糸口
カトレアとあたしは現体制派の隊長を相手にしている。
「ロイたちは魔術師の方へ向かったか」
「あたしたちに託してくれたんだな」
信頼されているようで嬉しくなる。
隣のカトレアの表情もどこか誇らしげだった。
「二人がかりでも余裕だなぁあああ」
この男は隙だらけだ。
だが、意図して作られているのは明白だった。
大振りな剣の威力は高い分、隙を作りやすい。
そして、隙をつこうとした相手にカウンターを食らわせる。
二段構えで戦うスタイルのようだ。
剣術の腕前は確かなもので、身体強化の精度も高い。
自信からくる戦術だ。
「秘儀――斬撃の飛礫!!!」
高速の斬撃が礫のように放たれる。
あたしは剣を受け流し、距離を取る。
カトレアも短剣でうまく捌けているようだ。
「なあ、カトレア、こいつの師匠ってのはどんなやつだった?」
「こっちの動きを想定して立ち回る強敵だった。
それに、あえて隙を作って、そこを狙わせて反撃を狙ったりもしてきた。
かなりのやり手だったよ」
カトレアの話からも、この隙を作る戦術は師匠譲りなのだろう。
「どうやって勝ったんだ?」
「相手がこっちの動きを想定して立ち回ったところを、想定以上の速さで動いて倒した」
火事場の馬鹿力とでもいうべきか。
土壇場で自分の制御できる身体強化の限界以上の力を出せたということか。
「今回の相手には通用しないかもな」
この男はこちらの動きを想定できてはいない。
だが、想定通りの動きの中に想定外を仕込む方法はありかもしれない。
「カトレア、ちょっと耳を貸してくれ」
「わかった」
二人で距離を取ってから、作戦を伝える。
「なるほどいい作戦だと思う」
「だろ、あたしらならうまくいく」
嘲る表情を浮かべる男を見据え、あたしたちは武器を構えた。
戦局は明らかな不利である。
このままでは勝ち目はない。
突破口を探るため、相手との距離を詰める。
危険は伴うが、ルナ、アーティ、レウィシアさんにも同行をしてもらっている。
魔術師の男――俺の父の顔が見える距離まで近づいた。
無表情で人を見下すような目をしている。
纏うオーラに圧倒されそうになる。
そして父を守るように立つ魔術師の女がいる。
この女にも見覚えがある。
俺の母だ。
同じく無表情で見下すような目。
その目に見下される感覚に背筋が凍る。
幼い頃の嫌な思い出。
何をしても褒められず、怒られず。
話しかけても返事もろくに返ってこなかった。
ひたすらに無関心だった。
両親の怒った顔も笑った顔も見たことがない。
少し老けてはいるが記憶の中の両親と何も変わらなかった。
「貴様があの魔法を撃ったガキか」
父は表情を変えず、ただそれだけを口にした。
俺の顔を見ても息子だとは微塵も感じていない。
覚えてすらいないのだろう。
「そうだが何か?」
睨みつけながら、吐き捨てる。
「ちゃんとした環境で鍛錬を積めば、それなりの魔術師にはなれただろうに。
中途半端な魔術師止まりで情けない」
父は興味なさげに呟いた。
俺は今にも殴り掛かりそうになった。
誰のせいで未来が閉ざされたと思っているのか。
何様のつもりなのだろう。
「なんなの、その言いぐさは……」
レウィシアさんも絶句している。
「まったく、人間国の魔術師は後進が育ってないな」
「年々魔法の質が落ちてきてるのよね」
父と母が嘆く。
「なんなんデス、この人タチ」
アーティも呆れている。
「国が出した失敗作どもは私たちで片づけなければな」
「そうね」
両親が詠唱を始める。
「《獄炎球》」
「《狂嵐破》」
豪炎よりも上、特級魔法。
それに風の特級魔法をかけ合わせて威力を高める。
「みんな来るぞ!」
「《精神強化》!」
俺とルナにレウィシアさんが補助魔法をかける。
「「《堅土壁》」」
俺とルナは同時に詠唱を始め、二人で土壁を展開する。
相殺はまずできない。
安易に水で受け止めようものなら水蒸気爆発を起こしてしまう。
できることは土壁により威力をある程度抑えつつ、多少なりとも進路を逸らした上での回避しかない。
土壁が簡単に吹き飛ばされる。
ただ僅かに速度が下がり、進路も逸れた。
全員が間一髪で回避する。
着弾と同時に大爆発を起こし、地が揺れる。
「ありがとう、アーティちゃん」
「どういたしましてデス」
「あれ、当たったらひとたまりもないよ」
目の前には巨大な穴ができていた。
「どうにか高威力の魔法を封じないと」
俺は焦り始める。
「《砂土炎舞》」
「《疾風竜》」
両親が続けざまに詠唱を始める。
熱された砂を飛ばす複合上級魔法に、竜巻を起こす上級魔法。
その二つで砂塵が起きる。
回避をさせないつもりだろう。
俺とルナが再び詠唱を始める。
「《土円蓋》」
「《大火球》」
俺が土の円蓋を発生させて受け止める選択をしたのに対し、
ルナはおそらく砂土炎舞を見て、火球で迎撃しようとしたのだろう。
ルナの火球は円蓋の内側に被弾し、爆発した。
「うわああああ」
「きゃああああ」
「アアアアアア」
ルナを庇っていたアーティもろとも、俺たちは爆風に飲み込まれた。
「間に合って!」
レウィシアさんが叫ぶと、白いベールのようなものが展開され、三人はそれに受け止められる。
「助かった……」
「やっちゃったよぉ!」
「危機一髪デス」
回復魔法の応用系で魔力の布団を生み出し、それが受け止めてくれたのだろう。
「助かった、レウィシアさん」
「ありがとうシアちゃん」
「感謝デス、シアサマ」
結果的に爆風で吹き飛ばされたことで、攻撃範囲から離脱できた。
「お兄ちゃん、みんな、ごめんなさい」
「いや、俺こそごめん、焦りすぎて周りが見えてなかった」
ルナは戦闘経験が多いわけではない。
俺が指示を出したり、タイミングをずらすことだってできた。
俺の失策でもある。
「狭いところで魔法を使うと、ルナたちまで巻き込んじゃうから、気を付けなきゃね」
ルナが「反省、反省」と呟きながら一人で頷く。
失敗から学び成長する前向きな姿勢に元気を貰えた。
「待てよ……そうか、その手があったか!」
その時、俺の中で一つの作戦が思い浮かんだ。
「みんな集まってくれ、作戦を思いついた」
危険な賭け。
それでも。
たった一つの筋道が見つかったのだった。




