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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第七章 新たな脅威
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異質な魔物

「ははは、魔人国よ、ざまあねえな」


 人間国国王が玉座にふんぞり返っている。

 内戦は現体制派の敗北で終わったが、そんなのは関係ない。

 戦場に投入したあるものの力で、すべてひっくり返る。

 火事場泥棒をしようとした魔人国も尻尾を巻いて逃げ帰った。


「実に素晴らしいな、力こそすべてだ」


 人間国国王は高笑いする。

 数十年かけた計画も無駄ではなかった。

 その唯一成功した個体を解き放った。

 溢れんばかりの強大な魔力。

 その力は過去にソルヌに解き放った変異種ヒドラよりも遥かに上。

 止められる者はまずいないだろう。


「だが、これ以上我が国で暴れさせるのはよくないな。

 よし、まずは深淵の森に突入させるか。

 瘴気の耐性も見ておきたいしな」


 あの化け物を唯一制御できるのは、この人間国国王だけだった。


「《隷属魔術》発動。

 命令を下す。

 深淵の森へ攻め込め」


 詠唱をすると、漆黒の魔力が放たれる。


「さて、待つとするかな」


 机上のボトルを開けると一気に呷る。

 上機嫌で成果を待つのだった。


-----------------------------------------------------------


 みんなを抱えて森へ帰ってきた。

 一人ひとり布団の上に寝かせる。

 全員を運び終えると、俺とアーティは一息つく。


「はぁ……疲れた……」


 想定以上に過酷な戦闘になった。


「マスターお疲れ様デス。

 お茶をお持ちしたデス」

「ありがとう、助かる」


 アーティが淹れてくれたお茶を飲む。

 普段の何倍も美味しく感じる。

 あのフードの商人。

 彼も納得してくれるだろう。

 転送間際に見えたフードの中身を思い出す。

 フードの下に見えた顔。

 あれは、人間国の王子だった。

 王子が商人と偽って俺に接触してきていたのだった。

 今まで受けた依頼のすべてが人間国国王の行動を諫めるもの。

 内部事情に詳しいところも納得がいく。


「だから王子は俺を選んだのか」


 だが俺は政には興味がない。

 ひっそりとこの森でみんなと暮らすのが一番大事なことだった。

 しばらくゆっくりしていると、突然森が大きく揺れた。


「何事だ!?」

「何デスカ!?」


 音のする方へ駆け出すと、魔物が暴れていた。

 次々と森の木がなぎ倒されていく。


「何だあの魔物は!?」


 その姿は一言で表すと異質だった。

 全体を見れば確かに魔物だった。

 だが、魔物の中心部に僅かに見える頭のような物体、それは人間だった。

 魔人とも違う。

 言うなれば、合成獣。

 蛇のような胴体が地を這い、背には怪鳥の翼。

 魚の尾が木々をなぎ倒し、腕には獣の鉤爪。

 足は竜のように太く、強靭だった。

 それに異常なまでの魔力。

 それが制御できずに暴走している。


「みんなを守らないと、行くぞアーティ」

「はいデス、マスター!」


 俺とアーティでみんなを、この森を守らなければならない。


「《豪炎球》!」


 詠唱し、豪炎を放つ。

 だが、魔物に直撃するも傷一つついた様子がない。


「嘘だろ……まったく効いていない……」


 攻撃を受けたという感覚すらないのだろう。

 俺たちのことなんて眼中にないように森を破壊し続ける。


「どうすればいい……」


 おそらく物理攻撃でも傷一つつけられないだろう。

 そればかりか見つかれば無事では済まないだろう。

 できることは遠くから魔法を撃つことだけだ。


「《大水球(ハイアクア)》!

 《土円蓋(ダートドーム)》!

 《疾風の刃(エアスラッシュ)》!」


 次々と魔法を放つが、どれも効果がない。

 傷もつかず、動きを止めるにも至らなかった。


「《魔力光線》デス」


 アーティも魔力による光線を放つが、効いていない。

 何度かの攻撃で魔物はこちらに気付く。

 俺の姿を捕捉すると、魔物は雄叫びを上げる。

 その咆哮だけで地面が大きく揺れる。

 胴体から蛇の頭が現れると、大きく口を開ける。

 そこから豪炎球の何十倍もの大きさのブレスを放つ。

 当たればひとたまりもない。


「《瀑布水壁》」


 俺は咄嗟に水の障壁を展開する。

 しかし、水は蒸発し、ブレスは勢いそのままに迫りくる。


「くっ……」


 回避はできたが、足に激痛が走る。

 骨が折れたようだ。

 動けない。

 次の攻撃が来たら死ぬ。

 アーティが駆け寄ってくる。


「ダメだ、アーティ!」


 魔物は再び大きく口を開ける。

 このままじゃ二人やられる。

 そしてみんなも。

 諦めかけた次の瞬間。

 魔物がアーティの姿を視界に捉えると、動きを止める。

 そして唸るような声を上げると苦しみだす。


「何が起きた……」


 目の前で起きたことに理解が追い付いていない。


(コア)が変デス……」


 アーティの核にも異変が起きているようだ。

 想定外の事象のようで放心したようになっている。


「まさか魔力回路の暴走か!?」


 過去にあった爆発のことを思い出してしまう。


「いいえ、違いマス。

 もう暴走した魔力を爆発に変換する術式は消失してマス」


 その点は問題なさそうではある。

 とはいえ目の前で起きている事象が解決するまでは安心できない。


「核が勝手に魔力を吸い上げていくデス……」


 アーティがそれを口にした瞬間、体内の魔力を一気に放出する。


「ア…アア……」

「アーティ!」


 アーティは機能停止し、崩れ落ちる。

 魔物に放出した魔力が直撃する。

 その身体に傷はつかなかった。

 だが、苦悶の声を上げながら魔物は森から逃げ去って行った。


「助かった……

 だけど、一体なんだったんだ……」


 アーティへ目を向けると、地面に横たわっていた。

 魔力が完全に切れたようで、ぴくりとも動かなかった。

 折れた足では近寄ることすらできない。

 目の前で起きたことが何も理解できないままだった。

 あの魔物は一体何だったのだろうか。

 そしてアーティの身に起きたこともわからない。


 俺は唖然としたまま、動かないアーティと、魔物が去った方向を見つめることしかできなかった。

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