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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
プロローグ
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アンジェの手紙

 墓標を前に祈りを捧げる。

 アインさん、ゲイルさん、マークさん。

 そして、同ランク帯の同僚たち。

 瞼を閉じれば彼ら、彼女らと過ごした日々が蘇る。

 俺は一人ひとりに感謝を伝えて回った。


 ひとしきり回り終え、最後はアンジェさんの墓標の前に立つ。

 お供えの百合をそっと置いた。


「アンジェさん……今まで本当にありがとうございました……」


 彼女には感謝してもしきれない。

 たくさんの感謝の言葉が出た。

 本当は直接伝えたかった。


「アンジェさん……俺がもっとしっかりしていれば……」


 自分がもっと早く国軍の企みに気付いていれば。

 もっと自分が強ければ。

 後悔してもしきれなかった。


 懺悔を終えて、最後に再度深く祈りを捧げる。

 そして踵きびすを返そうとした時、ペンダントが反応する。

 慌ててペンダントを取り出すと、魔力の反応がある。

 ペンダントにはメッセージを残す魔法が込められていた。

 死を悟ったアンジェさんが遺したものだった。

 最期の瞬間まで俺のことを案じてくれていたのだ。


 ペンダントに魔力を込める。

 光り輝くと同時に文字が浮かび上がった。


-----------------------------------------------------------


『ロイくんへ。


 もしこの手紙を読んでいるなら、私はもうこの世にはいないのでしょう。


 初めて会った時、あなたは亡くなった弟によく似ていました。

 泣き虫で、不器用で、それでも誰かを思いやれる優しい子。

 ……だから私は、あなたに弟の名前を託しました。


 「ロイ」という名前を背負わせるなんて、勝手だったかもしれません。

 ごめんなさい。

 それでもあなたは、その名前を大切に生きてくれました。


 冒険者になって、仲間ができて、友達が増えて。

 少しずつ笑顔が増えていくあなたを見るたびに、私は本当に嬉しかった。

 気がつけば、あなたは本当の弟のように思っていました。

 いいえ、あなたは、私にとって大切な家族でした。


 だから、お願いがあります。

 私に縛られないでください。

 復讐のために生きないでください。


 あなたの力は、人を傷つけるためじゃない。

 誰かを守り、誰かを笑顔にするためにあると、私は信じています。

 昔のあなたみたいに、泣いている誰かに手を差し伸べてあげてください。

 それがきっと、あなたにしかできないことだから。


 ……もし、それでも心が折れそうになった時は、このペンダントを見てください。

 私はもう隣にはいられないけれど、このペンダントには、

 あなたを守りたいという私の願いを込めました。


 あなたは一人じゃありません。

 私はいつまでも、あなたの家族です。


 最後に。

 ロイくんに出会えて、本当に幸せでした。

 愛しています』


-----------------------------------------------------------


 俺は静かに目を閉じた。

 頬には涙がゆっくりと流れる。

 この涙はいつもとは違う。

 悲しみだけではない涙だった。

 アンジェさんや、ギルドのみんなを思い浮かべる。


 楽しかった日々。

 初めてギルドに来て泣いてしまったこと。

 ロイという名前をもらったこと。

 初めて一人でこなせた任務のこと。

 アインさんとゲイルさんと一緒にこなした任務のこと。

 他愛もない話で笑いあえた日々。


 すべては過去のものになってしまった。

 気づけば胸の奥で、何かが燃えていた。

 喪失や怒り。

 そして、もう二度と同じ悲劇を繰り返したくないという願い。


「……絶対に許さない」


 国も、王も。

 そして、この世界の理不尽も。

 俺はそんなに強くはない。

 復讐を抑え込めるほど冷静にはなれなかった。


 振り返れば、そこには俺の帰る場所があった。

 もう二度と帰れない場所だった。

 ペンダントを胸に握り締める。


「行ってきます」


 誰も答えない。

 それでも俺は、一歩を踏み出す。

 失った居場所を胸に刻みながら。

 この日を境に、ロイという少年の旅が、本当の意味で始まった。



――プロローグ 完――

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