失踪
朝目覚めたら、アーティがいなくなっていた。
「お兄ちゃん!アーティちゃんがいないの」
息を切らしたルナが走ってきた。
日課でルナとアーティは朝、森を散歩していた。
だが今日は姿を現さなかったという。
「アーティちゃん、先に行ったと思って森中探したけど、見つからなくて」
昨日のこともあり傷心したのだろうか。
無いはずの感情が少しずつ芽生えているように感じていた。
「一人になりたくなったのかな」
情報から導かれた行動なのかもしれない。
日々進化し続ける以上、今までの枠組みでは考えられない。
「でも……なんだか胸騒ぎがするよ……」
ルナは心の底から心配しているようだ。
「確かに勝手にいなくなるのはおかしいな」
思い返すと確かに腑に落ちない。
感情起因での行動は確かに見られたが、感情が先行したことは無かった。
必ず行動する時には報告をするよう指示していた。
その指示を無視してまで感情で行動するとは考えられなかった。
「平和ボケしていたかもしれない……」
俺は血の気が引いた。
アーティの本当の管理者が命令を書き換えた可能性は否定できない。
人間でいう忘却魔法や記憶の封印魔法。
それと同じようにアーティの命令を封印しておいて、解除したという可能性がある。
「ルナ!急いで探すぞ!」
俺は駆け出していた。
今までアーティそのものを警戒していた。
だからこそ反応や行動に対して無実だと判断していた。
実際、今まで接していたアーティの人格そのものは無実な可能性が高い。
怪しい行動は一切取らず、こちらに危害を加えるつもりも無いのは明らかだった。
だが、考えが及ばなかった。
管理者情報は抹消されたのではなく、一時的にロックされている。
何らかのトリガーでロックが解除されることで、本来の命令が実行されるのだろう。
もしくは人格を乗っ取って、物言わぬ兵器に変わる可能性がある。
魔法傀儡に対する知識が圧倒的に不足していたことも問題だろう。
ただ、それ以上にアーティのことを人間として認知しすぎていたのだ。
「ネモちゃん!シアちゃん!アーティちゃん見なかった!」
ルナがネモとレウィシアさんの家に入って行った。
「いや、見てない」
「そうだね、今起きたばっかりだからね」
二人が欠伸をしながら出てきた。
「まずいことになった、もしかするとアーティは……」
俺の見解を二人に話した。
二人は一瞬で目が覚めたようだった。
「アーティは裏切ったわけではない、ないからこそ、くっ……」
ネモが目を伏せて拳を握り締めた。
アーティを操る存在に対する怒りを感じた。
「そうなると色々とやばいね……」
レウィシアさんの顔が青ざめる。
もし、この見解が正しかったと仮定する。
見つけられなければ、獣人国に大量の犠牲が出ることになる。
見つかれば、俺たちでアーティを破壊しなくてはいけない。
どちらに転んでも最悪なシナリオだった。
「アーティちゃん、どうなっちゃうの?」
ルナが心配そうにしている。
伝えないわけにもいかない。
俺はできる限り実情を和らげて伝えた。
「そんな……アーティちゃん……」
ルナの目に涙が溜まる。
ルナが一番アーティと仲が良かった。
俺の何倍も辛い思いをしているだろう。
「アーティを探そう――」
森には魔力は感じられない。
恐らく外に出ている。
手分けして探すことにした。
俺は人間国、ネモとレウィシアさんで獣人国。
二人にはまずカトレアの家に行って、声をかけて合流してもらう。
ルナは戻ってくる可能性を考えて、森で留守番してもらう。
「どこだ、どこに行ったんだ……」
必死で走る。
ソルヌ、トピア、ヴァント。
心当たりのある場所を探す。
何としても見つけなければならない。
見つければまだ助けられる可能性はある。
「久しぶりだな、この胸の痛みは」
大切な人を失いそうになる時の胸の痛み。
久々に感じた。
あんなに純粋な子にこんな残酷な結末を背負わせるなんて。
運命に怒りを感じた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
あたしは怒りを抑えられないでいた。
「アネモネさん、どうしたんだ?」
カトレアの家について、事情を説明した。
「……くっ」
カトレアの表情が歪んだ。
事情は伝わったようだ。
「本当に酷いことをする、あの国の王は……」
「まったくだ、この手で殺してやりたいよ」
憎悪が募っていく。
「……」
シアは無言のままだ。
お喋りな彼女が静かなのは珍しい。
本気で今回のことを怒っている。
ルナの次くらいにアーティのことを可愛がっていた。
「聞き込みと、捜索に分かれよう」
聞き込みはシアに任せ、あたしとカトレアは二手に分かれて捜索に向かう。
「絶対見つけるからな!」
身体強化まで使い、全力で駆け出した。
「……皆サマ、申し訳ないデス」
アーティは一人彷徨っていた。
手には一通の手紙がある。
ワタシを愛してくれた人たちへ向けて、自分の気持ちを綴ったもの。
「この手紙を出したらワタシは……」
言葉に詰まる。
感情は無いはずだった。
なのに不思議なものがこみ上げる。
本当の感情は知らない。
それでも、この胸を渦巻く魔力の乱れを言葉にするならば――
「これが感情なのデスネ……」




