軍の総司令官のヴァルさんに声をかけられた。


「総司令官は、お身体は大丈夫でしたか?」


 魔物との闘いで、戦場にいた生存者は皆、重傷を負っていた。


「ああ、獣人の回復力は種族一だからな。

 国王陛下も簡単な雑務くらいならこなせるほどに回復しているよ」


 ヴァルさんだけではなく獣人国国王も元気になられたようだった。


「それと総司令官は堅苦しいぞ、ヴァルと呼んでくれ」

「そんな!恐れ多い。

 せめて今はヴァルさんとさせてください!」


 やはり目上の人との接し方がよくわからない。

 俺には社会経験が圧倒的に不足していた。


「せっかくここで会えたのだし、奢るから飯でも食いに行くか」

「はい、お供します」


 色々な話を聞かせてもらった。

 ヴァルさんが若いころの話は特に新鮮だった。

 俺が一度死んだ戦争の顛末など知らない情報も聞くことができた。


「すまんな、俺ばかり話してしまって」

「いえ、とても貴重なお話が聞けて良かったです」


 本心から感謝していた。

 世の中には知らないことがたくさんある。

 だからこそ、一つでも多く知ることができるのは嬉しかった。


「そういえば、君はたくさんの美少女に囲まれて暮らしているけど、誰かと進展とかあったのか?」


 突然の質問に飲んでいた水を噴き出しそうになる。


「な、なんですが突然」

「いや、気になるだろ普通」


 少し考えて答えた。


「誰かと付き合ったりはしてないですね。

 みんなが俺に対して好意を持ってくれているのは知っていますが、特別一人を選んだりはできないですね」


 ヴァルさんが複雑な表情をしている。


「好みじゃないのか?」

「そんなことはありませんよ!全員それぞれ違った魅力がありますし。

 そこらの人なんかと比べ物にならないくらい美少女だと思います」


 結構恥ずかしいことを口にした気がする。

 改めて思えば本当に恵まれた環境なんだと思う。


「なんだ?もしかしてその手の欲求はないんか?」

「俺も男なので多少はありますが、人よりは結構弱めですかね。

 何より心に余裕が無いことが多かったので」


 実際、その手の欲求を強く感じることはあまりなかった。


「なるほどな。

 そうじゃなきゃ、今の関係性は破綻してるわな」

「……かもしれませんね」


 ヴァルさんが考え込む。


「まあ、その手の欲求を満たそうとしなくても、婚姻を結ぶのはありだと思うぞ。

 獣人国も人間国も法律で重婚は禁止されていないからな」


 確かに王族や貴族の一部は一夫多妻制や多夫一妻制の場合がある。


「それは王族とか貴族だからじゃないですか?」

「いや、それは違う。

 身分は関係ない。

 ただ、養えるか養えないか、それだけだ」


 一般市民は生きるだけで精一杯だ。

 だから王侯貴族だけのものだと思っていた。


「でも、それは不誠実では?」


 一般市民として育った価値観からすると、不貞行為のように感じてしまう。


「不誠実?それは違うな。

 なら相手の気持ちに真摯に応えず、なあなあで済ませるのが誠実か?

 もちろん一人を選び、他を振るのが最大限の誠実だろう。

 だが、一人に決めずに全員を平等に愛することもまた、誠実だと思うがな」


 大人の言葉が胸に染みる。

 今のまま何事もなく暮らすつもりでいたからだった。


「全員を平等に愛する器量がないなら、愛せるようになれ。

 好きになった女を全員支えられるように強くなれ。

 今できなくてもいずれできるようになれば良いさ」


 ヴァルさんの表情は優しかった。

 ヴァルさんも後悔した側の人間だったからこそ、心に響いた。


「ヴァルさん、ありがとうございました」

「いや、俺も自分を振り返るきっかけになったよ」


 ヴァルさんと別れて帰路につく。

 みんなが今まで俺に好意を寄せてくれていたことは気付いていた。

 それに対して真摯に向かい合えていたかと言えば、そうではなかった。

 もちろんすぐに受け止めることはできないだろう。

 だが、それに対して少しずつ向かい合っていかなければと思った。


 最終的に一人に決めるのか、全員を愛するのかは分からない。

 それでも、いつか胸を張って答えを出せる男にならなければと胸に誓った。

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