弔いの祭り
戦争は終結した。
大方の予想に反し、獣人国側の勝利で終わった。
多くの犠牲を出しただけの無意味な戦いであった。
「我が愛する国民よ。
此度は皆の尽力の上、勝利を収めることができた。
心から感謝する」
国王の挨拶で民衆がどっと沸いた。
「だが、尊い犠牲の上で築かれた勝利であることも忘れぬよう。
祝う前に一度、勇敢に戦った英雄たちに黙祷を捧げよ」
その言葉で一斉に静まり黙祷を捧げる。
家族、恋人、友。
大切な人を失った者も多くいる。
涙を流しながらそんな者たちのために祈る。
俺も名も知らぬ英雄たちのために祈る。
「後日、改めて国葬を執り行います。
遺族への保証などもその時に」
大臣による説明が続いた後。
「本日は戦った者たち、そして耐え忍んだ者たちを称え、祝宴を執り行う。
そして英雄たちの魂を安らかに送り届けるのだ」
獣人国では、死者を弔う前に祭りを行う習わしがある。
心配させないよう笑顔で送り出す。
祭りが始まる。
「あ、お兄ちゃん、お疲れ様だよ」
ルナが近づいてくる。
「シランちゃんって子が着せてくれたのー!似合うかな?」
ルナがくるくる回って浴衣を見せてくれる。
淡い青色の浴衣には蓮の花が描かれていた。
いつもとは違ったちょっと大人びたルナがそこにいた。
「もちろん、似合ってるよ、美人だ」
「やったー!」
ルナは戦争の辛さを知っているからこそ、死者を祭りで送り出すという、
獣人国の信念に共感をし、全力で祭りを楽しんでいる。
「じゃあ他の子にも見せてくるねー!」
ルナは走っていった。
遠巻きから祭りを眺めていると、二人の影が近づいてきた。
「ほら、お姉ちゃん、ロイさんに見せないと」
「いや、は、恥ずかしい」
ネモとレウィシアさんが近づいてきた。
ネモは混じり気のない白地に、幾重にも花弁を重ねた牡丹一華が描かれた浴衣を身に着けている。
いつもの雰囲気とは打って変わり、上品な色気を感じる。
「ど、どうかな?」
恥じらうように尋ねてくる。
「似合っているよ、綺麗だ」
「なっ……!?ちょ、ちょっとお花摘みに行ってくるっ!」
顔を真っ赤にして走り去っていった。
「あーあー、お姉ちゃんったら初心なんだから。
あ、ロイさんロイさん、私の浴衣はどうですか?」
レウィシアさんは薄桃色の地に、花火のような花があしらわれた浴衣を身に着けていた。
後に聞いたところによると恋花火と呼ばれることもある品種らしい。
「似合ってるよ、可愛い系だね、レウィシアさんみたいだ」
ストレートに答えられたからだろうか。
レウィシアさんもちょっと顔を赤らめた。
「ちょっ、ストレートに言われると照れるね……
今回は私の負けだね、お姉ちゃんの様子を見てくるね」
レウィシアさんも走っていった。
三人とも本当に違う魅力を持っている。
……羨ましそうな視線は見なかったことにしよう。
一人、空に挙がる花火を見上げるのだった。
カトレアは遠くからロイのことを見ていた。
私はもう、ロイにとってただ一人の特別ではなくなっていた。
三人もの美少女が話しかけていた。
聞いた話によるとこの森で一緒に暮らしているらしい。
「私はどうしたら……」
いたたまれなくて声をかけられないでいた。
耳は畳まれ、尻尾は力なく垂れ下がっている。
誰が見ても感情が伝わるだろう。
それを見かねた少女が一人、ロイへ近づいていった。
「あのすみません、あなたがロイさんですか?」
妹のシランだ。
「はい、俺がロイですが、何か用ですか?」
「わたし、カトレアの妹のシランと申します。
姉がお世話になっております」
シランが自己紹介をする。
「あ、カトレアの妹さんですか、こちらこそお世話になってます」
挨拶を済ませると二人で何やら話し始める。
「母親は元気になった?」
「はい、ロイさんのポーションのおかげで病気が治って、すっかり元気になりましたよ」
「それは良かった、間に合ったんだな」
「それでですね、帰ってきてからというもの、ロイさんのことばっかり話すんですよ」
「それは恥ずかしいな、一体どういう話をするんだ?」
「もう惚気というかロイさんの好きなところとか、素敵なところとか、もう色々と」
話題の雲行きが怪しくなってきた。
「そ、そうなのか……」
「そうですよ、あれからお姉ちゃん、化粧を勉強し始めたり、服装にもこだわるようになったり……」
もう耐えられなくなって走り出していた。
「シラン!」
「あ、お姉ちゃんようやく出てきた」
「カトレアっ!?」
三者三様の反応を見せる。
「ロイ……その、助けてくれてありがとう」
ようやくその一言が言えた。
「助けることができて良かった。無事でよかったよ」
ロイが微笑みかける。
前は何も考えずに話せたのに。
今は一言ごとに胸が苦しくなる。
「その……カトレア、浴衣似合ってる、魅力的だよ」
ロイが褒めてくれた。
紺色に蘭の模様が入った浴衣を着ている。
私の名前であるカトレアの花。
嬉しさでどうにかなってしまいそうだ。
尻尾が左右に揺れる。
ロイは変わった。
初めて会った頃よりずっと。
だから私も。
「なあロイ、一緒に花火見ないか?」
「いいよ、ちょうど一人だったし」
シランは既にいなくなっていた。
二人で花火を見る。
無意識に私はロイに肩を寄せていた。
花火は綺麗だった。
ふとロイの顔を見ると、花火よりもずっと遠くを見ているのに気付いた。
傍から見れば普段と変わらないように見える。
ただ何か思い詰めているような、そんな感じがした。
今はまだ聞かない方が良いだろう。
私はただロイの手の上に自分の手を重ねた。
――第四章 完――




