時間稼ぎ
魔物はソルヌにたどり着く。
ソルヌは墓標以外何も無い平地である。
破壊衝動が行き場をなくし、暴走し始める。
獣人国へたどり着くまでまだいくらか猶予がある。
国境には獣人国と、反国王派が配備されている。
今の戦力だけでは傷を負わせることも難しい。
人間国の王子やロイの話からそう判断した。
それならば援軍が来るまで時間稼ぎをする。
獣人国国境では大掛かりな仕掛けを作っていた。
国境内に立ち入らせないことが最優先事項だ。
幸いなことに魔物の歩みは遅く、準備は間に合いそうだ。
近々竜人国と魔人国も合流する。
それまで持ち堪える。
「司令官、仕掛けの進みはどうだ?」
「陛下!後一時間もあれば」
「そうか、引き続き頼む」
ソルヌから魔物がここへ到達するまで、およそ一時間。
十分間に合いそうだ。
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俺たちは獣人国の国境で反国王派の軍に同行している。
作戦遂行のため、俺とルナは魔法兵として合流した。
「お兄ちゃん頑張ろうね!」
「ああ、ルナも無理だけはするなよ」
ルナは張り切っていた。
作戦の中核に名指しで指名されたからだ。
ルナも立派な戦力として国から認められている。
「何かあればあたしたちが守るからな」
「二人も私たちを頼ってほしい」
アネモネとカトレアは俺たち二人の援護を任せている。
「みんな無理しないでよねー。
私たちが大変なんだから」
「レウィシアサマのお手伝い頑張りマス」
レウィシアさんは医療班、アーティはその手伝いをしている。
アーティは最後の手段として前線からは外れてもらっている。
魔物を弱らせた後が出番となる。
「陛下!仕掛けの設置完了しました」
「うむ、ご苦労」
仕掛けの方も完了したようだ。
「お兄ちゃん見て!何か来るよ」
ルナが魔物の到達をいち早く見つけた。
エルフであるルナは人より視力が遥かに優れている。
「陛下、魔物がもうすぐ到達しそうです」
「うむ、わかった。
皆の者!配置へ付け!敵が現れた!」
獣人国国王に報告し、号令が上がる。
周囲の表情が緊迫したものに変わる。
魔物の姿が俺の目でも確認できる位置に来た。
「作戦開始!」
「「「「《火球》」」」」
司令官の号令のもと、魔法兵が一斉に炎属性の魔法を放つ。
「「《火球》!」」
俺とルナも続けて詠唱する。
その火球の矛先は魔物ではない。
足元に次々と着弾する。
「グオオオオオオ?」
轟音とともに、魔物の足元で爆発が起こる。
魔物の足元には爆弾の魔道具が敷き詰められていた。
それが炎属性の魔力で次々と連鎖して炸裂を起こす。
「この爆発を受けても無傷なのか……」
傷一つついてはいなさそうだった。
だが、この爆弾は殺傷が目的ではない。
「グオオオオオオ!」
爆発により地盤が崩れ、大きな穴が空く。
魔物は穴へと落ちていった。
「今だ!第二陣展開!」
司令官の号令で、魔法兵が魔法を放つ。
今度は半々に分かれ、土属性と水属性の魔法を放つ。
「「「「《土流》」」」」
土を生成し、穴へ流し込む。
「「「「《水球》」」」」
俺とルナも一緒に詠唱する。
水球を生み出し、水を穴へと落とす。
穴の中には泥が溜まっていく。
魔物は翼で飛び立とうとしているが、泥でうまく動かせずにいる。
作戦は順調だった。
「やりましたね、陛下」
「うむ、これで時間稼ぎができるな」
魔物はもがいている。
すぐには抜け出せないだろう。
「さすがは魔人国の軍師の作戦であるな。
敵に回したくはない」
獣人国国王が手を叩く。
この作戦は前もって魔人国の軍師から送られたものだ。
「水や土だけではなく、二つを組み合わせるか」
俺は作戦について深く感心した。
状況に応じた、魔法の組み合わせを的確に導きだせている。
あの魔物の尾は人魚のものであり、水中でも呼吸ができる。
水に沈めてもすぐに抜け出せてしまう。
土はブレスや羽ばたきなどで吹き飛ばされる懸念がある。
だが、泥であればブレスにも耐性があり、羽ばたきで飛ばせるほど軽くはない。
「いや、まだだ。
手を緩めるな!追加で撃て!」
司令官は泥が掘り出されていくことに気付く。
「「「「《土流》」」」」
「「「「《水球》」」」」
再び土属性と水属性の魔法を放ち、穴の泥を増やす。
「埒が明かないな、時間稼ぎとしてどれくらいもつか」
他の兵士たちには疲労の色が見える。
「お兄ちゃん、ルナはまだできるよ」
ルナも額に汗は流れだしたが、まだ余裕がありそうだ。
このまま膠着状態が続くと思われたが、その時。
「グオオオオオオ!」
魔物の身体から強大な魔力が解き放たれた。
「まずい、みんな防御態勢を取れ!」
司令官の指示で全員が防御に切り替える。
だが、見る限り俺の持つ防御魔法では防ぎきれそうにない。
「ダメだ!防御魔法じゃ防ぎきれない。
ネモ、カトレア、頼む!」
「任せろ」
「了解した」
「ルナ!土壁を地面に展開してくれ」
「わかったよ!」
「「《土壁》」」
俺とルナで地面に土壁を展開する。
魔力の衝撃波が襲い掛かる。
「うわあああああああ」
「くそおおおおおおお」
防御魔法も盾による防御も軽々と貫通する。
兵士が吹き飛ばされる。
ネモとカトレアが俺とルナを抱えて、土壁に向かって跳躍する。
身体強化された素早い動きで衝撃波を回避する。
土壁がクッションとなり、怪我はなかった。
「魔物が外に出てきてしまったか……」
獣人国国王は上を見上げて嘆く。
魔物は衝撃波で泥ごと地面を吹き飛ばし、抜け出していた。
「まずいブレスがくる!」
俺は魔物の胴体から蛇の頭が出てきたことに気付く。
だが、時すでに遅く、ブレスが放たれる。
吐き出された炎は、魔物から溢れ出た膨大な魔力に包まれる。
暴走した魔力は炎を極限まで圧縮し、巨大な火炎弾へと変貌させた。
全員が呆然としながらそれを見る。
その瞬間。
「待たせた」
竜人国軍が駆け付ける。
そして、巨大な障壁が展開し、火炎弾を受け止めようとする。
威力に押され、障壁が粉々に砕け散る。
受け止めきれなかったもののの軌道を逸らした。
「この障壁で受けきれぬだと……」
「竜人国に伝わる障壁が」
援軍として来た竜人国軍は唖然とする。
「我々も来たが、なんだこの化け物は……」
魔人国軍も駆け付けてきた。
「時間稼ぎは成功したようだな……」
獣人国王は胸をなでおろす。
時間稼ぎには成功した。
竜人国と魔人国も合流した。
ここから魔物と五大国同盟の決戦が始まる。




