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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第四章 再会
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憎しみの連鎖

 私は夢を見ているのだろうか。

 目の前には確かにロイの姿がある。

 にわかに信じられない。

 誰かが近づく気配があれば気付ける。

 だが、私も人間国軍の兵士たちも気づけなかった。

 そもそも村のことも教えていない。


「どうして……」


 涙が溢れて止まらない。

 そう言葉にするのが精一杯だった。


「俺を呼ぶ声が聞こえたから」


 張り詰めていたものが切れた。

 安堵した途端、全身から力が抜ける。

 視界が揺れた。


「おい、カトレア!?」


 ロイの声を最後に、意識が闇へ沈んだ。


-----------------------------------------------------------


 急いでカトレアに駆け寄る。

 慌てて抱き起こす。

 呼吸は安定している。

 良かった……命に別状はない。

 そのままカトレアを寝かせると、兵士の方を振り返る。


 俺がカトレアに気付けたのは《瞬間移動》の魔術だった。

 一瞬で目的地へ移動できる魔法。


 制約は二つ。


『魔力のマーキングがある人物の元にしか飛べない』

『対象が生命の危機に瀕していなければ発動できない』


 カトレアが生命の危機に瀕した瞬間、彼女の声が頭に響いた。

 鮮明に場所が浮かび上がってきたのだ。

 心の中で飛べと念じると、カトレアの目の前に瞬間移動することができた。


 マーキングについては、別れ際に交わした口づけ。

 魔力を意図して送り込んではいない。

 だが、僅かにお互いの魔力が行き来したのだ。

 それが発動条件を満たす。

 今回の魔法も大切な人を守るために活かすことができた。


「誰だお前は。何故人間が俺たちの邪魔をする」


 剣を振るった隊長が叫んだ。

 訳がわからないだろう。

 獣人を斬りつけようとしたら、突然人間が目の前に現れた。

 しかも獣人を庇ったというのだ。


「そうか名乗ってなかったな。

 俺の名前はロイ。人間国のお尋ね者だ」

「ロイだと……?」

「こいつがあの」


 俺が名乗りを上げると兵士たちがざわついた。


「そうか、お前がロイか。

 話の通りだと確か、魔術師だったな」


 隊長は一転して余裕の表情を浮かべる。

 魔術師ではこの軍全部を相手にすることは難しい。

 距離を取りながら戦うのが魔術師の戦い方だ。

 剣士の目の前では詠唱もままならない。


「奴を殺せ、首を持ち帰れば、勲章物だ!」


 兵士の士気が上がる。


「死ねっ!」

「裏切り者の人間が!!!」


 怒号を浴びせながらこちらへ向かってくる。

 その時だった。


「俺が何も考えなしに来てるわけがないだろ」


 腰から一丁の拳銃のようなものを取り出した。

 向かってくる敵に向けて引き金を引くと。


「うわぁ、なんだ」

「がはっ......」


 銃口から魔力の弾丸が放たれ、兵士を貫く。


「なんだ、何が起きている?なんだその武器は!?」


 国軍側に動揺が走る。


「魔導銃だよ」


 使用者の魔力を弾丸に変えて撃ち出せる魔道具。

 本来は魔法適性のない者でも戦えるよう開発された武器だ。

 だが試作品のまま開発は凍結された。


「な、過去に実用化できずに闇に葬り去られた魔道具が、何故?」

「獣人国の武器庫に残されていたものだ」


 防衛につく前に護身用に持ち帰ったものだ。

 獣人国王から武器庫のものは、どれでも持って行って良いとお墨付きをもらっていた。


「だが、確か魔力の消耗が激しく、何発も扱える代物では......」


 並みの者の魔力では一発が限界。

 最悪の場合、魔力欠乏症で死に至る。

 威力を落とせば使い物にならず、威力を上げれば使い手が先に潰れる。

 それが実用化されなかった理由である。


「おあいにくさま、俺の魔力が人並み以上でね」


 俺は魔力が無限に使える《魔力無限》というスキルを持っている。

 何発撃とうが魔力が尽きることはない。


「《魔力付与(エンチャント)》」


 魔導銃に魔力を付与した。

 これで炎、水、土、風の四属性を込めた弾丸も打てる。

 そして威力も上がる。


「さて、カトレアに剣を向けたことを後悔させてやる」


 俺は銃を撃ち続けた。

 剣を振るより速く、詠唱する隙も無く。

 魔導銃に対する戦い方を知る者はいない。

 兵士は次々と倒れていく。

 盾を構える者、魔法で迎撃しようとする者、必死に回避を試みようとする者。

 だが。


「盾が貫通されただと......」

「ダメだ、数が多すぎて魔法で相殺しきれない......」


 対魔法装甲であろうと貫通する。

 厳密には魔法ではなく、銃弾に近い。

 魔力だけは吸収できても弾丸として機能する。

 対魔法装甲は物理的な防御力は低い。

 もう止めるすべはなかった。

 隊長以外の兵士はすべて弾丸に倒れた。


「なあ、最後に教えてくれ。

 何故お前は人間に楯突く?」


 銃口を突き付けられた、隊長が質問する。


「俺はソルヌで国軍から大切な人たちを奪われた。

 そして今、大切な人に手を下そうとしていたからだ」


 俺は思い出しながら重く口に出した。


「我々だって家族がいる。守りたい人がいる。お前と一緒だ」


 隊長が目を伏せながら語る。


「お前がしていることは、そんな家族や大切な人から俺らを奪うことに他ならない。

 それはわかっているよな?」


 言っていることは正論だ。

 俺は名も知らぬ人々から大切な人の命を奪っている。


「わかっている、一生顔も知らない人々に恨まれ続けられるだろう。

 だが、ここで俺がお前を逃がしたとしたら、お前に奪われた者たちの気持ちはどうなる」


 戦いで散っていった兵士たちの顔を思い浮かべながら続ける。


「憎しみの連鎖は止めることができない。

 俺ができることは罪を背負うことだけだ」


 隊長は笑いながら。


「人を殺めた時から覚悟してきたつもりだ。

 お前にこの罪を背負ってもらうよ。

 命を預かる隊長としての責務を果たせなかったのは心残りだがな」


 俺は引き金を引いた。

 隊長は穏やかな表情で崩れる。

 手元の銃が砕け散った。

 魔力付与に耐えきれなかったのか、想定以上に使ったからなのか。

 それとも、隊長の最後の抵抗なのか。

 失われた技術により作られたため、二度と再現することはできない。

 魔導銃はこの世から完全に消えた。


 俺は戦いに勝った。

 カトレアを守ることができた。

 それなのに。

 引き金を引いた感触だけが、いつまでも手の中に残り続けていた。

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