開戦目前
「殿下、ソルヌで現体制派の軍の攻撃があったようです」
側近から報告を受けて、私はほくそ笑んだ。
「思い通りの結果になったな」
それを口実にすれば向こうも動かざるを得ないだろう。
「現体制派に宣戦布告の親書を送ってくれ」
「かしこまりました」
これで現体制派も時間稼ぎはできないだろう。
現体制派をおびき出さなければならない。
国に損害を出せば魔人国に出し抜かれるため、
ソルヌのような周辺に被害が出ない場所で戦わなければならない。
ただ、それでも動かないようであれば、相手の主要拠点へ攻撃する。
「内戦というのはめんどくさいものだ……」
主要拠点への攻撃は暗黙の了解で忌避されている。
実施すれば周囲を敵に回すことになりかねない。
ただし、相手が先に手を出しておきながら、拠点から動かない場合など、
ある程度例外は認められる。
愚かな王と呼ばれた父上と言えど、そのことは理解しているだろう。
そこをついて脅しをかける。
「母上、私はあなたの望んだ国を実現して見せます」
母の遺影に誓った。
その頃、現体制派。
「陛下、宣戦布告が届いております」
あのガキが煩わしいことを。
「そんなもの無視しろ、時間を稼ぐのだ」
こちらが動かなければ、相手も動けない。
魔人国に支援の打診をしているが、まだ返事が無い。
とにかく時間を稼いで、優位に立ち回れるようにする必要がある。
「陛下、それは難しいかと。
ソルヌで偵察と交戦したようでして、こちらから手を出してしまっております」
頭を抱えた、どいつもこいつも頭が悪い。
「バカが……。
ちっ、そうなれば相手はここに攻め入ってくるか。
受けるしかあるまい」
奴らは実戦の経験が乏しい。
経験値ではこちらに分がある。
ただ、獣人国との戦争で支持を大きく失ってしまっている。
人数で不利を取っている。
「魔人国もあてにはできんな」
力に拘った先代の国王とは異なり、現代の国王は姑息な手を打つ小物だ。
おそらくどちらにつくか品定めでもしているのだろう。
「こちらも最終手段を取らざるを得ん」
王座の間の肖像画に魔力を注ぐと、扉へと変貌した。
その扉を開けて中に入る。
そこら中に魔石や魔道具が並べられている。
それらに目も向けず、真っ直ぐに見据える先には、
青い培養液が満たされたカプセル。
その中には眠る異様な人影。
「オレ様に歯向かうとどうなるか、大人の怖さを教えてやらねばな……」
手元にあった羽筆を握りつぶした。
その頃、月光の森では。
「戦が始まったようだな」
見回りから帰ってきたネモが報告をくれた。
反国王軍の進軍を確認したそうだ。
「ありがとう、まあそうなるだろうな」
偵察時に相手から攻撃を受けた。
それを機に王子側が仕掛けたのだろう。
「私たちも行かなくていいんです?」
「ああ、一旦待機だな」
レウィシアさんの問いに答える。
商人からは指示が出るまで待機と言われている。
「おっ、やってるな」
ネモが目を向けた先では、ルナとアーティとカトレアが鍛錬をしている。
「《火球》!」
「遅い!」
ルナの火球をカトレアが軽々躱す。
そのままルナへ攻め込む。
「ルナサマを守りマス!」
盾を持ったアーティがルナの前に立ちはだかり、カトレアの攻撃を受け止める。
「くっ!」
カトレアが距離を一度置く。
実戦を想定した訓練を行っている。
ルナとアーティでペアを組み、前衛と後衛に分けて動く。
カトレアは前衛と後衛がいる相手を想定した戦闘。
戦争に参戦する以上、必要なことだ。
「それにしても良い感じだな」
「ネモもそう思うか?」
ルナはエルフということもあって魔法の才能は飛び抜けている。
ただ、フィジカルや精神面にはまだ不安がある。
アーティは魔力を動力として動く都合上、あまり魔力を使えない。
代わりに魔法傀儡としての戦闘能力がある。
この二人を組ませることで、ルナの安全性を確保しつつ、
遠距離に対応できないアーティの弱点を補強している。
「ふぅ……疲れた」
カトレアは戦闘経験は申し分ない。
しかし、どうしても前衛後衛の両方を相手取る戦いは不得手だ。
「お兄ちゃん!ルナたちどうだった?」
「マスター、どうデスカ?」
二人から質問を受ける。
「息ピッタリでとても良かった」
仲が良いということもあるが、戦闘での相性の良さを感じた。
「そうだな、二人ともなかなかだったぞ」
「私も戦ってて結構苦戦したな」
ネモやカトレアも同様の感想だった。
「はい、みんな回復するよー」
レウィシアさんが三人にヒールをかける。
「ありがとう、シアちゃん」
「ありがとうございマス、レウィシアサマ」
「助かる」
こうしてみると俺たちもなかなかの戦力だ。
それぞれが自分を守る力と誰かを守る力を持っている。
それを互いのために使うことができる。
頑張りが少しずつ実を結ぶのを実感した。
「いろいろな魔法を覚えられそうだな」
今まではみんなを守ったり、周囲に合わせる魔法を主体としてきた。
これからはもっと幅広い魔法を覚えられそうだ。
「それに、俺ももっと鍛錬しなきゃな……」
足手まといにならないよう、もっと強くならなければ。
改めて気を引き締めるのだった。




