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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第三章 正反対の姉妹
34/89

打算

森の外へたどり着いたロイは、

目の前の惨状に言葉を失った。


兵士の亡骸がそこら中に転がっている。


「アネモネさんっ!」


ロイが声を上げる。


重傷を負ったアネモネが横たわっていた。


手遅れか――と一瞬思ったが、

微かにまだ息はある。


ヒールでは何の役にも立たないだろう。

ここで俺が取る手段は一つ。


《超回復薬生成》


ポーションを生成し、アネモネに飲ませる。


喉を通った瞬間、

傷がゆっくりと塞がっていく。


呼吸も安定してきた。

ひとまずは安心して良いだろう。


周囲の屍を火葬する。

せめてもの時間稼ぎのために。


それにしても彼女の規格外さには驚かされる。


この人数を一人で倒すなんて。


俺たちが勝てたのは、

偶然が重なった結果だろう。


瘴気について聞き出すために殺す気は無かったこと。

ルナには一切手を出さなかったこと。

疲労や地の利、隠蔽魔法具、世界樹の魔力。

数えればキリがない。


ロイはアネモネを再び小屋へ運んだ。



「ここは……」


この天井は見覚えがある。

深淵の森の小屋だ。


負傷も大きかった。

毒も回っていた。


なのに身体が何ともない。


一瞬、ここは黄泉の世界かと錯覚しそうになった。


頬を思い切り抓る。


「痛い……」


痛みを感じる。


「あたし、生きてる……」


ありえない。


万が一、一命を取り留めたとしても、

無傷である説明がつかない。


「あ、起きたみたい!お兄ちゃんー!起きたよー!」

「わかった、すぐに行く」


前にも聞いたやり取りだった。


現れた少年が真剣な眼差しで口を開いた。


「色々言いたいことがあると思う。

 それは理解している。

 だが、時は一刻を争う。

 質問に答えてくれ」


こちらの質問責めを先回りして封じつつ、

回答の必要性を伝えてくる。


「……わかった」


二度も命を救われた。

異論はもう無かった。


「妹さんの状況を教えて欲しい」

「妹は瘴気に侵されている。

 本来なら既に殺されているところを、

 あたしが従順であることを条件に生かされている」


依頼を受けた理由はわかった。

だが、瘴気は周囲に感染する。

それを承知の上で生かしているというのか。


「瘴気は感染するはずだが?」

「ああ、研究のデータ収集も兼ねていて、

 魔法耐性があれば感染を遅らせつつ、

 症状も抑えられるという研究成果が出ている」


言っていることは間違っていない。


魔法耐性を持つ魔人族が森へ侵入した時、

瘴気の影響をほとんど受けていなかった。


魔法耐性の結界か何かで守っているのだろう。


「実のところ、深淵の森に既に瘴気は無い」

「は?どういうことだ。

 上空を覆っていたと聞いたが」


ロイは簡単に説明した。


絶滅したエルフが復讐のために残した怨嗟の集合体――根源。


その封印から漏れ出した怨嗟が、

世界樹の魔力と結びついたものが瘴気であること。


同じく封印されていたエルフのルナ。


ルナの中にあった、

エルフの女王が遺した聖魔力によって根源を弱らせ、

俺の封印術で根源ごと瘴気を封印したこと。


その代償として、

ルナは聖魔力を完全に失ったこと。


そして上空を覆っているものは、

妨害魔術という、

魔力を遮断する結界魔法であることも伝えた。


「規格外すぎる……。

 そんなやつに勝てるわけないわな」


アネモネは呆れたように、乾いた笑い浮かべる。


高く買ってくれるのは良いが、

俺一人の力ではない。


もちろん《魔法創造》が規格外なのは間違いないが。


「妹は助かるのか?」


瘴気が無くなったことは僥倖だったのだろう。


だが、聖魔力が失われた今、

どうやって浄化する。

もっともな疑問だ。


「可能性はある。

 僅かな聖魔力でも瘴気は無力化することがわかっている。

 俺の中に、僅かながら聖魔力が残っている」


封印した際、

ほんの少しだけ体内に残されたと伝えた。


「まだ聞きたいことはあると思うが、一旦終わりだ。

 俺たちはあなたの妹を助けたいと思う。

 信じてくれるか?」



正直、二度助けられ、

ここまで話を聞いてもなお、

信用しきれない部分があった。


男という性別そのものに嫌悪感がある。


だが妹のためなら、

そこは目をつむれる。


けれど、そうじゃない。


ここまで見返りを求めず尽くされること自体が、

本能的な恐怖を呼び起こしていた。


お人よし。


そんな言葉では表現できない。

人間の醜さに漬かりきって生きてきた。


だからこそ、

眩しすぎる光は目に毒だった。



これでもまだ信用されていなさそうだった。


確かに相手にとって都合が良すぎる。


()()()()()()()()()()()


そんな諺があるくらいには。


どうすれば信じてもらえるか。


悩んだ末に口を開いた。


「俺の過去を聞いて欲しい」


生前のこと。

転生のこと。

そしてソルヌのギルドでのこと。


魔法の才能が無く、

最期は肉壁として戦場で散ったこと。


神によって、

魔法を使える状態で生き返らせてもらったこと。


そして国軍の策略で、

ギルドの仲間――家族のように大切だったアンジェさんを失ったこと。


そのアンジェさんの遺言。


『昔のあなたみたいに、泣いている誰かを助けてあげてください』


その言葉を信念に、

アネモネや妹を救いたいと思っていること。


死してなお、

何度も命を救ってくれた。

天使のような人。

その願いを純粋に叶えたい。


「俺一人の力じゃ、大切なものを守り切れないと知った。

 だから力を貸して欲しい。

 もちろん無理にとは言わない。

 それが見返りじゃ、ダメかな?」


転生云々はにわかには信じ難い。

だが、傷一つない自分の身体の説明がつかないのも事実だった。


そしてアネモネは理解した。


打算が無いわけではないのだ。


言いようによっては、

こちらの人生に干渉する、

ある意味で我儘な願い。

時には身を危険に晒すこともある。


ただ願いの方向性が、純粋なだけだったのだ。


この人は、信用しても良い。


そう思えた。

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