異質な魔物
「ははは、魔人国よ、ざまあねえな」
人間国国王が玉座にふんぞり返っている。
内戦は現体制派の敗北で終わったが、そんなのは関係ない。
戦場に投入したあるものの力で、すべてひっくり返る。
火事場泥棒をしようとした魔人国も尻尾を巻いて逃げ帰った。
「実に素晴らしいな、力こそすべてだ」
人間国国王は高笑いする。
数十年かけた計画も無駄ではなかった。
その唯一成功した個体を解き放った。
溢れんばかりの強大な魔力。
その力は過去にソルヌに解き放った変異種ヒドラよりも遥かに上。
止められる者はまずいないだろう。
「だが、これ以上我が国で暴れさせるのはよくないな。
よし、まずは深淵の森に突入させるか。
瘴気の耐性も見ておきたいしな」
あの化け物を唯一制御できるのは、この人間国国王だけだった。
「《隷属魔術》発動。
命令を下す。
深淵の森へ攻め込め」
詠唱をすると、漆黒の魔力が放たれる。
「さて、待つとするかな」
机上のボトルを開けると一気に呷る。
上機嫌で成果を待つのだった。
みんなを抱えて森へ帰ってきた。
一人ひとり布団の上に寝かせる。
全員を運び終えると、俺とアーティは一息つく。
「はぁ……疲れた……」
想定以上に過酷な戦闘になった。
「マスターお疲れ様デス。
お茶をお持ちしたデス」
「ありがとう、助かる」
アーティが淹れてくれたお茶を飲む。
普段の何倍も美味しく感じる。
あのフードの商人。
彼も納得してくれるだろう。
転送間際に見えたフードの中身を思い出す。
フードの下に見えた顔。
あれは、人間国の王子だった。
王子が商人と偽って俺に接触してきていたのだった。
今まで受けた依頼のすべてが人間国国王の行動を諫めるもの。
内部事情に詳しいところも納得がいく。
「だから王子は俺を選んだのか」
だが俺は政には興味がない。
ひっそりとこの森でみんなと暮らすのが一番大事なことだった。
しばらくゆっくりしていると、突然森が大きく揺れた。
「何事だ!?」
「何デスカ!?」
音のする方へ駆け出すと、魔物が暴れていた。
次々と森の木がなぎ倒されていく。
「何だあの魔物は!?」
その姿は一言で表すと異質だった。
全体を見れば確かに魔物だった。
だが、魔物の中心部に僅かに見える頭のような物体、それは人間だった。
魔人とも違う。
言うなれば、合成獣。
蛇のような胴体が地を這い、背には怪鳥の翼。
魚の尾が木々をなぎ倒し、腕には獣の鉤爪。
足は竜のように太く、強靭だった。
それに異常なまでの魔力。
それが制御できずに暴走している。
「みんなを守らないと、行くぞアーティ」
「はいデス、マスター!」
俺とアーティでみんなを、この森を守らなければならない。
「《豪炎球》!」
詠唱し、豪炎を放つ。
だが、魔物に直撃するも傷一つついた様子がない。
「嘘だろ……まったく効いていない……」
攻撃を受けたという感覚すらないのだろう。
俺たちのことなんて眼中にないように森を破壊し続ける。
「どうすればいい……」
おそらく物理攻撃でも傷一つつけられないだろう。
そればかりか見つかれば無事では済まないだろう。
できることは遠くから魔法を撃つことだけだ。
「《大水球》!
《土円蓋》!
《疾風の刃》!」
次々と魔法を放つが、どれも効果がない。
傷もつかず、動きを止めるにも至らなかった。
「《魔力光線》デス」
アーティも魔力による光線を放つが、効いていない。
何度かの攻撃で魔物はこちらに気付く。
俺の姿を捕捉すると、魔物は雄叫びを上げる。
その咆哮だけで地面が大きく揺れる。
胴体から蛇の頭が現れると、大きく口を開ける。
そこから豪炎球の何十倍もの大きさのブレスを放つ。
当たればひとたまりもない。
「《瀑布水壁》」
俺は咄嗟に水の障壁を展開する。
しかし、水は蒸発し、ブレスは勢いそのままに迫りくる。
「くっ……」
回避はできたが、足に激痛が走る。
骨が折れたようだ。
動けない。
次の攻撃が来たら死ぬ。
アーティが駆け寄ってくる。
「ダメだ、アーティ!」
魔物は再び大きく口を開ける。
このままじゃ二人やられる。
そしてみんなも。
諦めかけた次の瞬間。
魔物がアーティの姿を視界に捉えると、動きを止める。
そして唸るような声を上げると苦しみだす。
「何が起きた……」
目の前で起きたことに理解が追い付いていない。
「核が変デス……」
アーティの核にも異変が起きているようだ。
想定外の事象のようで放心したようになっている。
「まさか魔力回路の暴走か!?」
過去にあった爆発のことを思い出してしまう。
「いいえ、違いマス。
もう暴走した魔力を爆発に変換する術式は消失してマス」
その点は問題なさそうではある。
とはいえ目の前で起きている事象が解決するまでは安心できない。
「核が勝手に魔力を吸い上げていくデス……」
アーティがそれを口にした瞬間、体内の魔力を一気に放出する。
「ア…アア……」
「アーティ!」
アーティは機能停止し、崩れ落ちる。
魔物に放出した魔力が直撃する。
その身体に傷はつかなかった。
だが、苦悶の声を上げながら魔物は森から逃げ去って行った。
「助かった……
だけど、一体なんだったんだ……」
アーティへ目を向けると、地面に横たわっていた。
魔力が完全に切れたようで、ぴくりとも動かなかった。
折れた足では近寄ることすらできない。
目の前で起きたことが何も理解できないままだった。
あの魔物は一体何だったのだろうか。
そしてアーティの身に起きたこともわからない。
俺は唖然としたまま、動かないアーティと、魔物が去った方向を見つめることしかできなかった。




