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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第四章 再会
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束の間の平穏

「馬鹿どもが、どいつもこいつも使えん奴らばかりだ!」


 グラスを床へ叩きつける。

 砕け散った高級酒が赤く広がった。

 召使たちが慌てて片付けに入る。


 人間の国は荒れていた。

 深淵の森への出兵は失敗。

 隊長は謀反の末に失踪。

 処分のために向かわせた兵団も全滅。

 瘴気研究所兼病院は一帯ごと崩壊し、研究所長も死亡。

 それ以前にも、変異種ヒドラ討伐への妨害。

 魔力圧縮魔術砲作戦の失敗。

 司令官の殉職。

 何もかもが上手くいかない。


「あのガキ……楽に死ねると思うなよ」


 名前など覚えていない。

 だが、忌々しい若造がすべてを引っ掻き回している。

 それにヴァント山では獣人族まで絡んできた。

 五大国会議で楯突いてきた獣人国を思い出し、舌打ちする。

 平民を大事にするなどと甘い理想を掲げる国。

 前々から気に入らなかった。


 兵器の多くは失った。

 だが、まだ国力そのものは残っている。

 国内の不満を抑え、威信を取り戻すには戦果が必要だった。


「おい、大臣」

「は、はい、国王陛下!」

「軍部に伝えろ。獣人国への侵攻を開始するとな」


-----------------------------------------------------------


 深淵の森は変わった。

 かつては瘴気に覆われ、昼でも薄暗い不気味な森だった。

 だが今は違う。

 木々の隙間から陽の光が差し込み、風も心地よい。

 ルナはその景色を見上げながら、小さく微笑んだ。

 昔の森みたい。


 エルフの国があった頃。

 みんな笑っていて、毎日が楽しかった。

 思い出すと少し胸が痛む。

 それでも今は前を向けている。

 お兄ちゃんがいるから。


 そして最近、新しい友達もできた。


「ルナは今日も元気だなぁ」


 アネモネちゃんが目を細める。

 最初に森へ攻めてきた時は怖い人だと思っていた。

 でも本当はとても優しい。

 妹思いで、強くて、かっこいい。

 あと、お胸が大きい。

 ちょっと羨ましい。

 たまに「撫でてもいい?」と聞きながら、わしゃわしゃ頭を撫でてくる。

 嫌ではないのだが、くすぐったい。


「お姉ちゃん、ルナちゃんばっかり見てないで、

 ここに可愛い妹がいるんですが~?」


 悪戯っぽく笑うのは、アネモネちゃんの妹のレウィシアちゃん。

 ルナはシアちゃんと呼んでいる。


 シアちゃんは回復魔法が得意で、怪我をするとすぐ治してくれる。

 アネモネちゃんとは正反対で、柔らかくて人懐っこい。

 けれど姉思いなのは同じだった。

 アネモネちゃんがいないところでは、よく姉の自慢をしている。

 ルナはそんな二人が大好きだった。

 こんな毎日がずっと続けばいいのに。


-----------------------------------------------------------


 俺は悩んでいた。

《魔法創造》が再び使えるようになったからだ。


「どうしようかな……欲しい魔法はたくさんあるんだが」


 一か月に一つしか創造できない。

 しかも創った魔法には制約が生まれる。

 適当に決めれば後悔する。

 これまでの戦いも、《魔法創造》が切り札になってきた。

 向こうではルナたちが楽しそうに遊んでいる。

 みんな笑っていた。

 この場所を守りたい。


「となると、森を守れるものが良いかな」


 自分が外へ出れば、森は無人になる。

 瘴気も消え、以前ほど侵入しづらい場所ではなくなった。

 不可侵条約があっても、魔人族のように踏み込む者は必ず現れる。


「《妨害魔術》も万能じゃないしな……」


 強力ではあるが、制約が重すぎる。

 展開し続ければ命に関わる。


「考えても埒が明かないな。少し外に出るか」


 一旦思考を切り替え、森の外へ向かった。


 人間国は妙に慌ただしかった。

 トピアの街も人が少ない。


「どうなってんだ?」


 活気が消えている。

 歩いていると、見覚えのあるフード姿の商人が目に入った。


「やあ、久方ぶりだねぇ」

「ああ、そうだな」


 相変わらず胡散臭い。

 だが今は情報が欲しかった。


「悪いが、今の情勢を教えてくれないか?」

「もちろんさ。色々世話になってるからねぇ。

 それと、これも渡しておきたくてさ」


 金貨の入った袋を差し出される。


「何の金だ?」

「事後報酬ってやつさ」


 意味がわからず眉をひそめる。


「軍部付属病院の研究所長について調べていてね。

 怪しい研究をしていたもんだから、調査と排除を頼む予定だったのさ」


 あの老人のことだろう。


「そういうことなら、ありがたく頂くよ」


 正直、金は足りていなかった。

 これで少しは懐事情が良くなる。


「そこで今回、新しい情報と依頼を持ってきた」

「ああ、聞こう」


 商人の空気が変わる。


「近々、人間国は獣人国へ侵攻する」


 ロイの表情が強張った。

 街から人が消えた理由。

 徴兵、あるいは傭兵募集。

 獣人国への敵意は以前から感じていた。

 だが、動きが早すぎる。

 真っ先に一人の顔が浮かぶ。


「カトレアが危ない……!」


 家族と国を守るため、彼女は戦場へ立つはずだ。

 大規模な戦争になれば、無事では済まない。

 商人は静かに告げた。


「今回の依頼は、人間国の侵攻を失敗させることさ」


 利害が一致した。

 次の依頼が決まった瞬間だった。

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