アンジェの手紙
墓標を前に祈りを捧げる。
アインさん、ゲイルさん、マークさん。
そして、同ランク帯の同僚たち。
瞼を閉じれば彼ら、彼女らと過ごした日々が蘇る。
俺は一人ひとりに感謝を伝えて回った。
ひとしきり回り終え、最後はアンジェさんの墓標の前に立つ。
お供えの百合をそっと置いた。
「アンジェさん……今まで本当にありがとうございました……」
彼女には感謝してもしきれない。
たくさんの感謝の言葉が出た。
本当は直接伝えたかった。
「アンジェさん……俺がもっとしっかりしていれば……」
自分がもっと早く国軍の企みに気付いていれば。
もっと自分が強ければ。
後悔してもしきれなかった。
懺悔を終えて、最後に再度深く祈りを捧げる。
そして踵きびすを返そうとした時、ペンダントが反応する。
慌ててペンダントを取り出すと、魔力の反応がある。
ペンダントにはメッセージを残す魔法が込められていた。
死を悟ったアンジェさんが遺したものだった。
最期の瞬間まで俺のことを案じてくれていたのだ。
ペンダントに魔力を込める。
光り輝くと同時に文字が浮かび上がった。
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『ロイくんへ。
もしこの手紙を読んでいるなら、私はもうこの世にはいないのでしょう。
初めて会った時、あなたは亡くなった弟によく似ていました。
泣き虫で、不器用で、それでも誰かを思いやれる優しい子。
……だから私は、あなたに弟の名前を託しました。
「ロイ」という名前を背負わせるなんて、勝手だったかもしれません。
ごめんなさい。
それでもあなたは、その名前を大切に生きてくれました。
冒険者になって、仲間ができて、友達が増えて。
少しずつ笑顔が増えていくあなたを見るたびに、私は本当に嬉しかった。
気がつけば、あなたは本当の弟のように思っていました。
いいえ、あなたは、私にとって大切な家族でした。
だから、お願いがあります。
私に縛られないでください。
復讐のために生きないでください。
あなたの力は、人を傷つけるためじゃない。
誰かを守り、誰かを笑顔にするためにあると、私は信じています。
昔のあなたみたいに、泣いている誰かに手を差し伸べてあげてください。
それがきっと、あなたにしかできないことだから。
……もし、それでも心が折れそうになった時は、このペンダントを見てください。
私はもう隣にはいられないけれど、このペンダントには、
あなたを守りたいという私の願いを込めました。
あなたは一人じゃありません。
私はいつまでも、あなたの家族です。
最後に。
ロイくんに出会えて、本当に幸せでした。
愛しています』
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俺は静かに目を閉じた。
頬には涙がゆっくりと流れる。
この涙はいつもとは違う。
悲しみだけではない涙だった。
アンジェさんや、ギルドのみんなを思い浮かべる。
楽しかった日々。
初めてギルドに来て泣いてしまったこと。
ロイという名前をもらったこと。
初めて一人でこなせた任務のこと。
アインさんとゲイルさんと一緒にこなした任務のこと。
他愛もない話で笑いあえた日々。
すべては過去のものになってしまった。
気づけば胸の奥で、何かが燃えていた。
喪失や怒り。
そして、もう二度と同じ悲劇を繰り返したくないという願い。
「……絶対に許さない」
国も、王も。
そして、この世界の理不尽も。
俺はそんなに強くはない。
復讐を抑え込めるほど冷静にはなれなかった。
振り返れば、そこには俺の帰る場所があった。
もう二度と帰れない場所だった。
ペンダントを胸に握り締める。
「行ってきます」
誰も答えない。
それでも俺は、一歩を踏み出す。
失った居場所を胸に刻みながら。
この日を境に、ロイという少年の旅が、本当の意味で始まった。
――プロローグ 完――




