魔法傀儡
ヴァントにフードで身を隠した人物が立ち尽くしていた。
このフードは国軍のデコイ兵士が着用していたものだ。
どこから来たのか、今まで何をしていたか分からない。
「……行かなきゃデス」
ただ、自分の中に刻まれた命令だけは覚えている。
覚束ない足取りで歩みを進める。
フードから見えるのは人とは思えない精気の無い肌。
虚ろな瞳でひたすら前だけを見ている。
「……魔力」
魔力が尽きかけている。
そのまま意識を失い、地面に倒れ込んだ。
俺はルナと二人で、獣人国にある森林地帯の討伐依頼を受けていた。
今回はルナが主体で俺が援護という形を取っていた。
「《風の刃》!」
俺が詠唱すると風の刃が一面のゴブリンを切り裂いた。
次々と倒れていく。
「次は《水球》!」
再び詠唱すると水の球がホーンラビットを直撃する。
当たった瞬間、水が弾け、窒息させる。
ゴブリンは数を減らすため火力重視。
ホーンラビットは素材が傷むから別の魔法。
ルナに使い分けを教える。
「次はルナもやってみるか?」
「やるやるっ!」
ルナが詠唱を始める。
「えい!《風の刃》!」
風の刃がゴブリンを切り裂く。
少数ではあるが確実に討伐できている。
「次は《土礫》!」
土を礫のように細かくしたものをぶつける初級魔法。
ルナが獣人の子に教わっていた魔法だ。
大量の礫が襲い掛かる。
ホーンラビットは礫の勢いに吹き飛ばされて気絶した。
「わーい、ルナもうまくできた!」
「良かったぞ、上出来だ」
喜ぶルナの頭を撫でる。
「えへへ……」
目を細めてルナが微笑む。
同じ年齢の子たちより頭一つ抜けている確信がある。
「さて、そろそろ帰るか」
「はーい」
森林地帯を抜けて深淵の森に帰ろうとした時だった。
「お兄ちゃん、あそこで誰か倒れてるよ」
フードを着た人物がヴァント付近で倒れていた。
「おーい、大丈夫か?」
声をかけながら近づくが反応が無い。
身体を起こすと人間の少女だった。
いや違う。
顔こそ普通の人間だが精気が無い。
それに身体が球体関節で出来ている。
「魔法傀儡か」
ヴァントの国軍がデコイに使っていた魔法傀儡の一体だろう。
ほとんどは破壊されたか、放棄されて回収して解体されたはず。
「……ま、魔力」
うわ言のように魔法傀儡が呟いた。
「うわっ!」
それを聞いて驚いてしまった。
魔法傀儡は魔力の糸が無ければ動かせない。
なのに動いている。
しかも喋った。
あまりにも異質な存在に恐怖を覚えた。
「国軍が残した兵器かもしれない、どうしようかな……」
得体の知れないものを放置しておくわけにもいかない。
本来なら破壊するのが正しい行動だ。
だが、幼気な少女の見た目をしており、意識もある。
流石に躊躇してしまう。
「お兄ちゃん、助けてあげようよ」
ルナが懇願する。
魔力の糸が無い以上、誰かが操っているとは思えない。
それにもし、他にも同様の傀儡が存在するとしたら。
今後の脅威となるだろう。
それであれば、リスクはあるが調査すべきだ。
「そうだな、一旦連れ帰ろう」
傀儡の少女を抱えて深淵の森に戻った。
深淵の森に帰ってきた。
カトレアとネモはそれぞれ依頼でいない。
レウィシアさんだけが戻っていた。
「おかえりー。
……って!何?何?少女誘拐してきたの?」
レウィシアさんが驚いた表情になる。
「違う!違う!これは魔法傀儡だ」
「道の真ん中で倒れてたんだよー」
必死に説明する。
「いや、でもなんで連れ帰ってきたの?」
「実は訳があって……」
魔力の糸と繋がっていないのに動いたこと。
言葉を発したことを伝えた。
「それは興味深いね」
レウィシアが興味津々に傀儡を見る。
「何かあるといけないから一旦二人は席を外して」
「わかったー!」
「はいよー」
二人を退避させる。
魔法傀儡の臀部に尻尾のようなプラグがある。
これを手にもって魔力を流し込む仕組みのようだ。
プラグを手にもって魔力を流す。
すると。
「魔力充電完了デス!起動シマス!」
元気な声で魔法傀儡が動き出した。
その後こちらを振り返り。
「管理者情報破損確認、修復不可能、再設定シマス」
管理者、おそらく主人のことだろうか?
何らかの原因で破損してしまっているようだ。
元の管理者が誰だったのかは確認できそうにない。
「名前を教えてクダサイ」
「ロイだ」
「管理者情報再登録シマシタ。ワタシのマスターは、ロイサマデス」
この傀儡のマスターになってしまった。
「ねえねえ、何が起きたの?」
「おー、動いてる動いてる」
ルナとレウィシアさんが戻ってきた。
「うわぁー!すごい!すごい!本物の人間にしか見えないよー」
ルナが驚く。
ルナの元いた時代では魔法傀儡というものは無かった。
いや、むしろ誰も操作していないのに動く傀儡は俺も初めて見るが。
「アナタたちの、名前も教えてクダサイ」
「ルナはルナだよ!」
「私はレウィシア」
「ルナサマ、レウィシアサマデスネ。記憶シマシタ」
ルナとレウィシアのことも記憶したようだ。
「ねぇねぇ、お名前は何って言うの?」
「ワタシに名前はアリマセンガ、型番はアーティフィシャル・ブルーローズ……」
長ったらしい言葉が続く。
「うーん、長すぎて覚えられないよ……
そうだ、アーティ、アーティちゃんってのはどうかな?」
「おー覚えやすいし、いいな」
「ルナちゃん、センスいいねー!」
「でしょ!でしょ!」
「畏まりマシタ。ワタシの名前はアーティデス」
名前はアーティに決まった。
「これからよろしくね!アーティちゃん」
「彼女が何者なのか、解き明かしていくのも面白いかもねぇ」
「そうだな、いろいろと聞きたいこともあるし」
自立稼働する謎の魔法傀儡のアーティ。
彼女は一体何者だろうか。
疑念は尽きないが今は彼女たちが楽しそうにしている。
一旦様子見を決めた。




