鍛錬
戦争が終結してから一月が経とうとしている。
俺たちは獣人国のギルドに所属することになった。
国の復旧や資材の調達、魔物の退治などの依頼を、
正規のルートで依頼したいということだった。
こちらとしてもありがたい申し出だったので快諾した。
最初にSランクを提示されたが丁重にお断りした。
今回戦争で戦果を挙げたのは俺たちだけの力では無い。
特別扱いされては他の冒険者に申し訳が立たないからだ。
とはいえ功績を上げたものに対して何も無いのは良くないということ。
また、依頼したい内容にランクが不足していると困るという話だったので、
ソルヌにいた頃のEから二段階昇格のCランクとなった。
冒険者歴のないルナ、ネモ、レウィシアさんはDランクだ。
カトレアは昇格し、Bランクとなっている。
俺たちは依頼をこなしつつ特訓をしていた。
「えいっ!《水球》」
ルナが魔法を唱えると水がうねるように的に向かって飛んでいく。
「ルナちゃん本当に魔法の扱いが上手だね」
「うむ、すごいな、羨ましいよ」
レウィシアさんとネモが拍手をしている。
実際、ルナは魔法の扱いがこの中で一番上手い。
威力こそそこまでではないが、制御の面では俺よりも遥かに上だ。
それも独自で応用魔法を使いこなせている。
「次!《火球》」
火球の大きさも大小さまざまに生み出している。
魔力が多くないうえに、戦闘経験も不足しているので、
一人で実戦を戦うことは難しいが、誰かと一緒なら十分戦力になる。
「私も鍛錬を積みたい。アネモネさん手合わせをお願いしたい」
カトレアがネモに申し入れた。
「ああ、いいぞ、相手しよう」
ネモも承諾し、鍛錬が始まった。
「《身体強化》!」
カトレアが身体強化を発動した。
あの頃に比べて精度が上がっているように感じる。
「ほお、ならあたしも《身体強化》」
ともに身体強化をかける。
「先手必勝!」
カトレアが素早さを生かした攻撃を仕掛ける。
「遅い!」
ネモが軽くいなす。
圧倒的にカトレアが速いが、ネモはその攻撃についていく。
ネモはほとんど動かない。
速さで負けている以上、動いても捉えることが難しいからだ。
「ここだっ!」
カトレアが踏み込む。
「っ……!!」
ネモに一撃入るが有効打にならない。
「甘い!」
素早いカウンターを仕掛ける。
この程度の攻撃であればカトレアは躱しきれる。
だが。
「それは本命ではない!《火球》!」
カウンターは囮だった。
躱される前提で仕掛け、詠唱を始めていた。
「うわああああ!!!」
短時間での詠唱のため威力はそれほどでもない。
ただ回避先への攻撃に反応できず被弾。
カトレアは吹き飛ばされた。
「勝負ありだな」
レウィシアさんがカトレアに近づいてヒールをかける。
ネモは自分で自分にヒールをかけている。
「強い……私よりも一枚上手だった」
カトレアは空を見上げた。
私にとってアネモネさんは目指すべき目標だと思う。
アネモネさんは全身を強化しない。
腕や足、そして被弾箇所だけを強化していた。
消費を抑えながら戦えるのは、その積み重ねた技術があるからだ。
才能ではなく、努力でたどり着いた境地。
「私も強くなりたい……強くなって……」
ロイの隣に立つのに相応しい存在になりたい。
あの頃は隣に立てていると思っていた。
でも気付けば遠くへ行ってしまっているようで。
「くっ……」
唇を噛む。
私だけが皆に置いていかれている気がした。
戦闘経験はアネモネさん以外の二人には勝っているが、それも簡単に覆るだろう。
でも限界だって決めつけたくない。
湖の水を被って頭を冷やす。
「私は負けない!」
カトレアとの鍛錬の後、私はシアと鍛錬を行っている。
「これでどうかなっ!」
速さはカトレアには劣るが、打撃の重さは私以上だ。
気を抜くと腕が持っていかれそうになる。
「そら!」
身体を捩って受け流しつつ、一撃を狙う。
「危ないなーっ」
ヒールを応用した障壁で防御される。
物理攻撃にだけ有効な代わりに詠唱が殆ど必要ない。
そんな障壁までシアはマスターしていた。
「それそれそれーっ!」
シアが連撃を仕掛けてくる。
太刀筋が雑。
力任せの脳筋攻撃。
ロイの我流攻撃に比べれば単純な分回避はできる。
だが、下手に反撃を狙えば当てられてしまうだろう。
「《火球》!」
回避しつつ距離を取った後に詠唱する。
「うわぁ、火球か」
シアが火球を剣で斬りはらう。
その隙を狙う。
「とりゃあああああああ!」
火球を目で追った隙に背後に回る。
「なんてね!お姉ちゃんの考えることはお見通しだよ!」
障壁を展開され、攻撃が弾かれる。
そして背後には魔力付与されたピンセットが。
火球を撃ったタイミングで遠くへ投擲して、背後を取れば当たるように仕掛けられていた。
気付いた時には遅く、被弾した。
「やった!お姉ちゃんに勝った!」
「あたしが負けた……」
完敗だった。
シアの才能には目を見張るものがある。
身体強化のセンス、そして機転を利かした戦闘スキル。
「負けたくないっ……!」
目の前の妹は自分にとって超えるべきライバルになっていた。
《魔法創造》が使えるようになっていた。
魔導銃は壊れてしまったが、あの武器の有用性を実感していた。
失われた技術のため、復元することは不可能だった。
だが、魔法創造であれば。
「《魔法創造》!」
新たに生み出した魔法は――
《修復魔術》
壊れた物を復元する。
破片一つあればそれだけで修復することができる。
制約:
『魔法創造で作成した魔法のうち、無作為に選ばれた一つが永久に使用不可になる』
制約は一つだが、これまでで一番重い。
つまりは魔法創造で作った魔法の存在を対価として使う。
魔導銃は使用すれば再び壊れる。
割に合っていない。
修復は断念せざるを得なかった。
「初めて使うことが無さそうな魔法が出たな」
当たり前だが生物を蘇らせることはできない。
精々破損した身体を元通りにすることくらいだろう。
対価に見合うものは無いだろう。
俺は気を取り直して皆の元へ戻るのだった。




