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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第七章 新たな脅威
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時間稼ぎ

 魔物はソルヌにたどり着く。

 ソルヌは墓標以外何も無い平地である。

 破壊衝動が行き場をなくし、暴走し始める。

 獣人国へたどり着くまでまだいくらか猶予がある。

 国境には獣人国と、反国王派が配備されている。

 今の戦力だけでは傷を負わせることも難しい。

 人間国の王子やロイの話からそう判断した。


 それならば援軍が来るまで時間稼ぎをする。

 獣人国国境では大掛かりな仕掛けを作っていた。

 国境内に立ち入らせないことが最優先事項だ。

 幸いなことに魔物の歩みは遅く、準備は間に合いそうだ。

 近々竜人国と魔人国も合流する。

 それまで持ち堪える。


「司令官、仕掛けの進みはどうだ?」

「陛下!後一時間もあれば」

「そうか、引き続き頼む」


 ソルヌから魔物がここへ到達するまで、およそ一時間。

 十分間に合いそうだ。


-----------------------------------------------------------


 俺たちは獣人国の国境で反国王派の軍に同行している。

 作戦遂行のため、俺とルナは魔法兵として合流した。


「お兄ちゃん頑張ろうね!」

「ああ、ルナも無理だけはするなよ」


 ルナは張り切っていた。

 作戦の中核に名指しで指名されたからだ。

 ルナも立派な戦力として国から認められている。


「何かあればあたしたちが守るからな」

「二人も私たちを頼ってほしい」


 アネモネとカトレアは俺たち二人の援護を任せている。


「みんな無理しないでよねー。

 私たちが大変なんだから」

「レウィシアサマのお手伝い頑張りマス」


 レウィシアさんは医療班、アーティはその手伝いをしている。

 アーティは最後の手段として前線からは外れてもらっている。

 魔物を弱らせた後が出番となる。


「陛下!仕掛けの設置完了しました」

「うむ、ご苦労」


 仕掛けの方も完了したようだ。


「お兄ちゃん見て!何か来るよ」


 ルナが魔物の到達をいち早く見つけた。

 エルフであるルナは人より視力が遥かに優れている。


「陛下、魔物がもうすぐ到達しそうです」

「うむ、わかった。

 皆の者!配置へ付け!敵が現れた!」


 獣人国国王に報告し、号令が上がる。

 周囲の表情が緊迫したものに変わる。

 魔物の姿が俺の目でも確認できる位置に来た。


「作戦開始!」

「「「「《火球(フレア)》」」」」


 司令官の号令のもと、魔法兵が一斉に炎属性の魔法を放つ。


「「《火球(フレア)》!」」


 俺とルナも続けて詠唱する。

 その火球の矛先は魔物ではない。

 足元に次々と着弾する。


「グオオオオオオ?」


 轟音とともに、魔物の足元で爆発が起こる。

 魔物の足元には爆弾の魔道具が敷き詰められていた。

 それが炎属性の魔力で次々と連鎖して炸裂を起こす。


「この爆発を受けても無傷なのか……」


 傷一つついてはいなさそうだった。

 だが、この爆弾は殺傷が目的ではない。


「グオオオオオオ!」


 爆発により地盤が崩れ、大きな穴が空く。

 魔物は穴へと落ちていった。


「今だ!第二陣展開!」


 司令官の号令で、魔法兵が魔法を放つ。

 今度は半々に分かれ、土属性と水属性の魔法を放つ。


「「「「《土流(ソイル)》」」」」


 土を生成し、穴へ流し込む。


「「「「《水球(アクア)》」」」」


 俺とルナも一緒に詠唱する。

 水球を生み出し、水を穴へと落とす。

 穴の中には泥が溜まっていく。

 魔物は翼で飛び立とうとしているが、泥でうまく動かせずにいる。

 作戦は順調だった。


「やりましたね、陛下」

「うむ、これで時間稼ぎができるな」


 魔物はもがいている。

 すぐには抜け出せないだろう。


「さすがは魔人国の軍師の作戦であるな。

 敵に回したくはない」


 獣人国国王が手を叩く。

 この作戦は前もって魔人国の軍師から送られたものだ。


「水や土だけではなく、二つを組み合わせるか」


 俺は作戦について深く感心した。

 状況に応じた、魔法の組み合わせを的確に導きだせている。

 あの魔物の尾は人魚のものであり、水中でも呼吸ができる。

 水に沈めてもすぐに抜け出せてしまう。

 土はブレスや羽ばたきなどで吹き飛ばされる懸念がある。

 だが、泥であればブレスにも耐性があり、羽ばたきで飛ばせるほど軽くはない。


「いや、まだだ。

 手を緩めるな!追加で撃て!」


 司令官は泥が掘り出されていくことに気付く。


「「「「《土流(ソイル)》」」」」

「「「「《水球(アクア)》」」」」


 再び土属性と水属性の魔法を放ち、穴の泥を増やす。


「埒が明かないな、時間稼ぎとしてどれくらいもつか」


 他の兵士たちには疲労の色が見える。


「お兄ちゃん、ルナはまだできるよ」


 ルナも額に汗は流れだしたが、まだ余裕がありそうだ。

 このまま膠着状態が続くと思われたが、その時。


「グオオオオオオ!」


 魔物の身体から強大な魔力が解き放たれた。


「まずい、みんな防御態勢を取れ!」


 司令官の指示で全員が防御に切り替える。

 だが、見る限り俺の持つ防御魔法では防ぎきれそうにない。


「ダメだ!防御魔法じゃ防ぎきれない。

 ネモ、カトレア、頼む!」

「任せろ」

「了解した」

「ルナ!土壁を地面に展開してくれ」

「わかったよ!」

「「《土壁(ウォール)》」」


 俺とルナで地面に土壁を展開する。

 魔力の衝撃波が襲い掛かる。


「うわあああああああ」

「くそおおおおおおお」


 防御魔法も盾による防御も軽々と貫通する。

 兵士が吹き飛ばされる。

 ネモとカトレアが俺とルナを抱えて、土壁に向かって跳躍する。

 身体強化された素早い動きで衝撃波を回避する。

 土壁がクッションとなり、怪我はなかった。


「魔物が外に出てきてしまったか……」


 獣人国国王は上を見上げて嘆く。

 魔物は衝撃波で泥ごと地面を吹き飛ばし、抜け出していた。


「まずいブレスがくる!」


 俺は魔物の胴体から蛇の頭が出てきたことに気付く。

 だが、時すでに遅く、ブレスが放たれる。

 吐き出された炎は、魔物から溢れ出た膨大な魔力に包まれる。

 暴走した魔力は炎を極限まで圧縮し、巨大な火炎弾へと変貌させた。

 全員が呆然としながらそれを見る。

 その瞬間。


「待たせた」


 竜人国軍が駆け付ける。

 そして、巨大な障壁が展開し、火炎弾を受け止めようとする。

 威力に押され、障壁が粉々に砕け散る。

 受け止めきれなかったもののの軌道を逸らした。


「この障壁で受けきれぬだと……」

「竜人国に伝わる障壁が」


 援軍として来た竜人国軍は唖然とする。


「我々も来たが、なんだこの化け物は……」


 魔人国軍も駆け付けてきた。


「時間稼ぎは成功したようだな……」


 獣人国王は胸をなでおろす。

 時間稼ぎには成功した。

 竜人国と魔人国も合流した。

 ここから魔物と五大国同盟の決戦が始まる。

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