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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第四章 再会
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水面下

 獣人国王宮。


「国王陛下、ご報告があります」

「なんだ、あまりにも早いじゃないか」


 命令を出してから、まだそれほど時間は経っていない。

 想定外の事態でも起きたのだろうか。


「人間国軍が撤退しました」

「は?」


 間の抜けた声が漏れた。

 意味がわからない。


「どういうことだ、説明しろ」

「はっ!出撃直前、謎の魔法攻撃を受けたとのことです。

 兵站が壊滅し、指揮系統も混乱。出撃不能になったと」


 謎の魔法攻撃。

 当然、こちらは何もしていない。


「襲撃してきた敵影は三百ほど。

 それ以上の戦力は確認されておりません」

「囮か……危うく誘い出されるところだったな」


 増援ありきの作戦だと思っていた。

 だが後続が存在しない。

 もしあのまま国境で戦闘になっていれば、大損害を受けていたかもしれない。


「軍を国境から一部撤退。

 ヴァント周辺と、念のため魔人国側にも兵を回せ」

「はっ!」


 名も知らぬ誰かに救われた。

 できることなら、その力を借りたいものだ。


-----------------------------------------------------------


 人間国軍部。


「何が起こった!!!」


 軍師が机を叩く。

 あまりにも想定外だった。

 その結果、獣人国側はヴァントと魔人国側へ兵を回した。


 戦力だけ見れば、まだ人間国側が優勢。

 だが損害は跳ね上がる。


「獣人国め……腕利きの傭兵でも雇ったか」


 素性がわからない以上、対処のしようがない。

 どれだけ盤面を読み切っても、盤外の駒までは計算できない。


「おい、誰か情報を集めろ!大至急だ!」


 斥候の増員を命じ、現地へ向かわせる。

 情報による優位こそ勝利への近道。

 そのためにも、不確定要素は減らさなければならない。


「クソが……作戦の練り直しだ」


 軍師は髪を搔きむしると、手に持った紙を破り捨てた。


-----------------------------------------------------------


 作戦変更によって、潜入の機会は失われた。

 ならば別の方法を探すしかない。


「陽動に紛れて侵入するのは無理か」


 同じ手は二度も通用しない。


「戦闘に乗じるのも厳しいな」


 国境での戦闘は恐らく起きない。

 ソルヌ周辺も立ち入り禁止になるはずだ。

 謎の襲撃を受けた以上、警戒を強めるのは当然だった。

 国軍はヴァント周辺と魔人国側へ兵を集めるだろう。

 ヴァントはまず間違いない。

 魔人国側も、何らかの取引で黙認している可能性がある。


「となれば……正攻法しかないか」


 俺は次の目的地へ向かった。

 人魚の国。

 人間国と接する、もう一つの国家。

 国民のほとんどが女性で構成された特殊な国だ。

 男性禁制。

 本来なら近づくことすら許されない。


「《変身魔術》」


 魔法を発動すると、身体が女性の姿へ変わっていく。

 国境の兵士へ特別入国証を見せた。

 トピアの闇市で手に入れたものだ。

 身体検査も受ける。


「確認しました。どうぞお入りください」


 門の先には巨大な湖が広がっていた。

 人魚の国は、その湖の底に存在している。

 入国証へ魔力を流した瞬間、足が魚の尾へ変化した。


「うおっ……!?」


 慣れない感覚にふらつき、そのまま湖へ落ちる。

 だが沈まない。

 恐る恐る息を吸う。

 水の中なのに、普通に呼吸ができた。


「……すごいな」


 試しに声を出してみると、問題なく会話もできる。

 不思議な感覚のまま、水底へ向かって泳いだ。

 やがて目的の場所へ辿り着く。


 海巫女の館。

 清魔法という、人魚族特有の魔法を扱う巫女がいる施設だ。

 ここでは対価を支払うことで、王族や貴族へ手紙を届けてもらえる。


 俺は獣人国王へ手紙を送るために来ていた。

 建物の中へ入ると、水が左右へ分かれた。

 足が元へ戻る。


「ようやく歩ける……」


 魚の尾にはまだ慣れない。


「いらっしゃい。おや、見ない顔だね」


 声をかけてきたのは、銀髪の人魚の少女だった。

 腰まで伸びた髪が、水の膜越しに淡く揺れている。


「獣人国王へ手紙を送りたくて来ました」


 少女は興味深そうにこちらを見た。


「獣人国って、近いうち戦争になるって噂の国だろ?

 そんな場所に、人間のあんたが何を送るんだい?」


 当然の反応だった。

 敵国の一般人が、王へ直接手紙を送ろうとしているのだ。

 怪しまれない方がおかしい。


「まあいいさ。高くつくよ、こういう時期だからね」


 商人から受け取った金袋を差し出す。

 少女は中身を確認すると、にやりと笑った。


「この額なら受けてやる。手紙を渡しな」


 封筒を受け取ると、海巫女は静かに魔法を発動した。

 淡い光が手紙を包み込む。

 毒物、呪い、悪意。

 そういった危険を調べているのだろう。

 やがて光が消える。


「問題なし。届けることはできるよ。

 ま、読まれるかは保証しないけどね」

「それで十分です。お願いします」


 次の瞬間、手紙が泡となって消えた。

 無事に届けばいいが。


「……それにしてもさ」


 海巫女が面白そうに笑う。


「君、男でしょ?」


 背筋が冷えた。

 変身を見破られた。

 この国で男だと発覚すれば、ただでは済まない。


「安心しなよ。言いふらすつもりはないさ」


 海巫女はくすくす笑う。


「男がわざわざ女になって、敵国の王に手紙を送る。

 面白すぎるだろ」

「そ、そりゃどうも……」


 どうやら清魔法で見抜かれたらしい。


「その代わり、一つお願い聞いてよ」

「……なんですか?」

「変身魔法、見せてほしいんだ。

 どこまで本物の女になってるのか気になる」


 拒否権はなかった。

 断れば何をされるかわからない。


「いやぁ、本当に完璧だねこれ。

 触った感じまで普通の女の子じゃないか」

「うぅ……お嫁にいけない……」


 変身魔術の影響か、思考まで少し引っ張られている気がする。

 海巫女は楽しそうに笑った。


「また来なよ」

「あ、はい……」


 とにかく早足で館を後にする。

 やるべきことは済ませた。

 後は、獣人国王がどう動くかだ。

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