反撃開始
人間国軍は国境戦に勝利した。
だが兵站は尽きかけている。
食料を確保できなければ、このまま進軍を続けることはできない。
最初に兵力をヴァント側へ集中させていたため、持ち込んだ物資そのものが多くなかった。
それに加え、戦闘による喪失。
食料を調達しなければならない。
「家を回って食料を漁ってこい!」
無人になった家を回って食料を集める想定で動いていたが、
事前に避難した住民の家には食料は残されていなかった。
「隊長、食料は残されていませんでした」
「こちらもダメです。もぬけの殻でした」
避難させる猶予を与えてしまったことで対処されてしまった。
「こうなったら村を回って畑や家畜を集めろ!」
三百人の兵を五十人ずつに分け、六つの村へ向かわせる。
国境に一番近い村は放棄されていた。
家畜は事前に処分されていた。
作物は未熟なものが多かったが腹を満たすことはできるだろう。
少々の収穫だった。
もう一つの村は住民が隠れておりゲリラ戦となった。
鎮圧したものの、兵士十人が犠牲となった。
だが、家畜は残っており鶏や卵があった。
他の村も同様な状況だったが、ある村だけは違った。
逃げも隠れもせず、堂々と入口に立つ。
「おいお前ら、食料を出しな」
「痛い目みたくないだろ?」
兵士が村人に凄む。
だが、一歩も退かない。
「貴様らに渡すものは無い、去れ」
武器を構えて一斉に襲い掛かる。
後衛では強化魔法を唱えている。
「後悔するぜ獣人どもが」
「俺たち国軍を舐めるな!」
すかさず国軍も戦闘態勢に入る。
国軍側も実力者が集まっている。
剣術も魔術も人並み以上の集団である。
獣人側の強化魔法に加えた身体強化。
魔法詠唱させる暇もなく切りかかる。
「ぐわああああああ」
「くそがっ!」
兵士に比べれば一回り実力は劣る。
万全の状態なら負けない相手であったはず。
だが、国境の戦闘で消耗している。
それに加えて空腹という状態。
少しの動きの鈍さ、そこを狙われて倒される。
そして、その中に兵士たちを圧倒する者がいた。
「この女、速すぎる」
「こんなやつが何故村になんかいるんだ」
消耗が少なく、動けているはずの兵士二人が簡単に薙ぎ払われた。
「この村は私が守る」
短剣を持ち、赤髪を靡かせて戦う。
そう、それはカトレアだった。
ヴァント側では壮絶な戦いが繰り広げられていた。
消耗していない国軍は強力だった。
「《火球機関砲》!」
国軍側から火球が大量に射出される。
「《豪炎球》!」
アネモネが巨大な火球を撃ちだす。
炎同士がぶつかり合い、相殺される。
轟音が響く。
それを合図に兵士たちが駆け出した。
「斬りかかれ!」
アネモネに詠唱の隙が生まれたタイミングで突撃を開始する。
獣人と人間の鍔迫り合い。
魔法と魔法のぶつかり合い。
ただ、人数不利のため国軍側がアネモネに向かってくる。
「お姉ちゃんに一歩も触れさせないよっ!」
レウィシアが兵士を切り捨てる。
身体強化で向上させた身体能力で、魔力付与したメスを巧みに操る。
「なんだ、この攻撃はっ!」
魔力を調整してメスの切先を延ばして攻撃。
「これならどうだっ
《疾風の刃》!」
兵士は魔法の攻撃に切り替える。
レウィシアは回避するが、頬を掠める。
だがすぐに傷は塞がっていく。
「化け物かこの女!」
レウィシアは瘴気に侵されながらも、生き長らえた。
それは生命力を維持するために身体強化をし続けたからだ。
そこにロイから受け取った魔力が加わった。
肉弾戦ならおそらくアネモネよりも強い。
「ははっ......レウィシアはこんなに強かったんだな」
アネモネは思わず乾いた笑いが出てきた。
彼女を守るために強くなろうとした。
だが彼女は守られる存在ではない。
誰かを守れる強さを持っている。
「待たせたシア、あたしも動ける」
「お姉ちゃんちょっと遅いかもー。
まあでもその分頑張ってもらうから」
背中を預けて戦えることが嬉しかった。
その一方で、自分より才能があることが少し悔しくもある。
アネモネは雑念を振り払うように剣を振った。
「人数不利でビビッてられっか」
「俺らが頑張らなくてどうするんだ!」
獣人兵もそんな二人を見て士気を上げる。
獣人国側も善戦する。
だが。
「はぁ......はぁ......さすがに多すぎる」
「うん.......ちょっと限界かも」
倍に近い人数差。
肩で息をするくらいには、アネモネもレウィシアも限界に近付いている。
「お前ら獣人どもはよく戦ったよ、だがここまでのようだな」
ヴァント側の国軍兵の隊長が近づいてくる。
「そろそろ楽にしてやるよ」
そういって剣を振りかざしたその時
「《轟雷》」
突然空から落雷が発生し、隊長に直撃した。
「なっ......!?」
何が起こったか理解する間もなく崩れ落ちた。
「すまん、遅くなった」
その言葉とともに獣人国王と近衛兵が現れた。
「陛下!何故戦地に」
獣人兵が声を上げる。
「我も戦う。お前たちだけに戦わせるわけにはいかぬ」
獣人兵の士気が高まる。
人数差も覆った。
ここから獣人国の反撃が始まる。




