心を一つに
おびただしい魔力が嵐のように渦巻く。
まるで少女の心のように荒れ狂う。
少女の背中が光り輝き、魔力が翼の形に具現化した。
まるで死を司る天使のようだった。
動きに魔物の時のようなぎこちなさはなくなっている。
キメラの身体は足枷でしかなかった。
解放された今、桁違いの魔力を帯びている。
「第二形態だと……」
満身創痍の獣人国国王が項垂れる。
その目には戦意は残されていなかった。
「私たちはなんてものを生み出してしまったのだ……」
ボロボロになったペルシカさんが膝をつく。
実験の関係者なのだろう。
自責の念に苛まれているようだった。
「《大火球》!」
兵士の生き残りの一人が魔法を詠唱する。
少女に向かって火球が放たれた。
しかし、火球は少女に届くことはなかった。
羽虫を払うかのように魔力に振り払われる。
それを見て完全に心が折れてしまったのだろう。
生き残った人たちも次々に崩れ落ちていく。
後ろではみんなが起き上がるところだった。
「ロイ!その背中!」
背中の傷に気付いたネモが叫ぶ。
「お兄ちゃん……」
「まさか私たちを庇った時に」
「マスタ……」
俺の背中の傷を見て、みんなが心配そうに声をかける。
「大丈夫だ。
命には別状はない」
とはいえダメージはかなり大きく、立っているのがやっとだった。
「それより、彼女をどうにかしないと」
目を向けると、少女はおもむろに指から魔力の光を放つ。
それは千切れた魔物の胴体の部分に当たる。
音もたてず消えてなくなった。
文字通り消滅したのだ。
「あんなのに当たったらただじゃ済まないぞ……」
竜人国軍の司令官はガタガタ震え出す。
恐怖からか顔が真っ青だった。
それからも少女は魔力を暴発させ、無差別に解き放つ。
魔道具や、軍旗などが蒸発したように消え去る。
もはや人智を超えた力だった。
戦えるような者は誰一人いない。
誰もが脅威を前に絶望している。
「マスター。
あの子とても苦しそうデス」
そんな中一人、違う観点で少女を見ていた。
言われて少女の顔を見る。
「……そうだな」
無表情のように見えて、わずかに苦悶の表情を浮かべているように感じた。
無表情の中に垣間見えるわずかな感情を見せるアーティと過ごしてきて、人一倍敏感になっている。
顔を滴るように流れる魔力が、落涙を現すかのようにも錯覚する。
「本当だね……。
あの子辛そうだし、悲しそう」
ルナも気づいているようだった。
「すまない、あたしには無表情にしか見えない」
「私もだ」
ネモとカトレアは悔しそうだった。
「マスター。
ワタシはあの子を救いたいデス」
アーティが真剣な表情でこちらを見る。
核の中の記憶が姉の苦しみに呼応したからなのか。
感情を表現できないシンパシーなのかは定かではない。
だが、確実にアーティの中に少女を救いたいという強い意志がある。
「もちろんだ、俺も彼女のことを救いたい」
人として扱われず、最後には戦地で戦わされる。
転生前の俺の最期と重なった。
他人事だとはとても思えなかった。
アーティと俺、二人の心が一つになる。
その時、アーティの核が光り輝く。
無意識に俺とアーティは口が開いていた。
「「《合体》!」」
二人の周りで魔力の奔流が起こる。
「なにが起こってるの!?」
ルナが狼狽える。
「ルナ!危ない」
ネモがルナを抱きかかえて飛び退く。
少女もこちらに気付いて魔力の光線を放つ。
「ロイ!アーティ!」
攻撃態勢に入った少女に気付いたカトレアが声を上げる。
光線は奔流に弾かれる。
「光線を防いだ!?」
ネモが慄く。
魔力の奔流が収まると一人の少女が立っていた。
「……アーティちゃん?」
ルナが自信なさげに呟く。
そこに立っていたのは確かにアーティだった。
ただ、決定的にアーティと異なるところがある。
まず手足が傀儡特有の球体関節ではなかった。
顔や身体の無機物さはなくなり、人にしか見えなくなっている。
自分の手を触ってみる。
柔らかい。
それに温かさも感じる。
呼吸をしている。
魔力で制御せずとも、意識だけで手足を動かせる。
人間なら当たり前のことに、アーティは感動していた。
『これが人間なのですね』
いつものカタコトではなく、自然な口調が出ていた。
自然と笑みがこぼれる。
今、お互いの心が繋がっている。
心の声が流れ込んでくる。
仲間を思う優しさ。
人として生きたいという願い。
傀儡である自分への諦め。
誰にも言えなかった罪悪感。
数え切れないほどの感情が胸へ流れ込んできた。
『アーティは本当に優しい子だな……』
どこまでも他人本位で純粋だった。
『マスターの心も、温かいです』
アーティも俺の気持ちを感じ取ったのだろう。
なんだか恥ずかしい。
アーティも同じ気持ちだったよという声が聞こえてきた。
『それに、とても傷ついていました』
そういうとアーティが俺を抱きしめた。
心の中だから物理的な接触ではない。
それでもアーティのぬくもりを感じて身を委ねてしまう。
その瞬間、核に残された記憶が一瞬垣間見える。
優しく笑う少女。
手を取り、一緒に魔法を練習していた。
景色が暗転する。
少女が泣きながらこちらへ手を伸ばす。
再び景色が暗転する。
少女が魔石を抱き締め、涙を流していた。
――その少女は。
今、俺たちの前で空に浮かぶ少女だった。
アーティも同じ記憶を見ている。
胸に流れ込む感情が、それを確信させた。
その時、核に魔力が集まり始める。
アーティの身体から溢れた魔力が、その身を覆っていく。
その魔力は少女の者に匹敵する。
「よし!行こう、彼女を救うために」




