↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第三章 正反対の姉妹
35/143

恋心

 ロイとあたしは軍付属の病院へ向かっていた。

 変装のため、ロイは兵士の鎧を身に着けている。


 あたしは思い出していた。

 男なんて最低な生き物だと。

 父から始まり、ストリートチルドレン、軍学校の生徒、

 軍隊での上司、道行く人間にまで。

 あらゆる男に辛酸を舐めさせられてきた。


 女だと馬鹿にされ、蔑まれ。

 差別を受け続けてきた。

 実力で黙らせるしか生きる道はなかった。

 周りより発育の良かった身体のせいで、何度も不快な思いをしてきた。

 豊満さは、あたしには重荷でしかなかった。

 いかがわしい目線。

 下心を隠そうともしない奴ら。


 殺したあの隊長も、あたしに色目を使ってきた男だった。

 どいつもこいつも、化け物にしか見えない。

 男なんて皆そういうものだと思っていた。


 ただ、この少年は違った。

 話す時はちゃんと目を見て話す。

 下心も見えてこない。


「あたしって魅力ないのかな……」

「えっ?」

「いや、何でもない」


 いやいや、今のは無しだ。

 なんだか調子を狂わされる。


 ルナちゃんだったか。

 すごく懐いているように見えた。

 相当信頼しているのだろう。

 そうでなければ、ああはならない。


「なあ、一つ聞いていいか?」

「答えられることなら」

「あたしの身体って魅力無いか?」


 あたしはロイに質問を投げかける。


「えっ、ええっ」


 想定外の方向からの質問に露骨に戸惑っている。

 焦っているところが、不覚にも可愛く見えた。


「いや、魅力的だとは思います。

 引き締まった身体に整った顔立ち、豊満な胸。

 男なら誰しも憧れる存在です」


 慌てすぎて急に敬語になってしまっている。

 なんだか照れてしまう。

 そんな風に思ってくれていたんだ。

 男性を嫌い続けていた反動なのか、

 自分が思った以上に乙女な性格だったことに気付く。

 恥ずかしくて顔が火照った。


「その……なんだ。

 女として見たりするのか?」


 何を聞いているんだと、自分でも思う。


「まったく見ないわけではないです。

 それくらい魅力的な方だと思うので。

 俺も年頃の男ですからね」


 ロイはあたしを褒めた後、一呼吸置いて。


「でも、それを表に出すのは、一人の女性として対等に見ていない。

 あなたに失礼だと思います。

 あなたは人間であって、決して慰み者なんかじゃないんですから」


 真面目な表情に切り替わった。

 五大国で最も差別が酷い人間の国。

 魔法や剣術、家柄もさることながら、男尊女卑の思想が極めて強い。

 普通に育てば、男性は女性を見下すようになる。


 おそらく育った環境が特殊なのだろう。

 女性であっても平等に接する。

 いや、どこか自分を下に置いている節すらある。

 魔法適性が無く差別を受けていたという出自。

 だからこそ差別的な思想を、誰よりも嫌っているのかもしれない。


「そ、そうか……ありがとう」


 女性に関心が無いわけではない。

 あたしのことを魅力的だと言ってくれた上での答え。


「……なあ、あたしのことをネモって呼んでくれないか?」


 自分でも思ってもいなかった言葉が口から出た。

 妹と亡き母にしか呼ばせたことのない愛称だ。


「わかったよ。

 ……ネモ、改めてよろしく」

「ああ、よろしく」


 ああ、そうなんだ。

 あたしは、この少年のことを好きになってしまったのだ。


-----------------------------------------------------------


 病院へ到着する。

 病床で眠る少女がいた。

 ネモが少女へ目を落として言った。


「これがあたしの妹のレウィシアだ」


 顔色は悪く、頬も痩せこけている。

 瘴気による穢れた魔力が感じられた。

 生命力を吸い取られているようだ。

 それでも、相当精神力が強いのだろう。

 必死で生きようとしている。

 そうでなければ、恐らく既にこの世にはいない。


「なあ、頼む。

 妹を……シアを助けてくれ」


 凛々しい顔ではなく、必死で懇願する子供のような顔でこちらを見てくる。

 どれだけ大切にしているか、ひしひしと伝わってきた。

 助ける手段はある。

 だが、それを聞いてネモはどう思うだろうか。

 妹を大切にしているからこそ、とても伝えづらい方法だった。

 浄化魔法は使えない。

 聖の魔力を持つ俺が瘴気を祓う唯一の方法。


「俺の魔力をレウィシアさんに流し込むことだ」


 魔力を他人へ送るには、粘膜での接触を行う必要がある。

 過去にルナへ人工呼吸の形で魔力を送った、あれも方法の一つだ。

 魔人族のサキュバス一族のような例外を除けば、基本的にはその方法しかない。


-----------------------------------------------------------


 あたしは胸が苦しくなった。

 シアを救うために必要だと理解している。

 それでも、好きになった人との特別を、シアに譲らなければならないことに、

 どうしようもなく胸が締め付けられた。

 そして、そんな状況で嫉妬してしまった自分にも。

 命の危機だというのに。


 大切なシアに対して、初めて抱いてしまった負の感情。

 申し訳なさで目を逸らしてしまう。

 その時だった。


「裏切り者だ!裏切り者を捕らえろ!!」


 号令とともに兵士たちが病室の入口へ集まってきた。

 あたしが謀反を起こしたことが伝わってしまったのだろう。

 周囲を囲まれている。


 シアを守りながら、この狭い場所で戦えるのか。

 互いの背中を預けながら、二人は敵を見据えて構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。