王子
アーティの問題が解決してから一月が経った。
目まぐるしい日々も終わり、静かに時は流れる。
アーティに刻まれていた命令は消滅した。
これで何にも縛られず過ごすことができるだろう。
修復した後、力尽きた俺をアーティは背負って月光の森に運んでくれたらしい。
あの後、みんなに謝罪したようで、二度と一人で背負い込まないと約束した上、許してもらえたと聞いた。
「アーティちゃん、絵本読もうよ」
「はいデス、ルナサマ」
手を繋いで歩いている。
前と変わらず仲良くやれているようだ。
他のみんなとも色々あったようだ。
「アネモネサマにお尻を思い切り叩かれマシタ……」
「それくらいしてもバチは当たらないだろ」
ネモにはお尻を叩かれ。
「アーティちゃん、これから一か月私の仕事の手伝いね」
「承知いたしマシタ」
レウィシアさんには仕事の同伴を条件に。
「私は獣人国を救ってくれたことに変わりはないから」
カトレアは特に見返りなく許していた。
俺はというと。
「マスタ……、ワタシを助けて頂きありがとうございマシタ。
核を通してマスターのことを見てマシタ」
「当然のことをしたまでだよ。
それとなアーティ」
「はい、マスター……」
「今後は何かあったら俺たちを頼ってくれ。一人で抱え込むなとは言わない。
ただ抱え込む必要があるなら、その説明はして欲しい」
「承知いたしマシタ」
「俺は大切な人を失いたくないんだ。
俺にとってアーティも大切な人の一人だ。
だからアーティもみんなのことを守って欲しいし、背中も預けて欲しい」
「はいデス……」
僅かだが表情や声色の微妙な変化が見られるようになった。
申し訳なさ、感謝、そしてもう一つ何かの感情が混ざっていそうだ。
その後は事後処理としてあちこち飛び回った。
獣人国へは国を救うために海に飛び込んだとだけ報告した。
「《スキル開示》!」
俺はスキルを確認する。
魔術の欄から《超回復薬生成》が消えていた。
《修復魔術》の制約に選ばれて消滅したようだ。
「ポーションのストックは2本か、大事に使わないとな」
今までのように超回復薬のポーションに頼ることはできない。
より一層無理をしないように気を引き締めなければ。
そして一月が経ったことで魔法創造が使用できるようになった。
試しに《超回復薬生成》を再度作ろうとした。
何も起きないまま、再びカウントダウンに入ってしまった。
恐らく失敗だろう。
無駄に消費してしまったが、学びは得た。
「《修復魔術》は気軽に使えないな……」
五大国会議。
「人間国国王よ、約束通り王の座を降りてもらおう」
獣人国の国王が告げる。
ロイの尽力で奥の手も不発に終わった。
「どいつもこいつも、使えねえ奴らばかりが……」
人間国の国王が悪態をつく。
「見苦しいぞ、王が約束を違えるなどあってはならん」
竜人国の国王が毅然と言い放つ。
「国の政治にお前ら他国が干渉なぞできん。
孤立しようが王の座を降りるつもりはないわ」
頑なに降りようとしない。
「そうだな、それならこうしようではないか」
竜人国の国王が目配せした。
すると。
「貴様は……」
「父上……」
人間国の王子が姿を現した。
「何しに来た」
「父上に王の座を私に譲って隠居して頂くようお願いしに来ました」
「何だと貴様ああああ!」
人間国国王は激高するが、王子は意に介さず涼しい顔をしている。
「国では旧体制派と反父上派で内戦を始めようとしております。
ですが旧体制派は此度の戦争で消耗しており敗戦は濃厚。
ここで王の座を降りていただければ命だけは奪わぬよう取り計らうことができましょう」
「舐めるな、今ここで貴様の首を飛ばしてやっても良いのだぞ」
人間国国王が詠唱を開始しようとしたところ。
「御前会議の場で血を流そうなどと言語道断。
このまま続けるのであれば我々他国はそなたの首を取らなければならん」
魔人国の国王が魔力を纏いながら告げる。
人間国の国王がいかに実力者であろうと同等の者との五対一は無謀である。
「くそっ、クズどもが」
吐き捨てる。
だが出口へ向かう直前。
一度だけ振り返った。
「まだ終わってはおらん、生きている限り王座はオレ様の物だ!」
それだけ言うと出て行った。
「あの男は出禁ですわね、異論はありませんよね?」
人魚国の女王の問いに全員が同意する。
「これで四大国はお主を人間国国王として承認しよう」
「だが、内々の問題はそなたで解決してもらわなければならぬ。
王の座に着こうとするのであればそれくらい容易いだろう」
竜人国国王と魔人国国王が告げる。
「もちろんですとも。諸陛下の期待に応えて見せる所存です」
会議が終わり、私は一息ついた。
他国の承認を得て、今日より人間国の国王に就任した。
だが、父上は王座にしがみついたまま抵抗している。
肉親ということで、命だけは助けようと思ったがやめた。
父上を討ち、国内でも実権を握る。
「母上……」
母上の写真を見て呟く。
まだ母上が存命だった頃。
父上も当時は国のため尽くす人だった。
何があったかは分からない。
だが、母上の死後変わってしまった。
力に固執し、虚勢を張り、横暴になってしまった。
「私は母上が愛したこの国を良くしたい」
そう思った日から今日まで努力を重ねてきた。
もう少しで実ろうとしている。
「よし、もう一息だ」
これから布石を打ちにいく。
正装を脱ぎ、黒のフードを被った。
「《隠蔽魔術》」
フードの下の素顔がぼやけ、声が変わる。
「さて、一仕事してくるさ」
城を後にし、フードの商人として外へと繰り出す。
そして月光の森の方向へ歩き始めた。




