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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第三章 正反対の姉妹
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打算

 森の外へたどり着いた俺は、

 目の前の惨状に言葉を失った。

 兵士の亡骸がそこら中に転がっている。


「アネモネさんっ!」


 俺は声を上げる。

 重傷を負ったアネモネが横たわっていた。

 手遅れかと一瞬思ったが、微かにまだ息はある。

 だが、ヒールでは何の役にも立たないだろう。

 ここで俺が取る手段は一つ。


 《超回復薬生成》

 ポーションを生成し、アネモネに飲ませる。

 喉を通った瞬間、傷がゆっくりと塞がっていく。

 呼吸も安定してきた。

 ひとまずは安心して良いだろう。


 周囲の屍を火葬する。

 せめてもの時間稼ぎのために。

 それにしても彼女の規格外さには驚かされる。

 この人数を一人で倒すなんて。


 俺たちが勝てたのは、偶然が重なった結果だろう。

 瘴気について聞き出すために殺す気は無かったこと。

 ルナには一切手を出さなかったこと。

 疲労や地の利、隠蔽魔法具、世界樹の魔力。

 数えればキリがない。

 俺はアネモネを再び小屋へ運んだ。


-----------------------------------------------------------


「ここは……」


 この天井は見覚えがある。

 深淵の森の小屋だ。

 負傷も大きかった。

 毒も回っていた。

 なのに身体が何ともない。

 一瞬、ここは黄泉の世界かと錯覚しそうになった。

 頬を思い切り抓る。


「痛い……」


 痛みを感じる。


「あたし、生きてる……」


 ありえない。

 万が一、一命を取り留めたとしても、

 無傷である説明がつかない。


「あ、起きたみたい!お兄ちゃんー!起きたよー!」

「わかった、すぐに行く」


 前にも聞いたやり取りだった。

 現れた少年が真剣な眼差しで口を開いた。


「色々言いたいことがあると思う。

 それは理解している。

 だが、時は一刻を争う。

 質問に答えてくれ」


 こちらの質問責めを先回りして封じつつ、

 回答の必要性を伝えてくる。


「……わかった」


 二度も命を救われた。

 異論はもう無かった。


-----------------------------------------------------------


「妹さんの状況を教えて欲しい」

「妹は瘴気に侵されている。

 本来なら既に殺されているところを、

 あたしが従順であることを条件に生かされている」


 依頼を受けた理由はわかった。

 だが、瘴気は周囲に感染する。

 それを承知の上で生かしているというのか。


「瘴気は感染するはずだが?」

「ああ、研究のデータ収集も兼ねていて、

 魔法耐性があれば感染を遅らせつつ、

 症状も抑えられるという研究成果が出ている」


 言っていることは間違っていない。

 魔法耐性を持つ魔人族が森へ侵入した時、

 瘴気の影響をほとんど受けていなかった。

 魔法耐性の結界か何かで守っているのだろう。


「実のところ、深淵の森に既に瘴気は無い」

「は?どういうことだ。

 上空を覆っていたと聞いたが」


 俺は簡単に説明した。

 絶滅したエルフが復讐のために残した怨嗟の集合体である根源。

 その封印から漏れ出した怨嗟が、世界樹の魔力と結びついたものが瘴気であること。


 同じく封印されていたエルフのルナ。

 ルナの中にあった、エルフの女王が遺した聖魔力によって根源を弱らせ、

 俺の封印術で根源ごと瘴気を封印したこと。

 その代償として、ルナは聖魔力を完全に失ったこと。


 そして上空を覆っているものは、妨害魔術という、

 魔力を遮断する結界魔法であることも伝えた。


「規格外すぎる……。

 そんなやつに勝てるわけないわな」


 アネモネは呆れたように、乾いた笑い浮かべる。

 高く買ってくれるのは良いが、俺一人の力ではない。

 もちろん《魔法創造》が規格外なのは間違いないが。


「妹は助かるのか?」


 瘴気が無くなったことは僥倖だったのだろう。

 だが、聖魔力が失われた今、どうやって浄化する。

 もっともな疑問だ。


「可能性はある。

 僅かな聖魔力でも瘴気は無力化することがわかっている。

 俺の中に、僅かながら聖魔力が残っている」


 封印した際、ほんの少しだけ体内に残されたと伝えた。


「まだ聞きたいことはあると思うが、一旦終わりだ。

 俺たちはあなたの妹を助けたいと思う。

 信じてくれるか?」


-----------------------------------------------------------


 正直、二度助けられ、ここまで話を聞いてもなお、信用しきれない部分があった。

 男という性別そのものに嫌悪感がある。

 だが妹のためなら、そこは目をつむれる。

 けれど、そうじゃない。

 ここまで見返りを求めず尽くされること自体が、

 本能的な恐怖を呼び起こしていた。


 お人よし。

 そんな言葉では表現できない。

 人間の醜さに漬かりきって生きてきた。

 だからこそ、眩しすぎる光は目に毒だった。

 恩人である少年に対して、警戒を緩めることができなかった。


-----------------------------------------------------------


 これでもまだ信用されていなさそうだった。

 確かに相手にとって都合が良すぎる。

 タダより高いものは無い。

 そんな諺があるくらいには。

 どうすれば信じてもらえるか。

 悩んだ末に口を開いた。


「俺の過去を聞いて欲しい」


 生前のこと。

 転生のこと。

 そしてソルヌのギルドでのこと。

 魔法の才能が無く、最期は肉壁として戦場で散ったこと。

 神によって、魔法を使える状態で生き返らせてもらったこと。

 そして国軍の策略で、ギルドの仲間、

 家族のように大切だったアンジェさんを失ったこと。


 そのアンジェさんの遺言。

 『昔のあなたみたいに、泣いている誰かを助けてあげてください』

 その言葉を信念に、アネモネや妹を救いたいと思っていること。

 死してなお、何度も命を救ってくれた。

 天使のような人。

 その願いを純粋に叶えたい。


「俺一人の力じゃ、大切なものを守り切れないと知った。

 だから力を貸して欲しい。

 もちろん無理にとは言わない。

 それが見返りじゃ、ダメかな?」


-----------------------------------------------------------


 転生云々はにわかには信じ難い。

 だが、傷一つない自分の身体の説明がつかないのも事実だった。


 そしてあたしは理解した。

 打算が無いわけではないのだ。

 言いようによっては、こちらの人生に干渉する、ある意味で我儘な願い。

 時には身を危険に晒すこともある。

 ただ願いの方向性が、純粋なだけだったのだ。


 気付けば、不思議と嫌悪感を感じなくなっていた。

 この人は、信用しても良い。

 そう思えた。

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