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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第六章 人間国王位継承戦
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最強の宮廷魔術師

人魚の国の国境付近。


人間国には死の谷と呼ばれ、生物が住めないほどの険しい土地がある。


名前はロスト。

踏み入れた大勢の命が失われたことから名付けられている。


国軍の訓練にも使われる場所。


ここで現体制派と反国王派の軍が対峙する。


数にしておよそ三百対五百。

反国王派の軍が人数は優位を取っている。


開戦の合図は中立派の貴族が請け負っている。

両軍が配置についたのを確認し、彼が手を挙げた。


「戦闘開始だ!」

「うおおおおお!」


入り乱れる戦闘が開始された。


反国王派は人数を生かした人海戦術を仕掛ける。


現体制派は押し込まれ、次々と兵が倒れる。


幸先は良かった。


だが。


ロイの父親である魔術師の男が高速で詠唱する。


「《豪炎連弾》!」


豪炎の球を連発して放つ、上級応用魔法。


反国王軍に向けて降り注ぐ。


「皆の者、水で障壁を張れ!」

「「「《水壁》!」」」


何人もの魔法兵が水を生み出し、水の防壁を作る。


豪炎の球は水壁と衝突し爆発する。


「うわああああ!!!」


その勢いで何人もの兵士が吹き飛ぶ。


「くっ……水蒸気爆発か」


あの威力の炎魔法を防ぐには水魔法しか無い。


それでも相殺しきれず爆発を起こしてしまう。


このままでは耐えきれない。


「これが王国最高峰の宮廷魔術師か……」


圧倒的な強さに打ちひしがれる。


炎だけではなく四属性すべてを扱える。


魔法で勝つのは現実的ではない。


「斥候、頼むぞ……」


隠密行動を使う斥候を相手側に送り込んでいる。


相手側の魔術師を暗殺できれば、戦況は一気に改善するはず。


だが。


「お覚悟」


心の中でそう呟き、斥候は魔術師の男の首筋目掛けて飛び掛かる。


隠蔽魔術を使っているため姿は見えない。


気配も殺気も絶っている。


この距離から回避はできまい。


そう思っていたが。


「何!?」


男の首の直前で障壁に阻まれた。


「お前を感知することなど容易い」


男の背後に立つ、魔術師の女。

ロイの母親が、斥候を感知し、障壁を展開した。


「《鎌鼬》」

「ぐわああああ」


そのまま離脱しようとする斥候に向け、高速の風の刃を放った。

回避しきれず、そのまま斥候の首が飛ぶ。


「甘いのよ」


表情も変えず、女はすぐに警戒態勢に戻る。


隙が存在しない。


「斥候がやられました!相手への損失は与えられず」


虚しく失敗の報が飛んだ。


背を守る女も王国最強の双璧を成す存在である。


そして、白兵戦も不利を背負っている。


「ヒャッヒャッヒャ、こんなものか、手ぬるすぎる!」


隊長自ら剣を抜き、戦場を駆け回る。


ヴァントで殉職した司令官の教え子である。


師匠譲りの性格の悪さと確かな剣術で戦場を血で染める。


前衛、後衛ともに人数差を返されそうになる。


圧倒的に反国王軍は質で劣っていた。


「急ぎで殿下に報告を」

「はっ!」


このままでは敗北は濃厚だった。


王子が雇った傭兵に援護を受ける必要がある。


それまで前線を維持できるのだろうか。




王子は外を見た。


遠くから交戦する両軍を眺める。


戦局はどうなっているのだろうか。


焦燥感を募らせていると、空に信号弾が上がったのを確認した。


「なんということだ……」


信号弾の色で戦局を伝えるよう指示を出していた。


打ちあがったのは赤。

非常に危険な状況ということになる。


「森に行かなければ……」


援護が遅くなれば、おそらく壊滅する。


王子はとある魔道具を抱えると急ぎ駆け出した。




月光の森。


俺たちは指示に備えていた。


武器を磨き、道具を揃える。


ルナもレウィシアさんの手伝いをしている。


この森は静かだ。


その時、長閑な空気が乱れた。


「はぁ……はぁ……出撃のお願いさ」


息を切らしながら、商人が駆け込んできた。


「わかった、みんな出撃だ」


みんなを呼び集める。


「これを使うさ……」


手に持った魔法陣の書かれたものを地面に投げる。


「これは……転送の魔道具」


獣人国との戦争で人間国側が奇策に使用した魔道具。


大量の魔力と詠唱時間が必要な代わりに、対となる場所へ瞬間移動できる。


「それくらい切羽詰まった状況ということか」


ネモが状況を見て理解する。


「その通りさ、遅くなれば間違いなく、うちらの軍は壊滅さ」


珍しく弱気なところを見せる。


「転送できるの!?」

「そんな魔道具があるのデスカ」


ルナとアーティが興味津々に覗き込む。


「急ぎということだが、発動にはどのくらいかかる?」


詠唱時間がかかるならすぐにでも取り掛からなければならないだろう。


俺は商人に問いかける。


「詠唱は不要さ、移動中に詠唱させながら持ってきたさ」


商人は答えた。


通りでここまで消耗しているはずだ。


「それであれば問題ないな」

「負傷者がいるなら急がないと」


カトレアとレウィシアさんも準備は問題無さそうだ。


全員、緊張した様子もなく普段通りに振る舞っている。


「じゃあ行くか」


全員魔道具に書かれた魔法陣の上に乗った。


「《転送》」


発動と同時に俺たちの身体が粒子に覆われて消えていく。


「頼んだよ、みんな……」


消えゆく中で商人が膝をつく。


魔力の限界が来たのだろうか。


その時、一瞬フードの中の素顔が見えた。


「あなたは!?」


俺は思わず声を上げた。


その素顔には見覚えがあった。


だが、それ以降は口にできないまま、完全に姿が消えた。


「隠蔽魔法が解けてしまったか」


俺たちを見送った王子が呟く。


俺の反応で気づいたのだろう。


「休んでいる暇はないな、作戦を立てなければ」


王子は拠点に戻るため、立ち上がろうとするが、よろけて倒れてしまう。


「限界か……」


魔力と体力の限界だった。


「皆が戦っているのに情けない」


王子は倒れ込み、空を見上げた。


瘴気に覆われていたことが信じられないほどの、綺麗な青空が広がっていた。

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