新たな脅威
焼野原に一人佇む。
父は塵一つ残らず燃え尽きた。
母はどうなったかわからない。
父も母も俺のことを一切覚えていなかった。
名前すらつけられず捨てられたことから、ある程度は覚悟していたつもりだった。
子供の頃に捨てられたのだ。
俺の面影しか残っていなくても仕方がない。
そう思い込むしかなかった。
ろくな思い出もなく、憎しみさえ覚えていた。
そうであっても、実の親を手にかけたことには、複雑な感情が渦巻いた。
「みんなを探さないと……」
立ち止まっている暇はなかった。
俺には家族のように大切な人たちがいる。
みんなの安否が最優先だ。
周囲を見渡す。
最後に見た地形から大きく変わっている。
人の影を見つけるたび、その方向へ向かう。
「ルナ!ネモ!レウィシアさん!」
三人の姿を見かける。
急いで駆け寄ると呼吸を確認する。
「良かった……三人とも生きてる」
少し浅いが呼吸は安定している。
気を失っているだけだった。
「カトレア!アーティ!」
ルナたちの近くでカトレアとアーティも見つけた。
「カトレアも無事だ……」
カトレアも同じく呼吸を確認した。
「アーティは大きな破損はないな」
外装には傷はあるものの、大きな破損は見られなかった。
アーティのプラグを掴むと魔力を流し込む。
「あ、マスター、おはようございますデス」
少しするとアーティが目を覚ます。
そして周囲を見渡すと変わり果てた地形と、横たわるみんなを見て驚愕する。
「マスター!どうなっているのデスカ!?
みんなは、みんなは無事デスカ!?」
表情ではわからないが、動きから気が動転していることを感じ取れる。
「アーティ、みんなは無事だ、気絶しているだけだよ」
「良かったデス、安心シマシタ」
アーティは安堵したような反応を見せる。
「さて、みんなのことを森へ運ぼう」
「了解デス」
俺とアーティの二人で四人を抱えてロストを後にした。
その数時間後。
魔人国の軍師である私はロストの地へ来ていた。
「魔人国軍、人間国領土のロストを占領いたしました」
魔人国軍はロストに軍旗を立てる。
「ご苦労。
生存者は救護せよ、捕虜として交渉に使う」
私が指示を出すと、負傷者の救護を行う。
恩を売りつつ、捕虜にも扱えるため、交渉が非常に有利になる。
国境を通過するのは簡単だった。
現体制派の援軍と伝えれば、門番は疑いもせず素通りを許す。
共倒れに終わった報告を受け、占領を決めた。
今は現体制派も反国王派もまともに戦える状況にない。
「それにしてもまさか宮廷魔術師の双璧が崩れるとは」
報告を聞いた時は耳を疑った。
彼らと渡り合える戦力など人間国には存在しないと思っていた。
「獣人国との戦争で辛酸を舐めさせられた、あの魔術師どもの仕業だろうな」
あの少年やその仲間たちくらいしか思いつかない。
いずれは対処しなければならない。
「まあ、そのおかげで今回は悠々と占領できたわけだが」
この機を逃す理由はない。
この場所を魔人国領として五大国会議に認めさせる。
「さて、そろそろ魔人国へ帰るか」
人間国へ突き出す交渉状の作成を行わなければならない。
現場の指揮を隊長に任せてロストから離脱しようとしたその時。
「敵襲!敵襲!」
兵士の叫び声が聞こえたかと思うと一瞬で静まり返る。
先ほどまで声を上げていた兵士が肉片になっていた。
「何が起きた!」
人間国軍でまともに戦える戦力はないはず。
それに無残に惨殺するようなことをするとは思えない。
「こちらに向かってくる魔物が一匹、暴走状態です」
「なぜだ!なぜ魔物がこんなところに!?」
ロストに生存していた魔物だろうか。
いや、ロストにそんな凶悪な魔物は存在しない。
ロスト近辺に魔物が棲む場所もない。
「うわあああああ」
「ぐおおおおおお」
次々と兵士が血祭に上げられる。
一般兵士といえどある程度戦いの心得がある者たちだ。
それが赤子のように捻りつぶされる。
「隊長!我々では太刀打ちできません。
撤退すべきです」
「そのようだな。
全軍撤退!攪乱させて足止めしつつ、一人でも多く逃げろ!」
もはや作戦という作戦を立てることもできない。
逃げるしか選択肢がなかった。
「どういう魔物かだけ一目見ておきたいが」
撤退する間際、遠目から魔物の姿を確認する。
「まさか……そんなはずは……」
私は戦慄するしかなかった。
暴れる存在のことを私は知っている。
ただ、私の知っている存在は魔物ではなかった。
記憶の中のそれとは大きく乖離している。
「国王め……一線を超えたな」
この魔物は人間国国王の仕業で間違いはないだろう。
今は全力でこの場を離れるしかなかった。
その頃、人魚国。
「女王陛下!
人間国の領土ロストにて大規模な爆発が発生。
その後、魔物が出現し、占領に進軍していた魔人国軍を蹂躙しています」
私は頭を抱えた。
情報量が多すぎる。
報告する方も混乱してしまっている。
「すまぬ、一つずつ整理させて欲しい」
「申し訳ございません。
まず一つ目はロストにて地形が変わるほどの大規模な爆発が発生しました」
ロストでは人間国の内戦が繰り広げられているはず。
宮廷魔術師あたりが特級魔法でも使ったのだろう。
「続けて」
「はい!二つ目はロストに魔物が出現し、暴走しております」
ロストには下級の魔物こそ生息しているが、脅威になる魔物はいないはず。
それに、地形が変動するほどの爆発があれば無事では済まないだろう。
その近辺にも魔物の生息地はない。
「何が起きているのでしょうか……」
考えられるとすれば、人間国が魔物の封印を解除し、戦力として魔物を放った可能性。
爆発もその魔物が起こしたものと考えるのが自然か。
「最後に魔人国軍が蹂躙されておりました」
魔人国は漁夫の利狙いの進軍だろう。
前々から人間国に対する野心を感じていた。
運悪く魔物と対面したと考えられる。
「報告ご苦労でした。
入口を封鎖しましょう」
「かしこまりました」
我が国は水中に存在しているため、海面を封鎖することで魔物の侵入を防ぐことができる。
落ち着くまではそれで凌ぐ。
「人間国も困ったものですね……」
私は頭を抱えるしかなかった。




