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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第三章 正反対の姉妹
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裏切り

目を覚ますと見知らぬ天井が目に入った。


ここはどこだ?


「あ、起きたみたい、お兄ちゃんー!起きたよー!」

「わかった、すぐに行く」


聞き慣れない声がする。


記憶がおぼろげに蘇ってくる。


「あたしは負けたんだな……」


妹を守るため、自分の身を守るため、強くあらねばならなかった。


今まで何のために頑張ってきたのだろう。

努力が無に帰すような虚無感に襲われた。


「何故止めを刺さなかった……?」


うわ言のように呟いた。

情けをかけられたと思うと、余計に虚しくなる。


「なあ、聞かせてくれないか?

 何故こんな依頼を受けた」


魔術師の少年――ロイが問いかける。


「あたしには、妹がいる。

 唯一の家族だ」


元々父とあたし、妹の三人で暮らしていた。

母は幼い頃に病で亡くなった。


母が亡くなった後、父は人が変わった。


仕事を辞め、酒に溺れ、何かあればあたしたち姉妹に手を上げるようになった。


どれだけ殴られたかわからない。

妹も痣だらけだった。


ある日父に襲われた。

いつものような殴打ではなかった。


服を脱がされ、組み伏せられた。

このままでは、花は穢され、散らされてしまうだろう。


ここで耐えたとしても、次は妹に向かう。

そう理解した瞬間――気づけば、父に手をかけていた。


「その妹を守るため、この依頼を受けた」



アネモネの話を聞いて、心が揺れ動く。

大切なものを守りたい。

その気持ちを利用する国のやり方に、強い嫌悪感を覚えた。


なんとかして妹のことも、

そしてアネモネのことも救ってあげたいと思った。


「なあ、妹さんはどういう状況なんだ?」


アネモネは答えない。


国だけではなく、この男にまで弱みを握られたくはなかった。

ただでさえ情けをかけられ、借りまで作ってしまっている状況なのだ。


「申し訳ないが、帰らせてもらう。

 お前たちのことは言わない、それがせめてもの誠意だ」


自分がいなくなれば、利用価値の無くなった妹の身が保証されない。


何があっても帰る必要があるのだろう。


だが残念ながら、それは叶わない。

森を出た先に待っているのは殺処分だからだ。


それを伝えても間違いなく信じないだろう。


俺たちは敵側の人間だ。

それに味方から殺されるなんて、普通は信じられる話ではない。


「世話になった」


礼を言うと、アネモネは足早に森を抜けていく。


万全な状態ではないだろうに、ものすごい速さだった。


「ルナ、留守を頼む。アネモネさんを助けに行く」


去っていく背中を見ながらルナに伝える。


「わかった!気を付けてね、お兄ちゃん」


ルナは頷き、小屋の中へ戻っていった。


「速すぎる……頼む、間に合ってくれ」


身体強化を使い、必死に追いかける。



森を急いで抜ける。


一度通った道なら、なんてことはない。


最短距離で進んでいく。


結界を抜け、外へ出た時、違和感に気付いた。


仲間だった兵士の亡骸が転がっている。


それも瘴気によるものではない。

明らかに殺されたような傷跡だった。


さらに兵士たちが武器を構えている。


森から現れる外敵への警戒ではない。


その殺意は、明確にこちらへ向いていた。


囲まれている。


「なんの真似だ?」


兵士を率いる隊長が口を開く。


「あなたは捨て駒なんですよ」


笑いながらこちらを見る。


「どういうことだ……?」

「どうもこうも、最初からあなたは死ぬ運命なのです。

 森の外か中か、その違いだけですがね」


不愉快な言い回しに、苛立ちが込み上げる。


「笑えない冗談だな。怪我したくなければ道を開けろ」

「冗談などではありませんよ。

 瘴気を外に出さないため、森に入った者は殺処分することになっておりますので」


魔法部隊が詠唱を始めたのを見て、事実だと悟った。


本気であたしを殺しにきている。


「あなたのこと、前々から気に入らなかったのですよ。

 それでは死んでください!」

「ふざけるなああああ!クソオスどもがぁ!!」


剣を構えて飛び掛かる。


飛び交う魔法を回避しながら、魔法部隊の首を飛ばしていく。


「何をしている!相手は女一人だぞ!」


襲い掛かる兵士たちを次々と薙ぎ払う。

正規軍ではない以上、あたしが負ける相手ではない。


あまりにも手こずる姿に焦った隊長が、苦し紛れに奥の手を取り出した。


「あなたの妹さん、果たして無事ですかねぇ」


ハッタリだった。

状況も知らなければ、どうこうできる権限もない。

全員斬り捨ててしまえば、謀反が伝わることもない。


だが、アネモネの動きが鈍った。

動揺が見て取れる。


「甘いですねぇ!!!!」


隊長がアネモネを斬りつけた。


深手ではない。

だが浅くもない傷を負う。


「ふふふっ、これで終わりですよ。

 闇魔法《毒蛇(ヴェノム)》」


闇の魔力が猛毒を生成する。


負わせた傷の中に埋め込んだ毒の媒体を、闇の魔力で成長させる魔法だ。


「く、くそがああああ!」


傷口から毒が回る。

じわじわと体力が削られていく。

解毒薬で対処できることを除けば、瘴気と何が違うのか。


この毒は魔力を餌に身体を循環する。


あたしは生まれつき魔力が少ない方だ。

それが幸いして、毒の回りが遅い。


片腕の魔力を遮断した。


身体強化の逆。

負傷した腕は完全に使えなくなるが、毒に流れる魔力を最小限に抑えられる。


後少し、もってくれればいい。


「な、ばけものが……」


毒を受けてなお動く姿に、兵士たちは畏怖していた。


「舐めるなああああ!!」


咆哮した。


その威圧感に兵士たちはたじろぐ。


止まることなく剣を振り続けた。


魔法攻撃には《火球(フレア)》をぶつけて相殺する。


動きは鈍い。


いくつかの攻撃は回避しきれず、全身に傷を負っている。


既に満身創痍。

それでも気力だけで戦い続ける。


数百といた兵士は、残すところ隊長一人となった。


「あ、ああ……これは軍部に報告せねば……」


逃走を図る。


「《豪炎球》!」


炎の上級魔法が、後ろから迫りくる。


「ああああああ!!!!」


隊長は炎に飲まれ、燃え尽きた。


「勝った……早く行かねば……」


限界だった。


歪む視界に抗うことすら叶わず、


その場に崩れ落ちた。

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