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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第三章 正反対の姉妹
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恋心

ロイとアネモネは軍付属の病院へ向かっていた。

変装のため、ロイは兵士の鎧を身に着けている。


アネモネは思い出していた。


男なんて最低な生き物だと。


父から始まり、ストリートチルドレン、軍学校の生徒、

軍隊での上司、道行く人間にまで。


あらゆる男に辛酸を舐めさせられてきた。


女だと馬鹿にされ、蔑まれ。

差別を受け続けてきた。


実力で黙らせるしか生きる道はなかった。


周りより発育の良かった身体のせいで、

何度も不快な思いをしてきた。


豊満さは、あたしには重荷でしかなかった。

いかがわしい目線。

下心を隠そうともしない奴ら。


殺したあの隊長も、あたしに色目を使ってきた男だった。

どいつもこいつも、化け物にしか見えない。

男なんて皆そういうものだと思っていた。


――ただ、この少年は違った。


話す時はちゃんと目を見て話す。

下心も見えてこない。


「あたしって魅力ないのかな……」

「えっ?」

「いや、何でもない」


いやいや、今のは無しだ。

なんだか調子を狂わされる。


ルナちゃんだったか。

すごく懐いているように見えた。

相当信頼しているのだろう。

そうでなければ、ああはならない。


「なあ、一つ聞いていいか?」

「答えられることなら」

「あたしの身体って魅力無いか?」


想定外の方向から質問を投げかけられた。


「えっ、ええっ」


露骨に戸惑っている。

焦っているところが、不覚にも可愛く見えた。


「いや、魅力的だとは思います。

 引き締まった身体に整った顔立ち、豊満な胸。

 男なら誰しも憧れる存在です」


慌てすぎて急に敬語になってしまっている。


なんだか照れてしまう。

そんな風に思ってくれていたんだ。


男性を嫌い続けていた反動なのか、

自分が思った以上に乙女な性格だったことに気付く。


恥ずかしくて顔が火照った。


「その……なんだ。

 女として見たりするのか?」


何を聞いているんだと、自分でも思う。


「まったく見ないわけではないです。

 それくらい魅力的な方だと思うので。

 俺も年頃の男ですからね」


褒めた後、一呼吸置いて。


「でも、それを表に出すのは、

 一人の女性として対等に見ていない。

 あなたに失礼だと思います。

 あなたは人間であって、

 決して慰み者なんかじゃないんですから」


真面目な表情に切り替わった。


五大国で最も差別が酷い人間の国。


魔法や剣術、家柄もさることながら、

男尊女卑の思想が極めて強い。


普通に育てば、男性は女性を見下すようになる。


おそらく育った環境が特殊なのだろう。


女性であっても平等に接する。

いや、どこか自分を下に置いている節すらある。


魔法適性が無く差別を受けていたという出自。

だからこそ差別的な思想を、

誰よりも嫌っているのかもしれない。


「そ、そうか……ありがとう」


女性に関心が無いわけではない。

あたしのことを魅力的だと言ってくれた上での答え。


「……なあ、あたしのことをネモって呼んでくれないか?」


自分でも思ってもいなかった言葉が口から出た。

妹と亡き母にしか呼ばせたことのない愛称だ。


「わかったよ。

 ……ネモ、改めてよろしく」

「ああ、よろしく」


ああ、そうなんだ。

あたしは、この少年のことを好きになってしまったのだ。



病院へ到着する。


病床で眠る少女がいた。


ネモが少女へ目を落として言った。


「これがあたしの妹のレウィシアだ」


顔色は悪く、頬も痩せこけている。

瘴気による穢れた魔力が感じられた。

生命力を吸い取られているようだ。


それでも、相当精神力が強いのだろう。

必死で生きようとしている。


そうでなければ、

恐らく既にこの世にはいない。


「なあ、頼む。

 妹を……シアを助けてくれ」


凛々しい顔ではなく、

必死で懇願する子供のような顔でこちらを見てくる。


どれだけ大切にしているか、

ひしひしと伝わってきた。


助ける手段はある。


だが、それを聞いてネモはどう思うだろうか。


妹を大切にしているからこそ、

とても伝えづらい方法だった。


浄化魔法は使えない。

聖の魔力を持つ俺が瘴気を祓う唯一の方法。


「俺の魔力をレウィシアさんに流し込むことだ」


魔力を他人へ送るには、

粘膜での接触を行う必要がある。


過去にルナへ人工呼吸の形で魔力を送った、

あれも方法の一つだ。


魔人族のサキュバス一族のような例外を除けば、

基本的にはその方法しかない。


ネモは胸が苦しくなった。

妹を救うために必要だと理解している。


それでも、

好きになった人との()()を、

妹に譲らなければならないことに、

どうしようもなく胸が締め付けられた。


そして、そんな状況で嫉妬してしまった自分にも。


命の危機だというのに。


大切な妹に対して、

初めて抱いてしまった負の感情。


申し訳なさで目を逸らしてしまう。


その時だった。


「裏切り者だ!裏切り者を捕らえろ!!」


号令とともに兵士たちが病室の入口へ集まってきた。

ネモが謀反を起こしたことが伝わってしまったのだろう。


周囲を囲まれている。


レウィシアを守りながら、

この狭い場所で戦えるのか。


互いの背中を預けながら、

二人は敵を見据えて構えた。

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