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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第三章 正反対の姉妹
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賭け

目の前の脅威に、絶望がちらつき始めた時だった。


ネモが動く。


「《豪炎球》!」


凄まじい炎が男へ向かう。


「その程度で、このオレを止められると思ったか!」


穢れの翼が広がり、

炎を呑み込むように防いだ。


炎は霧散する。


「この魔法を受けて無傷だと……」


ネモが驚愕した表情を浮かべる。


だが逆に、俺は突破口に気付き始めていた。


「翼が縮んだ……?」


ごくわずかだが、翼が小さくなったように見えた。


恐らく防御に魔力を使っている。


ここは深淵の森のような怨嗟に覆われた場所ではない。


魔力を補充しなければ、尽きる一方だ。


兵士たちは既に残渣になっている。


この病院は極秘研究を扱う施設だ。

周辺に住民の姿は無い。


ならば次に狙うのは――俺たちの生命力。


「ハハッ! もっと楽しませろよ!」


翼から羽が射出される。

速い。

だが、躱せないほどじゃない。


俺とネモは寸前で回避した。


レウィシアさんから距離を取りつつ、

互いにカバーできる位置を維持する。


「逃げ回るだけか? くだらねぇ」


羽が次々と降り注ぐ。

そのたび紙一重で回避する。


これで追加でわかったことがある。


レウィシアさんを狙っていない。


手に入れた力を力を誇示するため。


そして今の姿を維持するため、

俺たちの生命力を奪う方が優先なのだろう。


攻撃を受ければ致命傷は免れない。


だが、速度が劣るのか、制御が不完全なのか、

回避できないわけではない。


防御面も、あの根源のように絶対ではない。

魔力で防がなければダメージが通る。


つまり魔力がどんどん消費されている状況だ。


倒す必要はない。


時間を稼げば、自滅する。


だが時間をかけ過ぎれば、

レウィシアさんの命が危ない。


どうにか突破口を見つけなければならない。

少しでも時間が欲しい。


ネモへアイコンタクトを送る。


察したようにネモが「《豪炎球》」を放った。


「だから効かねぇって言ってんだろうが!」


翼で炎を防ぐ。


「《土円蓋(ダートドーム)》」


土のドームで姿を隠す。


「そんな安い壁で隠れたつもりか!」


羽ばたきによる衝撃で土壁が吹き飛ぶ。


だがそこに俺たちの姿は無い。


わずかな時間。


その陰で、俺はネモに耳打ちする。


ネモは一瞬だけこちらを見る。


「……わかった」


二手に分かれて建物の陰に隠れた。


「どこへ消えた、羽虫どもが……」


飢えにも似た感覚が身体を蝕み始めていた。


それに苛立っているのか、一帯へ無差別に攻撃を撒き散らす。


魔力を温存する様子も無い。

次々と建物が崩壊していく。


そして攻撃が、俺の隠れていた建物へ直撃する。


回避が間に合わない。


直撃は免れたものの、俺の身体は吹き飛ばされた。


「しまった!」


壁へ叩きつけられる瞬間、

ネモの姿が見えた。


次の瞬間、頭を強く打ち付ける。


そのまま糸が切れたように崩れ落ちた。


「……一人潰れたか」

「そんな……」


ネモが駆け寄ろうとする。


だが。


「おっと、通すと思うか?」


二人の間へ羽が突き刺さる。


ネモは助け出したい衝動を押し殺し、建物の陰へ退いた。


今飛び出せば、二人とも終わる。


ロイは反応しない。


目の前へ攻撃が飛んでも、

身動き一つしなかった。

完全に気を失っているように見える。


「……寝たふりではないな」


攻撃を受ければ、無意識でも身体は強張る。

いわゆる防御反射。


この凶悪な魔力だ、見えなくとも肌で感じられる。

それすら無かった。


気絶している。

そう判断するには十分だった。


ならば、精気を吸って魔力を補充するだけ。


男は瘴気を放ち、ロイから生命力を奪おうとする。


だが。


「……なんだ?」


瘴気が弾かれる。

吸収できない。

あり得ない現象だった。


「瘴気を拒絶した……?」


聖魔力を宿しているロイに、

瘴気は効かない。

だがそれをこの男が知る由も無かった。


男の目に興味の色が宿る。

未知だ。

理解できない。


だからこそ価値がある。


「ククク……いい。

 お前は殺さず、連れて帰るとしよう」


飢えよりも知的探求心が勝った。


ならば先に、もう一人を始末すればいい。


「次はお前だ、小娘!!!」


穢れの羽が無差別に降り注ぐ。

ネモが隠れていた建物も崩壊した。


攻撃を必死に躱す。


周囲の建物は次々と破壊されていく。

もう隠れる場所は無い。


羽は止まらない。


ネモは歯を食いしばりながら回避を続ける。


既に身体強化も弱まり始めていた。

上級魔法はもう撃てないだろう。


使えて火球を数発。


万事休す――そう思われた時だった。


「お待たせしました、ネモさん!」


ロイが立ち上がる。


「待たせ過ぎだ、バカ……」


安堵と張り詰めていた緊張が混ざり、

思わず軽口が漏れた。


ロイの目は、既に勝ち筋を捉えていた。

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