違和感の正体
作戦の伝達が終わった。
合図があり次第実行される。
俺たち魔法兵は魔法で魔物を一定の位置まで誘導する。
それだけを伝えられた。
「誘導って言っても何をするんだか」
最初のような罠が仕掛けてあるわけでもない。
誘導してどうなるのか見当もつかなかった。
「わかんないけど、頑張るぞ!」
ルナは少し休んで元気になったようだ。
「あたしたちも合流するぞ」
「すまない、遅くなった」
医療班の手伝いに行っていた、ネモとカトレアも戻ってきた。
再び兵士たちに緊張が走る。
これが最後のチャンスだということを実感しているのだろう。
「作戦開始!」
司令官が手を挙げ号令を発した。
「《大火球》」
「《土石流》」
「《大水球》」
「《疾風の刃》」
兵士たちが一斉に詠唱を行い、各属性の魔法が飛び交う。
「「《大火球》!」」
俺とルナもそれに続く。
「グオオオオオオオ!」
デバフが効いているため、魔法を嫌がる素振りを見せる。
攻撃を回避しようと飛び上がる。
目標地点へと少しずつ近付く。
「撃ち方やめ!」
司令官の号令で魔法攻撃を止める。
攻撃が止んだことで魔物の胴体から蛇の頭が現れた。
反撃のブレス攻撃が放たれる。
吐き出された炎を膨大な魔力が包み込む。
炎は圧縮され、一つの巨大な火炎弾へと姿を変えた。
「今だ!」
「障壁展開!」
竜人国軍が障壁を展開する。
障壁がブレスを完全に受け止めて粉砕した。
「作戦失敗!」
「力の加減をしくじった!」
だが、前方からは作戦失敗の報が飛び交う。
「どういうことだ?」
攻撃は文句なしに受け止めたはず、それなのにどうして失敗になるのか。
まだ作戦の全容が攫めていない。
魔物は再び飛び上がり、目標地点から離れてしまった。
「すまない、時間をくれ。
竜人国軍から微調整が必要だと伝達がきた」
再挑戦は可能なようだ。
「何をしようとしてるのだろうか」
「さあ、難しいことはあたしはわかんね」
カトレアとネモもわからないようだった。
待っている間、周囲を見渡す。
魔力ポーションの空容器が大量に積みあがっている。
在庫はもう数えられるほどしか残っていない。
再挑戦ができるのも後一回が限度だろう。
その時。
「マスター、皆サマ、ワタシもこちらに合流させていただきマス」
アーティがこちらへやってきた。
「医療班はいいのか?」
「ハイ、大丈夫デス。
シアサマがほとんど捌き切ったとおっしゃってマシタ」
一時的に戦闘を止めているため、手すきになったようだ。
「わーい!アーティちゃんも頑張ろうね!」
ルナがパッと笑顔になった。
釣られて周りの士気も高まったように感じる。
竜人国の遣いが走ってきて、獣人国の司令官と話している。
一通り話し終えた後、司令官がこちらを向いて。
「皆の者!再び構えにつけ!」
その一言でピシっと空気が引き締まる。
「よし、やろう!」
「うん!」
「はいデス!」
俺の掛け声にルナとアーティも続く。
「よっしゃあ!フォローは任せろ」
「私たちも頑張ります!」
ネモとカトレアも構える。
しばらくの沈黙の後。
「作戦開始!!!」
司令官の号令がかかる。
「《大火球》」
「《土石流》」
「《大水球》」
「《疾風の刃》」
兵士たちが再び一斉に魔法を詠唱する。
デバフが弱まっているのか、いくつか旋回で回避される。
「「《豪炎球》!」」
それを見て、俺とルナは大火球から豪炎球に切り替えた。
豪炎球を魔物は身体を捩らせて回避する。
被弾をさせることはできなかった。
だが、少しずつ目標地点には誘導できている。
「まだまだ!」
「うおおおおおお!」
兵士は何度も何度も魔法を放つ。
「俺たちも負けられないな!」
「そうだね!!!!」
俺たちも負けじと豪炎球を放つ。
ルナは息が上がりきっている。
この作戦が限界だろう。
「グオオオオオ!」
魔物の位置が目標地点と重なる。
「撃ち方やめ!」
号令で一斉に魔法を止める。
デバフをかけた後、魔物は一定の行動パターンで動いている。
攻撃を受けている際は回避に専念。
攻撃が止んだら反撃に出る。
今回も攻撃を止めた瞬間、胴体から蛇の頭が現れた。
口が開き、ブレスが放たれる。
例に漏れず今回も火炎弾に姿を変えている。
「今だ!」
「障壁展開!」
障壁は火炎弾を防ぎきれず、軌道を逸らしただけに終わる。
結果としては先ほどより悪化している。
だが――
逸れた火炎弾をまた別の障壁が受け止め、軌道を逸らす。
それにより火炎弾は魔物に向かう。
「そうか!そういうことか!」
俺はようやく作戦の狙いに気付く。
「グオオオオオオ!!!!」
自らが放った火炎弾の直撃を受け、魔物が吹き飛ぶ。
そのまま地面に叩きつけられた。
「ハハッ!作戦はうまくいったようだな」
ペルシカがニヤリと笑った。
魔物の四肢は千切れ、バラバラとなっていた。
魔物は動かない。
呼吸も感じられない。
「よっしゃあ!!!!!!!」
「勝ったぞ!!!!!!!!」
兵士たちが雄叫びを上げた。
「我らが英雄の脚を回収せよ!」
竜人国軍が死体の回収に向かう。
「やった!倒した!」
ルナが両手を上げる。
「すごいデス!」
「おお、勝ったんだな!」
「すごいな……」
アーティもネモもカトレアも感嘆する。
「勝ったのか……?」
実感が湧かなかった。
あまりにもあっけなかった。
これだけの戦力なら倒せても不思議ではない。
だが、それでもどこか腑に落ちなかった。
実際に戦ったからこその感覚なのか、違和感を感じた。
「俺の気のせいならいいんだが……」
勝利に水を差すつもりはない。
ここまま歓喜の輪に加わろうとしたその時だった。
魔物の胴体が急に光始めた。
「まずい!みんな伏せろ!」
俺はできる限りの大声で叫ぶ。
ルナ、アーティ、ネモ、カトレアの四人を押し倒すようにして伏せる。
「えっ!」
「な、何事デス!」
「なっ……!」
「ちょっ……!」
それぞれ悲鳴のような声を漏らす。
その瞬間。
魔物の身体から魔力の衝撃波が解き放たれる。
穴から抜け出す時の衝撃波よりも遥かに大きかった。
「うわああああああ!」
「なんだあああああ!」
「防御が間に合わな……」
兵士たちの声が途切れる。
轟音とともに、目も開けていられない程の凄まじい風圧が襲い掛かる。
背中が焼けるような痛みを感じる。
気絶しそうになったが、歯を食いしばって耐えた。
しばらくすると、音は静かになり、風が収まった。
「助かったか……」
背中の痛みで生を実感する。
「みんな無事か!」
みんなに声をかける。
「うん、なんとか……」
「ワタシは大丈夫デス」
「ああ、あたしもだ」
「私も無事だ」
四人とも無事だった。
目を開けて足元を確認する。
俺が覆いかぶさったからか、みんなは掠り傷程度の傷しかない。
「これは……」
俺は立ち上がり周囲を見渡した。
そして目の前に広がる光景に絶句した。
そこには大量に転がる兵士の亡骸。
そして視線を上に向けると。
「そんな……そんなことがあっていいのか……」
空に浮かぶように佇む少女。
人の形をしているが、纏った魔力は先ほどの魔物を軽く凌駕する。
そう、魔物の本体がそこにいた。




