予兆
ランクEへ昇格した。
魔導書も買った。
パーティでの経験を積むうちに、戦闘で何が必要かも少しずつわかってきた。
《ヒール》のような回復魔法。
初級魔法を応用した初級応用魔法。
冒険者としての生活は順調だった。
……だからこそ、油断していた。
魔法創造の存在すら忘れかけていた頃。
事件は起きた。
「アインさんが死んだ……!?」
信じられなかった。
Cランクへ昇格したアインさんが、討伐任務で命を落とした。
原因は、本来そのダンジョンにいるはずのない上級魔物。
仲間を逃がすため、一人で足止めをして、そのまま。
頭が真っ白になる。
あんなに強かったアインさんが?
あんなに頼りになった人が?
ようやく兄貴と呼べる存在ができたばかりだったのに。
だが、落ち込んでいる暇はなかった。
上級魔物が現れた以上、被害が町へ広がる可能性がある。
ギルドには冒険者たちが集められ、緊急の情報共有会議が始まっていた。
「アインの奴がやられるなんて、どんな魔物なんだ」
「私たちの手に負えるのだろうか」
「それを調べに行くのが俺たちの役目だろ!」
冒険者たちの中にも動揺が隠しきれない者がいた。
それだけアインさんの死は衝撃的だったということだ。
俺は居ても立っても居られず、アンジェさんに声をかける。
「アンジェさん、俺にできることはないかな」
無力でもいい。
少しでも役に立ちたかった。
自分を受け入れてくれた場所を守りたい。
アインさんが命を懸けて守ったものを。
「ロイくんにはまだ早いですね……」
Eランクは単身でダンジョンには潜れない。
上位ランクの助けを借りる立場だ。
危険性を考えれば当たり前の回答だった。
「お願いします!俺もこの町を守りたいんです!」
俺は必死で頭を下げる。
「お願いします!」
「俺たちもこの町を守りたいです!」
それに影響を受けるように、同じEランクの冒険者も頭を下げる。
アンジェさんも少し悩んだ後。
「……Eランクの方は地下五階までの支援です」
俺たちの覚悟を汲み取ってくれた。
冒険者を預かる立場である以上、危険に晒すわけにはいかない。
その上での最大の譲歩だった。
上級魔物が確認されたのは地下八階。
上位ランク冒険者が本命へ挑むため、低階層は低ランク冒険者で掃討し、消耗を抑える作戦らしい。
もちろん危険を感じた時点で即撤退。
それでも十分だった。
少しでも力になれるなら。
準備を整え、俺たちはダンジョンへ向かった。
低層階に異常はなかった。
出現するのは雑魚魔物ばかり。
Eランクの冒険者で討伐する。
俺は新しく覚えた初級応用魔法の《大火球》を試した。
火球へさらに魔力を注ぎ込み、破壊力を高めた応用魔法。
無限の魔力を持つ俺が使えば、その威力は凄まじかった。
「おい、本当にEランクか……?」
「初級応用魔法の威力じゃねえぞ」
上位ランクの冒険者すら驚くほどだった。
それからもEランクの冒険者で討伐を続ける。
特に何か起こるわけでもなく、順調に進んだ。
そして地下六階へ続く階段前。
上位ランク冒険者たちが足を止めた。
「ここから先は俺たちだけで行く」
「下位ランクは撤退しろ。足手まといになる」
悔しかった。
だが、それが現実だった。
「先輩がた、ご武運を……」
「ああ、任せとけ!」
上位ランクの冒険者たちを見送る。
俺たち低ランクの冒険者はギルドへ戻り、帰還を待った。
数時間後。
冒険者たちが帰ってきた。
幸い犠牲者は出ていなかったが、全員が重傷だった。
「大丈夫ですか!?」
俺は慌てて《ヒール》をかける。
その中で、Bランク剣士のマークさんが苦々しく呟いた。
「……ありゃ、俺たちの手に負える相手じゃねえ」
敵は変異種ヒドラ。
一般的なヒドラとは比較にならないほど強力である。
本来なら複数のSランクパーティを編成してようやく討伐できるような怪物らしい。
そんな存在が、なぜこのダンジョンに現れたのか。
「恐らく、ここの冒険者が束になっても勝てないぞ」
「何か良い手立てはないのか」
「アンジェちゃん、何かないの?」
「こうなったら、国軍へ救援を要請するしかありませんね……」
アンジェさんが険しい顔で言った。
それに周りも渋々ながら同調する。
「ああ、そうするしかないと思うぜ」
「今回はやむを得ませんね」
国軍。
Aランク冒険者級の戦力を持つ、国直属の部隊。
だが要請には莫大な費用がかかる。
この町の財政にも大打撃になるはずだ。
それでも、背に腹は代えられない。
アンジェさんが国軍に要請を出した。
返答によると救援は三日以内に到着予定とのことだった。
それまで持ち堪えらればなんとかなる。
皆がそう信じていた。
この判断が、後に訪れる惨劇の始まりになるとも知らずに。




