信じた先
第一、第二の矢が失敗に終わった。
あたしの目から見ても失敗の理由は明白だった。
カトレアに足りないもの。
それは殺気だった。
気で相手を殺そうとしていない時、彼女は無意識に殺気が消える。
だから見破られる。
「カトレア!こっちを見てくれ」
あたしはハンドサインを出す。
第二の矢をもう一度使え。
このサインでカトレアは目を見開いた。
無理もない。
失敗した作戦をもう一度などと正気の沙汰ではない。
「でもっ!今の私では」
カトレアは躊躇している。
その反応に隊長は察したのだろう。
「問題が解決できていない状況で作戦継続は厳しいよなあ」
ここまでが陽動なら、次こそ本命だと相手も思うはず。
たとえ本命でなくても、殺気で見抜かれてしまう。
そこをどうにかできそうな方法に一つ心当たりがある。
ただ、これはカトレアを傷つけることに繋がる。
それでも背に腹は代えられない。
「カトレア!忘れるな、目の前の人間は現国王派。
お前の同胞を殺し、お前の村を滅ぼした奴の手先だ。
そんな腑抜けた戦いをしてたら、彼らに申し訳ないと思わないか」
心にも思っていないことを口にした。
カトレアは身内や仲間が関わる戦いでは容赦しない。
だが、それ以外では殺意を乗せきれない。
だから無意識に殺気が消えてしまう。
「そんなこと……」
カトレアは拳を握り締め、歯を食いしばる。
そしてスッと表情が消えた。
あたしに対する失望か、それとも憎しみを思い出したのか。
胸が痛い。
「そうだ、戦場に立ってて腑抜けてんじゃねえよ、獣人が!」
隊長も因縁の相手への苛立ちを募らせているようだった。
「行くぞ」
カトレアは隊長へ突っ込む。
「おうおう、そうこなくちゃな!」
カトレアからは殺気を感じる。
隊長もそれを感じたようで、必殺の反撃の体勢を取る。
作戦通り、第二の矢なら勝てる。
だが、憎しみに任せて第三の矢を選べば死ぬ。
助けるか、信じるか。
それがあたしの選択だった。
「あたしの選択はこうだ!」
隊長に向けて攻撃を仕掛ける。
あたしはカトレアを信じている。
「もらうぞ、仇の首ぃぃぃ!
秘技――破裏威」
隊長の全力の反撃技。
カトレアの首元を捉える。
「もらった!」
隊長が勝ちを確信したその瞬間。
「《身体強化》」
カトレアは寸前で身体強化を発動した。
先ほど以上に引き付けてから距離を取る。
その一瞬が隊長の反応を遅らせた。
「何っ!」
不意を突かれ、隊長の反応が一瞬遅れる。
その刹那が勝敗を決めた。
「とりゃあああ!!!」
「ぐおおおおお」
あたしの斬撃をまともに食らう。
「師匠も、こうやってやられたのだろうか……」
それだけ残すと隊長は崩れ落ちた。
あたしはカトレアの元に急いで向かった。
「ごめん、カトレア」
許してもらえないかもしれない。
勝つためとは言え、不安で仕方がなかった。
「大丈夫ですよ、アネモネ。
あなたが辛そうな表情を浮かべていたのに気付いていたので。
むしろ、そんな表情をさせてしまった私の未熟さが悪いです。
こちらこそ、ごめんなさい」
カトレアは一転笑顔をあたしに向ける。
「カトレアっ!」
あたしはカトレアと抱き合った。
相手は決して弱くはなかった。
拮抗状態が続き、消耗を強いられていれば負けていた。
誰かに辛い思いをさせないためにも、もっと強くならなければと思った。
結界の外。
魔術師の女と対峙している。
「《豪炎球》!」
ルナちゃんが再び豪炎球を放つ。
「《水牢壁》」
魔術師の女が水を周囲に展開し、円蓋を作る。
豪炎球は水に飲まれ消滅した。
魔法の精度は相当なものだった。
それに物理攻撃の隙を与えないような魔法の選択。
流石は宮廷魔術師といったところだ。
「《大水球》!」
ルナちゃんは大きな水球を放つ。
「《土円蓋》!」
魔術師の女は土の円蓋を展開する。
今回も物理攻撃との両対応の魔法だった。
そこで私はあることに気付いた。
ここまで使ってきたのはすべて防御特化魔法だ。
魔術師の男と共にいた時は攻撃魔法も使っていた。
だが、一人になってからは防御魔法に切り替わった。
魔法は詠唱中も発動直後も隙が生まれる。
一人になった以上、防御を優先するしかない。
「なるほどね、弱点わかっちゃったかも」
私はニヤリと笑った。
「あなたみたいな小娘に何ができるのかしらね」
魔術師の女は見下す態度で私を見返す。
「ルナちゃん、豪炎球お願い!」
「わかったよ、シアちゃん!
いっけえええ!
《豪炎球》」
ルナちゃんの魔力もそこまで余裕はなさそうだ。
私が頑張らなきゃ。
「同じことの繰り返し。脳がないのかしらね。
展開します。
《水牢壁》」
水牢壁を展開する。
「いくよ!」
そこで私は魔術師の女の元へ駆け出す。
もちろん豪炎球はかき消された。
そして、展開中は物理攻撃は通らない。
それでも距離を詰めることはできる。
「なるほど、それが狙いだったのね」
「ご名答だね」
魔術師の女のすぐ近くまでたどり着いた。
従来の戦いでは絶対に取れない戦法。
今は護衛がいない。
だから成立する。
「これで私に攻撃魔法を使えばやられちゃうかもね」
「くっ!《風起こし》」
攻撃魔法に反応し、攻め込む。
風起こしは障壁で防御。
そのまま斬りかかる。
魔術師の女も障壁で防ぐ。
攻撃しながらも同時に防御も行う。
だが、攻撃魔法は初級のものだ。
受け止めるのは容易かった。
それに。
「それ!それ!それー!」
魔力のメスを振り回す。
雑な太刀筋の力任せの脳筋攻撃。
「なんだこの攻撃は!」
魔術師の女は苛立ちながら障壁を展開する。
場数はかなり踏んでいるのだろう。
接近戦もいなせる実力はある。
だが、型も何もない、経験で対処ができない。
「そこだ!」
「くっ!」
障壁で展開しきれずにメスが身体を切り裂く。
急所は外したものの、出血は多い。
「このままじゃ……《旋風脚》」
足に旋風を纏い、飛び上がる。
魔術師の女は距離を取ることを選択する。
「ルナちゃん!お願い!」
「わかったよ《豪炎球》!」
必死で距離を取ろうとする魔術師の女に向けて放たれる。
「あなた……ごめんなさい」
最期の瞬間、無表情の顔に僅かに涙が零れた。
その涙が誰を思ってのものだったのか、私にはわからなかった。
豪炎が炸裂して、魔術師の女は倒れた。
「やった、勝ったねルナちゃん!」
「勝ったね、シアちゃ……」
ルナちゃんの元へ戻る。
ルナちゃんは眠そうな、ふらふらな状態になっていた。
無理も無い。
上級魔法を連発していたからだ。
魔力が尽きたのだろう。
そのまま眠りにつくルナちゃんを抱えて木陰に運ぶ。
アーティちゃんの横に寝かせる。
「ルナちゃん頑張ったね……」
私も魔力が底をつきかけていた。
足に力が入らない。
ルナちゃんとアーティちゃんの横に少しだけ腰を下ろした。




