魔導回路
ダンジョン攻略を始めてから半月。
依頼もドロップも芳しく無かった。
「はああああ!!!!」
敵を倒す速度は上がってきている。
実力は着実に伸びてはいる。
だが、相変わらずダンジョンに手がかり無し。
どこにでもある普通のダンジョンだ。
「うーん、今回も外れか」
宝箱を開けるが中身は魔石や素材など。
短剣のような武器はあれから一つも出なかった。
「あれ、レアドロップみたいだからね」
レウィシアさんがギルドで聞いた話をしてくれた。
「それにしても手がかりと言えるものがないな」
カトレアが短剣を拭きながら呟く。
そもそもダンジョンのボスのようなものではないのだろうか。
「まあ、一度ギルドに報告しに行くか」
ダンジョンを離脱し、ギルドへ向かう。
「相変わらず進展がなさそうだな」
ネモが目線を向けた先を見ると兵士が行き来している。
不審物が無いか探索をしている。
「もう国の大部分は探し終えたと聞いたが」
カトレアは知人からそう聞いていた。
「まあ、何も無いならそれに越したことはない」
ハッタリの可能性もあると聞いている。
その線であることを願いたい。
そうこうしているうちに、ギルドの前までついた。
「あ、ロイさん、どうでしたか?」
ビオラさんに声をかけられた。
「実はまったく進展が無くて……」
獣人国近辺のダンジョンはひとしきり回った旨を伝えた。
「ありがとうございます。やっぱり進展無いですよね……」
がっくりと項垂れてしまった。
他の依頼も同じような感じなのだろう。
「ハッタリの可能性もあるんだろ?」
「まあそうではあるのですが……」
ネモの問いにビオラさんが言い淀む。
万が一のことがあれば国が滅ぶ可能性だってある。
最悪のパターンを想定するしかないのだ。
「また何か進展があればお願いしますね」
ギルドでの用事を済まし帰路につく。
その時、見知った人物を見かけた。
「これはこれは、久方ぶりだねぇ」
フード姿の商人だった。
トピア以外で顔を合わせるのは初めてだった。
「何だお前は!」
ネモが剣を構える。
それに合わせて他の皆も戦闘態勢に入る。
「おー怖い怖い」
「待った、この人は少なくとも敵じゃない」
俺が制止するとみんな構えを解く。
だが警戒はしたままだ。
「まあ、見るからに怪しいからね、彼女たちの反応は正しいさ」
気にしていない素振りを見せる。
確かに慣れてしまって気にも留めていなかったが。
傍から見れば十分怪しい風貌をしている。
「依頼をこなして貰って感謝と言いたかったのだけどね。
まだ終わっていないんだよね」
依頼とは人間国の侵攻を失敗させること。
その依頼主本人が終わっていないと言う以上、脅威はハッタリではなさそうだ。
「一体何が残されているんだ?」
俺が尋ねると商人は首を振った。
「それはわからないのさ。ただ気になる情報はあるさ」
商人はアーティに目を向ける。
見た目こそ変わらないが、アーティがかすかに怯えたような反応をした。
「そこの魔法傀儡。規格外な性能を持っているさ。それはどうしてだと思う?」
「核だろ?」
「そう、この核は、緻密過ぎる魔導回路で出来ているという話さ。
その魔導回路が暴走したらどうなるかね?」
魔導回路とは魔力を流し、形にし、制御するための配線のようなもの。
魔力が制御しきれず暴走した際に魔力の暴発が起こる。
それが原因で起きた死亡事故を見聞きしたことがある。
「だけど、アーティの魔力の蓄積量は大したことは無いんだが」
暴発時の被害は魔力の大きさに比例する。
大量に魔石を積んだ大型魔石車の事故ですら大火球程度の被害だった。
その魔石車より魔力の蓄積量が劣るアーティがそれ以上になるとは考えにくい。
「そこなんだよね、だから推察の域を出ないさ」
手を広げてあっけらかんと言い放つ。
それを聞いてネモが声を荒げた。
「ふざけるな!そんな不確かな推測で悪者にするんじゃない!」
ネモが剣を地面に突き立てた。
妹のように大切にしているアーティを推測だけで悪者にされて怒り心頭になる。
「そうだ、そうだ、アーティちゃんは悪い子じゃないもん!」
ルナも珍しく声を上げる。
「そうだね、友達を悪く言われるのは良い気がしないね」
「ああ、私は仲間を信じる」
レウィシアもカトレアも同調する。
「皆サマ……」
アーティが目を閉じて一言呟く。
「アーティのことは仲間に迎え入れたんだ。だから俺たちはアーティのことを信じる」
一度は疑ってしまった。
それでも長く過ごしているうちに意識は変わった。
「俺たちの大切な仲間だからな」
その言葉にみんな頷く。
アーティは目を伏せたまま何も言わなかった。
「ふーむ、なるほどね……」
商人は考え込むような素振りをした。
「まあ今回の件とは関係なくとも、魔導回路の暴走自体は頭に入れておいて欲しいさ」
「それはもちろんわかってる」
「こちらとしても魔法傀儡が原因かどうかはどっちでも良いさ。
問題を解決してもらえればそれでいいさ」
商人はそれだけ告げると闇に紛れて姿を消した。
「アーティちゃん!」
ルナがアーティを抱きしめる。
他のみんなもルナに続いて抱きしめる。
心温まる光景だった。
それでもアーティは目を伏せたまま一言も話さなかった。
そして、その日を境にアーティは俺たちの元から姿を消した――




