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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第三章 正反対の姉妹
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狂気の科学者

病室での戦いが始まった。


いつ攻めようかと間合いを取っていると、劇物のマークが貼られた瓶が目に入った。


「まずい、ここで戦ってはいけないな……」


ネモに小声で耳打ちする。


「ここで魔法を使うと薬品に引火して、大変なことになりそうです。

 なので俺がレウィシアさんを抱えて窓から飛び降ります。

 隙を作って頂いて、すぐにこちらへ来て下さい」

「わかった、それが一番最適だな」


この部屋は病室というより実験室に近い。

未知の薬品が大量に保管されている。


こちらが魔法を使わなくても、向こうが自爆覚悟で撃てば終わりだ。


「雑魚どもが、あたしを誰だと思っている?」


ネモが凄む。


その威圧感に、兵士たちがしり込みした。


正規軍ではない。

病院の警備兵程度では、相手をするには荷が重い。


手筈通り、隙を見てレウィシアさんを抱え、窓へ駆ける。


「《身体強化》」


下半身の耐久を高め、そのまま窓から飛び降りた。


着地の衝撃が足に響く。

それでも問題なく耐え切れた。


「無事着地できました!」

「わかった、今向かう!」


ネモも背を向け、窓へ一直線に走る。


兵士たちが慌てて追いすがるが、一歩遅い。


そのまま窓から飛び降りた。


「くそ、逃がしたか!」

「誰か本部へ応援を要請しろ!」


飛び降りる勇気がある者はいなかった。


「追ってこないな」

「奴らに飛び降りる度胸なんてないだろ」


すぐには来ない。

そのまま深淵の森へ向かおうとした――その時だった。


「お前ら、何を勝手にわしの実験体を持ち出そうとしておる?」


目の前に、白衣の老人が立っていた。


身体の一部は機械に置き換わっている。

いかにも狂気じみた研究者といった風貌だった。


「実験体じゃない、あたしの妹だ!」

「ふん、生意気な小娘め。

 誰のおかげで生き長らえておると思っている?」


わざとらしい口調で煽ってくる。

ネモが冷静さを失いかけているのが見て取れた。


「ネモ!俺たちの目的は、レウィシアさんを助けることです!」


目的を見失わないよう、強く声をかける。


ネモはハッとした表情になり、剣を握り直した。


「さて、そう簡単にいくかのう。これを見よ」


老人が白衣のポケットから注射器を取り出す。

中には、どす黒い靄のようなものが揺らめいていた。


瘴気――いや、違う。


これは根源の穢れの魔力に近い。


「何故そんなものを持っている!」


俺の叫びに、ネモが困惑する。


「あれは何なんだ?」

「あれが根源……瘴気の核みたいなものだ」


よりにもよって、そんなものを。


息を呑む。


「お前は国の指示で瘴気の根絶を研究していたんじゃないのか?」

「元々はそうじゃった。

 だが研究を進めるうちに、この力の素晴らしさに気づいてしまってのう」


瘴気を凝縮した魔力。


その凶悪さ。

底知れぬほどの未知。

世界の理に触れられそうなほどの禁忌。


それは研究者としての欲望を強烈に刺激したのだろう。


「この力を解き明かし、手に入れる。

 それこそが科学者であるわしの喜びよ」


嫌悪感が込み上げる。


だが老人は、さらに醜悪な笑みを浮かべた。


「お前さんの妹から瘴気を抽出するのは実に楽しかったぞ。

 苦痛を与えるほど濃くなるものじゃからな。

 あの絶望に満ちた顔……実に素晴らしかったわい」


ネモの表情が凍りつく。


殺気が一気に膨れ上がった。


「……あんたの研究は、ここで終わりだ!」


ネモが地面を蹴る。


だが老人は怯まない。


「さて、わしの研究成果を試すとするかのう」


注射器を自らの腕へ突き刺した。


瞬間。


濃密な瘴気が噴き出し、老人の身体を包み込む。


「うわぁっ!?」


突風のような圧力に、ネモが弾き飛ばされた。


近づけない。

恐らく魔法も通らない。

瘴気のヴェールが、防壁になっている。


やがて瘴気が晴れる。

そこに立っていたのは、一人の青年だった。


背には、穢れた黒い翼。


「ああ……素晴らしい。

 実験は成功のようだな」


顔立ちは、あの老人によく似ている。

そして機械化された身体の部位も一致していた。


「お前が……さっきの爺さんか」

「ご名答」


穢れの力で若返ったのだろう。

感じる魔力は異常だった。


根源ほどではない。

翼の大きさも劣る。


それでも、十分すぎる脅威だった。


「奴らを見つけたぞ!」

「なんだあいつは……!」


追いついてきた兵士たちが足を止める。


「邪魔だ、砂利ども」


青年が翼を振るう。


そこから放たれた瘴気が兵士たちへ襲いかかった。


「な、なんだこれは!?」

「ぐっ……力が……」


兵士たちの身体から精気が奪われていく。

痩せ細り、崩れ落ち、残骸のようになっていく。


そしてそれを吸収するように、翼がわずかに大きくなった。


前回は、ルナの母が遺した聖魔力があった。

だが今回は、それがない。


レウィシアさんを守りながら、この化け物を相手にしなければならない。


今回ばかりは――


俺も心が折れそうだった。

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