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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第三章 正反対の姉妹
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交戦

目の前に立つ二人の姿に、女戦士は目を疑った。


何故、この森に人がいる。

そして何故、自分たちを攻撃する。


意味がわからなかった。


瘴気が満ち溢れる森で暮らしているとでもいうのだろうか。


だが道中を振り返れば、人為的な痕跡はいくつもあった。


整備された道。

不自然に配置された障害物。

明らかに誘導するような地形。


つまり――彼らが仕掛けたのだ。


「お前たちは何者だ?」


警戒を込めて問いかける。


すると少年は落ち着いた様子で口を開いた。


「人に名を尋ねるなら、まず自分から名乗るべきじゃないか?」

「あ……これは失礼した」


アネモネは咳払いを一つして名乗る。


「あたしの名はアネモネ。国軍特殊作戦部隊隊長だ」

「俺はロイ。見ての通り魔術師だ」

「ルナはルナ! エルフの国の王女だよーっ!」


互いに名を名乗り合う。


だが、アネモネの思考は別のところに向いていた。


男の方――

とんでもない魔力量だ。


あたしの何倍ある。

……いや、それ以上かもしれない。


それほどまでに膨大だった。


そして、もう一人の少女。

可愛らしい容姿をした少女だが、

エルフという種族は聞いたことがない。


エルフの国?

そんな国も存在しない。


魔人族に似た特徴はあるが、それとも違う。


何より異常なのは――

魔力を一切感じないことだった。


魔術適性の無い人間でも、魔力そのものは持っている。

魔力が尽きれば人は死ぬ。

なのに目の前の少女からは、何も感じ取れない。


だが分身や傀儡には見えない。

確かに血の通った生物だった。


「聞きたいことは山ほどあるが……何故我らの邪魔をする?」

「それは、俺たちがこの森を根城にしているからだ」


アネモネはさらに混乱した。

つまり、この二人は本当にこの森で暮らしている。


遠くには小屋まで見える。

長期間生活している証拠だった。


「何故、瘴気に当てられても平気でいられる?」

「それを答えることはできない」


予想通りの返答だった。

瘴気への対処法を知られれば、この森への本格的な侵攻は避けられない。


彼らからすれば、瘴気を恐れられていた方が都合が良いのだろう。


言い分は理解できる。


だが――こちらにも退けない理由があった。


妹の命がかかっている。

無理にでも聞き出すしかない。


「そうか。それなら申し訳ないが――力づくで聞き出させてもらう!」


アネモネは剣を構え、一気に踏み込んだ。



まあ、そうなるだろうな。

俺はある程度予想していた。


彼女は、この寄せ集めの中では明らかに別格だった。


実力もあり、聡明であることは疑いようもない。

にも関わらず、自らこんな自殺同然の任務を望むとは思えない。


長時間この森へ留まり、任務を遂行しようとしている。

おそらく家族か何か、大切なものを人質に取られている。


なら、まずは対話から入るべきだろう。


「戦う前に教えてくれ。

 あんたは何故、こんな命を粗末にする任務を受ける?

 何か弱みを握られてるんじゃないのか?」


アネモネの動きが、一瞬止まった。

図星か。


だが次の瞬間には、再び踏み込んでくる。


「だからどうした!お前には関係ない!」


身体強化によって引き上げられた身体能力で、一気に間合いを詰めてくる。


速い。


敏捷性だけならカトレアの方が上だった。


だが剣技、判断力、身体強化を含めた総合力では、目の前の女戦士の方が上だ。


鋭い斬撃が襲いかかる。

俺は飛び退いて回避した。


今まで戦った剣士の中でも、ヴァントの山で戦った司令官に次ぐ実力だ。

構えに無駄がない。


フェイントも小細工もなく、

重く、速く、正確に、最短で斬ってくる。


軍人として洗練された剣だ。

同じ軍勢同士の戦いなら、恐ろしく強いだろう。


だが――洗練されすぎている。

あまりにも教科書通りの剣捌き。


無駄が無いからこそ、次の動きが読める。


下半身への身体強化を使い、

俺は我流の動きで、受け流すように回避していく。


変則的な動きへの対処が苦手なのか、

あるいは疲労の蓄積か。

アネモネの剣は、俺を捉えきれない。


そして彼女は、ルナへ一切攻撃を向けていなかった。


戦士としての矜持か。

それとも、人質となっている誰かと重なるのか。


「なんだこいつ……!

 動きが速いわけでもないのに、捉えきれない……っ!」


焦りからか、太刀筋が乱れ始める。

このままでは消耗させられる。


剣だけでは埒が明かないと判断したのだろう。


「《豪炎球》!」


上級魔法。

俺の《火炎弾》とは比べものにならない火力だ。


だが――対抗手段はある。


「《水瀑流(ウォーターフォール)》!」


激流が炎を呑み込む。

こちらの方が等級は下。

それでも属性相性によって押し切った。


「なっ……あたしの《豪炎球》を!?」


アネモネは炎の適性しか持ち合わせていない。

水属性とは相性が悪い。

並の水魔法なら押し切れる威力はあったのだろう。


だが、俺の魔法も簡単に突破されるほど弱くはない。


本来なら、最低でも相手の体勢を崩せるほどの高威力の攻撃。

詠唱直後の隙など問題無かったはずだ。


だが完全に防がれたことで、致命的な隙が生まれた。

そこを狙う。


「《火炎弾(フレイムバレット)》!」


アネモネは咄嗟に剣で斬り払った。


だが体勢が崩れる。


「しまったっ!」


それでも踏みとどまり、即座に防御体勢を取る。

身体強化を防御寄りへ集中。

被害を最小限に抑える動き。


それができるだけでも相当な実力者だった。


俺が今使える魔法の中で、最も瞬間火力が高い《火炎弾(フレイムバレット)》でも、決定打にはならないだろう。


だが――魔法を使えるのは俺だけじゃない。

「ルナ、頼む!」

「了解! いっけぇぇぇぇ!《大火球(ハイフレア)》!」

「な……!?」


完全に意識の外からの攻撃だった。

アネモネは反応できない。

俺への防御に集中していた身体へ、大火球が直撃する。


アネモネの身体が吹き飛び、地面へ崩れ落ちた。


「どうして……魔力が一切無いのに、何故魔法が使える……」


掠れた声で問いかけてくる。


ルナは得意げに指輪を見せた。


「この指輪で、ルナの魔力がわからなくなるの!」


魔力隠蔽の魔道具。

元々は聖魔力を隠すためのものだった。


今でも、ルナは大切そうに身につけている。


「魔道具……だったのか……」


そこまで言い切る前に。


アネモネの意識は、静かに途切れた。

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