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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第八章 変異種ヒドラ
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遺恨とこの先

魔物事件から数日が経過した。


平和な日常が戻ってきた。


「ロイサマ、お茶をどうぞデス」

「ああ、ありがとう」


アーティは俺を名前で呼ぶようになった。


「ふーん?」


レウィシアさんがニヤニヤしながら寄ってきた。


「なんだよ!」

「別にぃ~。何があったかは知らないけどね?」


レウィシアさんは俺とアーティを見比べる。


明らかに何か気付いている反応だった。


「お姉ちゃんもカトレアちゃんも薄々気付いてるよ」


カトレアとネモが遠くからこちらをチラチラ見ている。


どこか落ち着かない様子だ。


「まあ、名前の方が良いよ。

 主従関係みたいなのはあまり好きじゃないし。

 魔法傀儡じゃなくて一人の人として接しやすいし」


実はマスターという呼び方に引っ掛かりはあった。


その呼び方一つで対等ではないように感じられたからだ。


「ルナもお兄ちゃんのこと、ロイくんって呼んだ方がいいかな?」

「名前で呼びたいならいいけど、そうじゃないなら今のままが良いかな」


ロイくん、と呼ばれると逆に距離が遠のくようであまり好ましくなかった。


ルナは人を呼び捨てで呼ぶのが苦手で、どうしても君さん付けになってしまう。


「わかった!ルナはお兄ちゃんはお兄ちゃんって呼び続けるよ」

「そうしてくれた方が嬉しいかな」


最近張り詰めた空気であることが多かった。


久しぶりにゆるい時間を過ごせている。


その時、森へフードの男が訪ねてきた。


「どうも久方ぶり。

 調子はどうさ?」


あくまで王子としてではなく、商人として訪ねてくる。


「調子はまあ普通かな」


訪問理由は報酬の受け渡しだろう。


場所を変えて、フードの男と二人きりになる。


「この度は依頼の完遂感謝するさ」


人間国内戦への協力依頼を受けていた。


魔物の件で色々あったが、有耶無耶にはしないところは信用している。


「報酬の金貨と、魔道具さ」


袋には大量の金貨。


そして、鍵のような見た目の魔道具。


「使い方を説明するさ。

 まず、鍵に魔力を流し込む。

 そうすると鍵が光るさ。

 光ったら封印した場所に当てて錠を開けるように動かすだけさ」


複雑な方法は必要なさそうだ。


これで一旦報酬はすべて受け取った。


「国王はどうなったんだ?」

「国王は死んでいたさ。

 魔力が完全に枯渇して……

 骨と皮だけの状態で発見されてね」


因果応報ではあるが、フードの男は言い淀む。


恨みつらみはあれど、肉親であることには変わりない。


「そんな状態にも関わらず、表情は穏やかだったさ。

 あの顔を見るのは、王妃が亡くなる前の、より良き国王の頃以来さ……」


フードの中身は隠蔽されていて、表情は見えない。


だが、悲しみに暮れているのは声でわかった。


「そういえば、国王の亡骸に瘴気のような淀んだ魔力の残滓が確認されたさ」


あまりに微量だったためすぐに消滅してしまったそうだ。


「じゃあ国王が人が変わったようになったのは、瘴気の影響?

 だとしたらあそこまで長生きできるはずが」

「仮説にはなってしまうけど、国王は稀代の戦闘の天才と呼ばれるくらいに強かったさ。

 強靭な精神力で、僅かな瘴気くらいなら抑え込めるほどには。

 ただ、王妃が亡くなった際の心の揺らぎで、瘴気を受け入れてしまったのだろうさ」


瘴気については未知な部分が多い。


「じゃあ瘴気が無くなったって言うのは……」

「捕らえた側近から聞いた話だけど、国王はあの魔物を隷属魔術で縛っていたさ。

 そこで魔力がリンクしていて、魔物が倒されたタイミングで消滅した線が強いさ」


情報の断片が今、一本の線に繋がった。


少女は国王に隷属魔術で操られていた。


それで月光の森や獣人国を襲ったのだろう。


そして魔力が繋がっていたから、思念も少女の中へ移っていたのか。


「そろそろお暇させて頂くさ。

 あーそれと、来週国王の即位式があるから、良ければお越しいただきたいさ」


国王亡き今、王子が新しく国王に即位することが確定している。


「だけど俺たちはお尋ね者の身だぞ」

「そんなのもう撤回済みさ、自由に人間国に出入りしても問題ないさ」


フードの商人は去っていった。


「そうか……国王は死んだか……」


やり場のない感情が燻っている。


ソルヌをヒドラで襲わせ、アンジェさんたちを殺したこと。


それ以外にも数々の悪行を尽くした。


今ここにいるみんなも死んでいたかもしれない。


それらの清算をすることないまま、穏やかに逝ったのだ。


「ロイさん、なんか怖い顔してどしたの?」

「どうかしたのか?あの王子に何か言われたのか?」


レウィシアさんとネモがこちらに駆け寄ってくる。


「ああ、人間国の国王が死んだそうだ」

「そうなんだね」

「そうか、死んだか」


レウィシアさんとネモは複雑そうな表情をしている。


二人は人間国の国王に実質殺されかけている。


恨みこそあるが、人の死を手放しで喜ぶような性格はしていない。


「そうか……」


カトレアの耳にも入っていた。


カトレアこそ人間国には酷い目に遭わされている。


戦争で同胞が多数犠牲になり、自身も奴隷として捕らえられている。


それでもやはり人の死を喜ぶ気にはなれないのだろう。


結界の外を見ると、現体制の崩壊を喜ぶ祭りが開かれていた。


外の賑わいとの対比に、何とも言えない気持ちになった。


「あーそれと新しい国王から即位式の出席を頼まれた。

 ドレスコードに合う服が無いと思うから買いに行こう」


空気が重くなってしまったため、話を変えた。


手に持った金貨の袋を掲げる。


「やった!」

「約束だったからな」

「そうだったね」

「な……!?私は初耳だぞ」

「ワタシも良いのデスカ?」


全員が声を上げた。


「もちろん全員分だよ」


「「「「「やったー!」」」」」


仇である国王は亡くなった。


だが、まだ俺の中の遺恨は消えていない。


いつか気持ちに整理をつけなければならない。


復讐ではなく、今を生きるため、俺は新たな一歩を踏み出そうとしていた。

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