ダンジョン
月光の森に帰ってからみんなに依頼のことを話した。
「なんだって、まだ何かあるのか……」
カトレアが血相を変えた。
国、村、そして家族の危機はまだ去っていない。
「あの国王、本当に性格悪いな」
ネモが人間国国王に悪態をつく。
妹を人質にされ、捨て石にされたことに対する恨み。
「それでダンジョン攻略なのか」
カトレアには俺の過去について話してある。
変異種ヒドラのことから合点がいったようだ。
「でも私たちで倒せますかね?」
レウィシアさんが難しい顔をしている。
確かに変異種ヒドラは、Aランクの冒険者数人がかりで、やっと討伐できるような代物だ。
《封印術》によって何とかなったが、次も同じ手が通用する相手かは未知数。
「それに封印術があったとしてもロイの身体が」
カトレアが俺の手の甲の蛇の紋章を見る。
封印術の制約で新月の夜は身が焼けるような苦痛が襲い掛かってくる。
穢れの封印の方はルナの母の力のおかげか特に何も無い。
いつかは解決しなければいけない問題だ。
「でも誰かがやらなきゃ、あたしたちも含めた全員が危険に晒される可能性もある」
ネモが腕を組む。
人間国にとっての切り札となる脅威となれば、俺たちが無事である保証は勿論ない。
「もちろん危険があれば撤退する、命第一だ」
あくまで調査だ。
杞憂に終わる可能性だってある。
《超回復薬生成》で作ったポーションは3本。
いざという時は《封印術》もある。
「ダンジョン攻略頑張るぞー!」
ルナの掛け声に合わせて士気を高める。
その時、アーティの表情が一瞬曇ったが、誰もそれに気づかなかった。
まず一番近くのダンジョンに潜った。
バットやラットといった低級の魔物が襲い掛かってくる。
「《火球》!」
ルナが詠唱して火の玉を放った。
たちまち燃え尽きる。
「やった!」
ルナの活躍でどんどん進んで行く。
階層ごとに担当を決めて攻略していく。
アーティも戦闘に加わる。
「対魔物ガス発射デス」
アーティが収納スペースから取り出して発射する。
ラットやバットがひっくり返るように倒れる。
低級魔物にダメージを与える魔道具だ。
人には影響を及ぼさないため安心して持たせられている。
少しずつ下の階層へ行くたびに魔物は強くなる。
それでも。
「私の攻撃受けてみよ……ってね!」
レウィシアさんが難なく捌く。
「はぁ!!!」
カトレアもそれに続き。
「ふん、手ごたえもない」
ネモも軽々倒す。
そして最下層のボスはキング・ラット。
「《大火球》!」
俺の魔法で焼き払った。
「やったね!」
ルナがはしゃぐ。
「それじゃあボスドロップを見るか」
魔物が直接物を落とすことはない。
ダンジョンを生成・維持する魔力の核が宝箱に変化する。
その現象をボスドロップと呼んでいる。
「それじゃあいっきまーす!」
レウィシアさんが我先に箱を開ける。
「あ、ずるいぞシア!」
ネモが口を挟むがもう開いた後だった。
「これは短剣か?」
箱からは炎の魔力を帯びた短剣が出てきた。
「短剣ならカトレアが貰ってくれ」
俺はカトレアに短剣を渡した。
「そ、そんな貴重なものを貰うわけには……」
カトレアが手を左右に振った。
「でも短剣使うのはカトレアだしな」
「そうだよ、カトレアちゃんが持つべきだよ」
「そうだね、私じゃ使いこなせないや」
「ワタシも魔力を使う武器は使いこなせないデス」
全員一致の意見になった。
「それであれば、ありがたく使わせてもらう」
カトレアが受け取った。
「試しに使ってみて!」
ルナがワクワクしながらカトレアの方を見る。
「わかった、《炎の刃》!」
短剣を振ると、風の斬撃が炎を纏った。
「すごい……」
カトレアは息をのんだ。
カトレアは風属性の適性しか持ち合わせていない。
しかし、先ほどの攻撃は間違いなく炎の魔法攻撃だ。
「なるほど武器の力があれば適性外の魔法も使えるのか」
ネモも興味を示した。
ネモも炎属性の適性しか持ち合わせていないからだろう。
「ボスドロップか……」
精度や耐久面という問題はあるものの、《魔力付与》を使えば疑似的に作ることはできる。
ただ、この武器は元より炎属性を持っている。
「こんなすごい武器があるのに、どうして見かけないんだろ?」
ルナが疑問を抱く。
「それは……」
人間国の冒険者が根こそぎ国に納品しているからだろう。
おそらく今まで踏破されたダンジョンのドロップの大半は人間国が保有している。
「そろそろ帰るか」
魔力の核が消えたことで、ダンジョンの魔力は完全に消失した。
それによって魔物は姿を消す。
「《大火球》!」
ダンジョンを抜け出した後、ダンジョンを破壊した。
魔物の巣にならないよう、攻略済のダンジョンは処理をする必要がある。
「あっという間に終わったね」
ルナが伸びをする。
「そうだねぇ、他もこのくらいならいいけど」
レウィシアさんの発言に俺も同意する。
「この調子で他のダンジョンも頑張ろう!」
今日のダンジョン攻略は大成功に終わった。
ただ、依頼の話をしてからアーティの口数が明らかに減っている。
誰もそのことに気付いていなかったのだった。




