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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第七章 新たな脅威
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嵐の爪痕

 人間国の宮廷。

 玉座の間では、人間国国王が憤慨していた。


「何だと……深淵の森の侵攻が失敗しただと……」


 部屋のあちこちには、砕け散った物の残骸が転がっている。


「それに精神に異常をきたしているだと。

 アレですら瘴気の中では耐えきれんのか」


 実際とは異なるがそれを国王は知る由もない。

 瘴気に長く当てられ、精神がやられたと判断している。


「くそ、使えん使えん使えん」


 国王は待たされるのが嫌いだった。

 床には大量の残骸が散らばっている。


「どいつもこいつも本当にイラつかせる」


 国王の精神は相当脆くなってしまっている。

 臣下には手を挙げないことが、唯一残された良心であった。

 例の魔物を使役するために使われている魔力。

 それが精神を擦り減っていっている。

 それは穢の魔力だった。


「早く、早く、この世界をオレ様のものに」


 血走る目はどこか虚ろだった。


-----------------------------------------------------------


 俺は自分の足にヒールをかける。

 痛みが引いていく。

 初級レベルのヒールのため、折れた骨がすぐに元に戻るわけではない。

 あくまで応急処置だ。


「派手にやられちまったな……」


 魔物は去った。

 だが、倒したわけじゃない。

 また現れたら、今度こそ誰も守れない。

 落ちていた木の枝を杖代わりに歩く。

 何度も転びながら、アーティの元へ向かう。

 アーティは魔力が尽き、機能停止していた。


「魔力を供給しなきゃな」


 アーティに魔力を流し込む。

 いつもの量ではまだ足りていない。


「どれだけ消耗したんだ……」


 いつも以上に流し込むとようやく満タンになったようだ。

 アーティがゆっくりと目を開けた。

 壊れていないことに胸を撫で下ろす。

 だが、様子がおかしい。


「……?」


 アーティに呼びかけるが反応がない。


「もしかして、どこか破損したのか!?」


 必死にアーティに声をかけ続ける。


「マスター、ワタシはいったいどうなりマシタ?」


 幸い、時間経過とともに元に戻った。


「核に吸い上げられた魔力が放出されて。

 魔物は倒せなかったけど、追い払えたよ」

「そうデスカ。

 マスターはご無事デスカ?」

「俺は足の骨が折れているがそれ以外は無事だよ」

「それは大変デス、ワタシに掴まってクダサイ」


 俺はアーティの手を借りると家へと向かった。


-----------------------------------------------------------


「何事だ!?」


 あたしは爆音に叩き起こされた。

 周囲を見ると、シアとカトレアが寝ている。

 ルナもおそらくロイの家で寝ているだろう。


「くっ……ダメージが残っているな」


 身体の節々が痛む。

 身体強化で最悪のパターンこそ免れたものの、重症を負っている。


「ぺっ……血か」


 口から赤黒い血が出てきた。

 臓器あたりも損傷があるかもしれない。

 ヒールを使おうにも、うまく魔力が練れなかった。


「今どういう状況だ……?ロイはどうした……?」


 うわ言に近い声を上げながら、ゆっくりと扉へ向かう。

 扉を開けると、目の前には地獄のような光景が広がっていた。


「な、なんだこれは……」


 あたしは一瞬目を疑った。

 森の木々はなぎ倒され、ある場所では燃え盛っている。

 地面にも抉られたような痕跡があった。


「ロイ!ロイはどうなったんだ」


 そもそもロイのことが何もわからない。

 戦いに勝ったのか、そうでないかも把握できていなかった。

 足を引きずりながら必死に辺りを見渡す。


「ロイ!」


 遠くにロイの姿を見つけた。

 アーティも一緒だ。

 生き延びていた。

 だが、彼は木の枝を杖代わりに使い、ふらつきながら歩いている。

 足は変色し、あらぬ方向へ曲がっていた。

 アーティが支えていなければ、長い移動も困難だろう。


「ロイ!大丈夫か!」


 出来る限りの速度で駆け寄る。


「ネモ……よかった目を覚ましたんだな」

「ああ、って、今はそんなことよりも。

 状況を教えて欲しい」


 ロイから話を聞くが、にわかに信じられなかった。


「そんな魔物のことなんて聞いたことないぞ……」


 人間国にそんな異質な魔物がいたという話は聞いたことない。


「それにロイの魔法で傷一つ負わないなんて」


 あたしでも勝てる気がしない。

 いや、おそらく全員が力を合わせても勝てる見込みはない。


「アーティの件も不可解だな」


 それについては何もわからない。

 だが、もしアーティの謎の力で追い払うことができなければ。

 森ごと、あたしたちは全員死んでいたということだ。


「また奴が森に現れたとしたらどうする?」

「今は森に留まって回復に努めるしかないだろう」


 あたしの問いにロイが苦々しい表情で答える。

 悠長だが、そうするしかない。

 あたしが魔力を練ることすらできない状況。

 カトレアも同じような状態だろう。

 他のみんなだって、それに近いだろう。


「魔物の本能がこの場所を避けてくれると良いのデスガ」


 アーティいわく、魔物には痛手を負った場所を本能的に嫌う習性があるらしい。

 こういう時に便利な情報だ。


「そうであってくれることを信じるしかないな」


 あたしたちは再び、家へと引き返すのだった。


-----------------------------------------------------------


 王子は頭を抱えていた。

 秘密裏に進められていた研究。

 失敗に終わり、凍結したはずだった。


「まさか、成功させていたとは……」


 自身の知らないところで動いていたことになる。


「正直彼らでも勝てるかどうか」


 彼らの活躍で内戦は反国王派の勝利で終わった。

 あの宮廷魔術師に勝ったというのだ。

 その知らせを聞いた時は胸が躍った。

 だが、それは一瞬で覆された。


「アレは危険すぎる。

 どうして成功なんてしてしまったのだ」


 裏で手を回して失敗させていた。

 そうでなくても成功する確率は極めて低かった。

 それにより何人もの犠牲を出したかはわからない。


「殿下。例のアレですが、深淵の森へ侵入したとのことです」

「何だと!まずい!」


 万全な状態でも逃げ切るのが困難である。

 にも関わらず、彼らが手負いである可能性が高い。

 森もろとも全滅するのは目に見えていた。


「私は取り急ぎ森へ向かう」

「殿下!危険です。

 おやめくだされ」

「止めるな!彼らなしで、アレをどうにかすることは不可能だ」


 臣下の忠告も聞かず、急ぎで拠点を飛び出す。


「頼む、間に合ってくれ」


 こうして走るのも何度目だろう。

 足を止める間もなく、ただひたすらに森へ向かうのだった。

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