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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第五章 魔法傀儡の少女
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感情という名のデータ

アーティが現れてから一週間が過ぎた。


俺が目を離すわけにもいかず、常に共に行動している。


今はカトレアと三人で討伐任務に来ている。


「カトレア!ワイルドボアを頼む、俺はワイバーンを倒す」

「了解!任せて」


地上と空中の同時戦闘。


地上をカトレア、空中を俺が担当する。


「《身体強化》!からの《風連撃》!」


魔力付与された短剣から風の刃を連発する魔法攻撃。


切り裂かれたワイルドボアは血を流して倒れていく。


新技が決まっていく。


「おお、やるな」


感心していると空からワイバーンのブレス攻撃を確認した。


「俺も新技があるんだよね。《豪炎球》!」


ネモから教わった豪炎球を放つ。


ワイバーンのブレスをかき消し、そのままワイバーンを燃やす。


「すごいな……」


カトレアが感心したような声を漏らす。


その後も、カトレアが短剣を振るい、俺は詠唱を続ける。


切り刻まれて倒れるワイルドボア。


魔法で撃ち落とされるワイバーン。


最後の一匹を倒した。


「よし、完了だ、そろそろ帰ろう」


帰り支度を済ませて帰ろうとしたその時だった。


「危ない!」


他の冒険者の弓矢が逸れてアーティに飛んできていた。


アーティは動かない。


交わそうとする気すら感じられない。


「くっ!」


カトレアがアーティを庇うように腕で受ける。


「カトレア!」


俺はカトレアに近づくとヒールをかける。


幸い傷は浅かったため、すぐに回復した。


「ごめんなさい……」


申し訳なさそうに獣人の冒険者が謝りにきた。


「ああ、私は大丈夫だ。今度は気を付けるんだよ」


カトレアはポンと頭に手を乗せた。


新入りでまだ子供の弓使いの少年だった。


「は、はいっ!」


顔を真っ赤にして走っていった。


この子にとっての初恋になったのかもしれない。


俺は微笑ましく見送った。


「あの……ワタシは弓が当たっても痛みを感じることはアリマセン。

 矢程度であれば、傷がついても研磨すれば消えマス。

 なので守って頂かなくても大丈夫デス」


アーティが淡々と説明した。


「ああ、わかってるんだけど、身体が咄嗟に動いちゃってね」


よく怪我するんだとカトレアは笑った。


「それと一つ疑問なのデス。

 どうしてアタシを守ったのデス?」


魔法傀儡は道具に過ぎない。


道具を守るために自分が傷ついていたら意味がない。


おそらくそう認識したのだろう。


「そうだな、なんか一緒に過ごすうちに仲間だと思い始めたからかな。

 感情が無いのかもしれないけど、こうして話すと返してくれるし。

 もう、一人の人間として接している気がする」


カトレアが少し考えて答えた。


「なるほど、記憶シマシタ」




また別の日。


ルナとアーティと俺で獣人国の首都スーベニアに遊びに来ていた。


「首都ってすごいね!お店がいっぱいあるよ!」


ルナがはしゃいで駆け出す。


「走ると危ないぞ」


そう言ってルナの手を取る。


「えへへ、ごめんなさい」


ルナは手を握り返す。


「あ、そうだ、アーティちゃんも手を出して」

「手デスネ、分かりマシタ」


アーティも手を出すと、ルナがその手を取る。


「アーティちゃんの手、冷たくて気持ちいいね」

「ルナサマの手は温かいデス」


ルナは、性格が甘えんぼで明るい性格から幼く見えはするが、

一応、第二次性徴期を終えたくらいの年ではある。


両親と手を繋ぐ子供のような雰囲気という表現は不適切かもしれないが、

それに近い印象を与えそうだ。


カフェについた。


「ルナ、アーティ、何にする?」

「ルナはマッゴージュースが飲みたい、カトレアちゃんが教えてくれたの」

「ワタシはお水で大丈夫デス」

「えー、せっかくカフェにきたんだから何か飲もうよ!」

「……ルナサマがそう言うのであれば、同じ物が飲みたいデス」

「じゃあ俺もそれにするか。

 すみません!マッゴージュース3つお願いします!」


店員が注文を受け取って下がっていった。


「マッゴージュース楽しみだね!」


ルナがそう言った瞬間。


「おい!」


獣人の男がそう言うと、アーティに水をかけた。


「人間風情が獣人国に来てんじゃねえよ」


怒りながら、そう吐き捨てた。


獣人国の勝利に貢献をしたが、人間への憎悪はそう簡単に取り除けない。


大体の人たちは俺たちを歓迎してくれている。


だが、一部はこの男のように今でも恨みを持つ者はいる。


それはしょうがないことだ。


「アーティちゃんに謝ってください!」


ルナも毅然とした態度で怒った。


「うるせえよ、俺の家族は人間に殺されてんだ。

 いくらこの国に貢献していようが、目障りなもんは目障りなんだよ」

「なら、俺にも水をかけてくれ。それで気が済むのであれば安いものだ」


こんなことで気が晴れるとは思えないが、受け止めるべきだろうと思った。


「そんなことできるわけないだろ!

 国王のお気に入りで多大な貢献をしたあんたに無礼を働いたら何されるか」


その言葉に頭にきてしまった。


人間への憎悪があるのは間違いないだろう。


それでも、周囲の評価を気にして、俺には行わないという理性が働きながら、

アーティには平然と行ったことに対する点は許すことができない。


「何かされないならやってもいいことなのか?

 彼女にはやってもいいことだって言いたいのか?

 やり返さなさそうだからか?それでも男か」


俺もアーティと長く一緒にいたことで、

いつの間にか、ただの魔法傀儡とは思えなくなっていた。


一触即発の状況になったその時。


「そこまで、これ以上は店に迷惑がかかるだろう」


恰幅の良い男が近づいてきた。


「あなたは総司令官!」

「ロイ殿ご無沙汰だね。そう言えば名乗ってなかったか。

 私はヴァル・クルーグと言うんだ」


獣人国軍総司令官だった。


「ヴァル大将……!?」


男が目を見開いた。


「話は聞かせてもらったが、彼と彼女はお前の家族の死に関係無いだろ。

 俺だって家族も恋人も人間に殺されている。

 憎むなとは言わん。だが関係のない者にぶつけるな。」


男は何も言い返せなかった。


「そこのお嬢さん、大変申し訳ない」


ヴァルさんが頭を下げる。


「ヴァル大将がそんな……わ、悪かった、水かけてすまない」


男も頭を下げる。


「ワタシは大丈夫デス」


その後、ヴァル大将がお詫びに御馳走してくれた。


好意を断るのも申し訳ない。


今後何かあった時にお返しをしようと思った。


その後、帰り道。


「あの、ルナサマはワタシのために何故怒ってくれたのデス?

 ワタシは感情がアリマセン。

 悲しさも怒りも何も感じないデス」

「あのねアーティちゃん。お友達が嫌なことされたら怒るのは当然のことなんだよ。

 アーティちゃんが水かけられたのを見て、ルナは悲しかったの」

「友達デスカ……」

「うん、ルナはアーティちゃんのこと友達だと思っているよ、アーティちゃんは違うの?」

「ワタシは友達というものがよくワカリマセン。

 でもルナサマが辛い目に遭ったら、ワタシも辛いと思いマス。

 それは経験や情報から導き出された結論デス」

「それならルナとアーティちゃんは友達だよ!」

「友達……記憶シマシタ」


まだ出会ってから日は浅いが、みんなとアーティに絆が芽生え始めた。


俺の中でも、脅威とは別の懸念が生まれ始めていた。


みんなの気持ちが踏みにじられることが無いことを祈るばかりだ。


俺の中での認識が少しずつ変わっていくのだった。

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