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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第四章 再会
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静かな怒り

 その頃、獣人国王宮。


「国王陛下、大変です。

 人間国が我が国に攻め入ろうとしております」

「あの愚王め、ついに来たか……」


 突然の知らせにも、私は顔色一つ変えなかった。

 深淵の森への出兵失敗の報は既に耳にしている。

 あの王のことだ。何が何でも成果を欲するだろう。


「して、状況は?」

「はっ!緩衝地帯、ソルヌ跡地にて人間国軍が陣営を形成しています」


 斥候の報告によれば、既に国境付近まで到達しているらしい。

 だが、ある程度は予測していた。


「こちらの軍備は間に合っているか?」

「はい!迎撃部隊は既に国境へ配置済みです」


 できれば国境を越えられる前に決着をつけたい。

 国力では人間国が上。

 だが、今の人間国軍は士気が低い。

 急な出兵による不満も大きいと聞く。

 ならば短期決戦。

 ここで敗北を与えれば、人間国側の士気は更に落ちる。


「わが軍の五割を国境戦線へ配備!必ず撃退する」

「はっ!」


 国民を危険に晒すわけにはいかない。

 獣人国王として。


-----------------------------------------------------------


 ソルヌ跡地には人間国軍が陣営を築いていた。

 兵数はおよそ三百。

 先鋒隊ゆえ、正規軍より質は落ちる。

 獣人国側の出方を見るための捨て駒。


 軍師は読んでいた。

 人間国は失敗続き。

 国王は短慮で力押しを好む。

 だから獣人国は、今回も国境で正面衝突を狙うはずだと。


 しかし成功体験ほど視野を狭めるものはない。

 先鋒をぶつけ、その裏で各地へ兵を展開する。

 国境外の警備は薄い。

 そこを突く。


 ヴァント側では獣人奴隷に道案内をさせ潜伏。

 魔人国側には賄賂と脅迫で軍の駐在を黙認させる。

 本隊へ戦力を集中している以上、今回は勝てる。

 そう信じていた。


-----------------------------------------------------------


 ソルヌ跡地を遠くから見下ろす。


「兵士は三百程か……なんか妙だな」


 国軍の旗は掲げられている。

 だが兵士たちから練度を感じない。

 おそらく捨て駒。

 深淵の森の時のような傷物兵ではない。

 普通の兵士たちだ。

 多少の同情はあった。


「早いところ終わらせて、犠牲を最小限にするか」


 カトレアを守る。

 それが最優先。

 だが、無意味に命を奪いたいわけじゃない。

 目的はあくまで侵攻を止めること。

 そう考えながら様子を探っていた時だった。


 アインさんの墓標に武器が立てかけられていた。

 兵士たちが、武器置きみたいに雑に使っている。


「……はっ?」


 アインさんの墓標に武器が立てかけられていた。

 兵士が武器を置くのに使っているようだ。

 俺の中で何かが音を立てた。

 死者への冒涜。

 兄貴とも呼べる存在に対する無礼。

 それだけでも許せなかったのに。


「クソ、やってられっか……」


 捨て駒にされた苛立ち。

 不安。

 鬱憤。

 そういうものがあるのかもしれない。


 だが、その時、兵士の一人が、苛立ったように荷箱を蹴り飛ばす。

 勢いのまま、アンジェさんの墓標まで蹴りつけた。

 周囲の兵士たちがそれを見て笑う。


「……何してんだ」


 心が静かに冷えていく。

 ――殺してやりたい。

 本気でそう思った。


「……違う」


 ここで感情に任せれば、結局また同じだ。

 怒りのまま人を殺せば、人間国軍の連中と変わらない。

 みんなもそれを望みはしないだろう。


 だが、このまま通すわけにもいかない。

 ここでこいつらを戦場へ送り込めば、荒んだまま獣人国へ攻め込むことになる。

 荒んだ怒りは、弱いところへ向く。

 兵士だけじゃない。

 無関係な者まで巻き込む。

 ソルヌみたいな場所を、また増やすだけだ。


 できる限り双方の軍には干渉しない。

 そのつもりだった。

 だが、その考えは捨てる。

 侵攻そのものを止める。

 ここで退かせる。

 必要なら手を汚すことも厭わない。

 そう、作戦を変えた。


 国軍出撃まで残り数刻。

 整列を始め、進軍しようとしたその瞬間。


「《火球(フレア)》」


 火球が陣営へ撃ち込まれた。

 現場は一瞬で混乱する。

 獣人国からの奇襲。

 誰もがそう誤認した。


 その火球には細工が施されていた。

 炎の魔力へ反応して爆発する種子。

 それを火球内部へ仕込んでいる。

 包みが焼け落ちた瞬間、種子が反応し連鎖爆発を起こした。

 本来は潜入用の陽動。

 混乱を誘う程度で済ませる予定だった。


 だが、俺は狙いを変えた。

 軍旗、弾薬、予備装備、魔石。

 それらを徹底的に焼き払う。

 継戦能力を削ぎつつ、獣人国からの攻撃と誤認させた。


「敵襲だ!!」

「撤退しろ!」


 怒号が飛び交う。

 進軍どころではない。

 現場は混乱し、指揮系統が乱れる。

 それに加え、軍備の喪失。

 もう先鋒としてすら機能しない。

 人間国軍は撤退を余儀なくされた。

 俺は静かに墓標へ歩み寄った。

 汚れを払い、倒れた石を直す。


「……悪い、少し頭に来た」


 そう呟きながら、遠く離れていく国軍を見据えるのだった。

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