謁見
獣人国王の元に一通の手紙が届いた。
「陛下宛てに、人魚の国のアイリス様から親書が届いております」
「うむ、持って参れ」
海巫女殿から何用だろうか。
此度の戦争について、人魚の国にも話が届いたのだろうか。
封を開ける。
手紙が二通入っている。
海巫女殿からの手紙を読む。
副状であることがわかった。
本来の差出人は人間国のロイという男。
人間国は敵対関係にある。
国王もしくはその臣下からの降伏状だろうか。
最初は読まずに処分するつもりだった。
だが、わざわざ人魚の国を経由したところに引っ掛かりを感じた。
そしてロイという名を聞き覚えがある。
五大国会議にて人間国を訪れた時に貼りだされていた手配書。
内偵からの話によると、ソルヌの冒険者。
人間国の変異種ヒドラの討伐、獣人国の娘と共にヴァントで兵器を破壊した男。
人間国に仇名す存在であると同時に獣人国を救った人間である。
功績が功績であるため、にわかに信じがたいところがある。
それでも今回の件も一枚嚙んでいる可能性がある。
「読まぬわけにもいくまい」
手紙に目を通した。
内容としては想像した通り、ソルヌでの国軍の撃退を行った当事者であること。
そして、人間国の侵攻の妨害の依頼を受けており、助力をしたいとのことだった。
要求としては獣人国への入国の許可。
「さて、どうするべきか」
申し出はありがたい。
海巫女経由であるため、おそらく人間国が名を騙った罠である可能性は低い。
だが、人間を我が国に踏み入れさせるのには抵抗がある。
せめてこの目で見極めたい。
手紙には直接話す必要があれば、深淵の森の入口に指定時間に来るようにと書いてある。
深淵の森を指定する意図がわからない。
罠かもしれない。
それでも国民の命のため、布石はすべて打ち尽くす。
「宰相、翌明朝に深淵の森の入口に向かう。兵の準備せよ」
「はっ!」
身の危険は承知の上だ。
ロイは深淵の森へ帰ってきていた。
「お帰りみんな」
一時帰宅ではあるがやはり落ち着く。
「おかえり、お兄ちゃん」
「おかえり、ロイ」
「おかえりなさい」
三人がお出迎えしてくれた。
今の状況と獣人国国王への謁見を申し入れた旨を伝えた。
「えっ、王様が来るの!?」
「国王を呼び出すとは.....」
「なんか、すごいことになってますねー」
あくまで来るかどうかは未知数だとは伝えた。
「それで三人も立ち会って欲しい」
今回の作戦に直接関わらせるつもりはない。
思惑としては今後獣人国とは繋がりを持ちたいと思っている。
そのため、深淵の森の瘴気が既に存在しないこと。
また、獣人国側にも三人のことを知っておいてもらう必要がある。
「えっ、お洋服どうしよう!?」
「あたしも正装は持っていないぞ」
「私もなんですけど!」
男目線で失念していた。
「あー....今回は兵装でお願いしようかな...
正式な場はちゃんとした服装にしよう、うん」
目をそらしながら答えた。
「わかってるよ、戦争中に正装で顔合わせは無作法だ」
ネモはルナたちに乗っかっただけのようだった。
「でも、ちゃんとした場では頼むな!」
おねだりされてしまったが、良いだろう。
「わーい、ルナも欲しい!」
「私の分ももちろんありますよね?」
ルナもレウィシアも便乗する。
「ああ、もちろん好きな物を買ってあげるよ」
三人には日頃からお世話になりっぱなしだ。
喜んで買ってあげたいと思っている。
「さて、明日早いから、もうご飯にしようか」
約束の時間は明朝になる。
今日はゆっくり休むとしよう。
翌日。
深淵の森には獣人国の国王と近衛兵が訪れていた。
「ようこそおいで下さいました国王陛下」
「うむ、そなたがロイ殿か」
結界越しでの顔合わせとなる。
結界の外とはいえ、瘴気がある認識があれば、近づきたくもない場所だ。
それでもここに来てくれている。
「お初にお目にかかる。
我は獣人国国王、ヒース・ハウエルだ」
穏やかな声音だった。
ひとまず敵意は感じない。
「まず最初に先日のソルヌの件だが、誠に感謝する」
深々と頭を下げる。
「国王陛下、頭をお上げください」
とても誠実な王だと思った。
人間国とは大きな違いだ。
「そう畏まらなくとも良い。
肩肘に力が入っていると疲れてしまうだろう」
「陛下、さすがにそれは!」
臣下が慌てて口を出した。
「よいよい、砕けた口調の方が話しやすい」
本来であれば謹むべきだが、王は本気でご所望のようだった。
「わかりました」
王は満足そうに頷くと。
「最初に聞きたいことがいくつかあるが答えて頂けるかな?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「まずは何故獣人国へ肩入れする?依頼だとしても何故受ける?」
尤もな質問だ。
獣人国とは縁もゆかりもないのだから。
「いくつか理由はあるんですが、一番の理由は獣人に大切な人がいるからです」
それだけを伝えた。
余計な言葉を添える必要は無いだろう。
カトレア、戦友であり、とても大切な人。
彼女を守るために動いていると言っても過言ではない。
「そうか、それは嬉しいことだ」
王は笑顔になった。
心から嬉しそうな表情だった。
「次に。この深淵の森に諸君らは住んでいるのかな?」
俺の他、後ろのルナ、ネモ、レウィシアの三人にも目を配った。
「うん、ルナの故郷なの」
「ああ、ここに住まわせてもらってる」
「そうです、家も建てました!」
三人とも顔色も悪くなければ、元気そうだ。
「して、瘴気は大丈夫なのか?」
あまり深淵の森の状況は伝えたくない。
だが、ここまで信じてくれる相手に隠し立てをする気にもなれなかった。
「この森の瘴気はすべて浄化されています。
彼女たちの元気がその証です」
「そうか、それじゃ少しお邪魔してもよいかな?」
王が結界をくぐろうとしている。
「陛下、さすがにそれはおやめください。
陛下の身に何かあれば……」
臣下が全力で止める。
「よい、我はロイ殿を信じる」
王が深淵の森へ足を踏み入れた。
ゆっくりと息を吸う。
「なるほど、確かに瘴気は感じられん」
王である以上、相応の実力者である。
瘴気の魔力を感じることくらい容易い。
「となると、人間国の出兵を往なしたのも君たちか」
俺は頷いた。
後ろを振り返ると。
ルナは大きく頷き。
ネモはバツの悪そうな表情でそっぽを向いた。
レウィシアはそうみたいですね~と他人事で答える。
「そうか、この森も……」
王が遠い目をして森を見つめた。
「最後にこちらが本題だが、諸君らには獣人国に力を貸して欲しい。
頼めるかな?」
再び深々と頭を下げる。
俺たち四人は目を見合わせた後、一斉に答える。
「「「「もちろん!」」」」
こうして獣人国と深淵の森の同盟が結ばれたのであった。




