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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第三章 正反対の姉妹
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妨害魔術

五大国の会議から数日後。


森は、まだ平穏を保っていた。


やはり家は良い。


家具はまだほとんど揃っていない。


布団が一つ。

調理器具が少々。

机と、二人分の椅子だけ。


それでも、

雨風を凌げる場所があるというだけで、

心の落ち着きがまるで違った。


特に布団の存在は大きい。


硬い土の上で眠るより、

遥かに疲労回復の効率が良い。


もっとも――


その布団は一枚しかない。


結果として、

二人でくっついて眠ることになっていた。


「ルナが布団を使ってくれ。俺は床で寝るから」


最初は、

そうするつもりだった。


だが。


「お兄ちゃんは、一緒に寝てくれないの……?」


上目遣いで訴えかけられ、

結局押し切られてしまった。


記憶が戻った今でも、

ルナは俺を『お兄ちゃん』と呼んでいる。


「いや、だって男女で同じ布団っていうのは……」


思わずたじろぐ。


家族に愛されたことのないロイは、

男女が同じ布団で眠るというのは、

どこかやましいものだという聞きかじった知識しか持っていなかった。


だが、

ルナは不思議そうに首を傾げる。


「そんなことないよ?

 ママも一緒に寝てくれたし、

 小さい頃は本当のお兄ちゃんとも一緒に寝てたよ?」


お兄ちゃん。


エルフの国の王子のことだろう。


勇敢に戦い、

戦場で散った英雄。


ルナから話を聞いていた。


どうやら、

家族で一緒に眠るのは普通のことらしい。


そしてルナは、

少しだけ表情を曇らせた。


「……目を閉じると、怖くなるの」


記憶を取り戻した今、

眠ろうとすると過去の記憶が蘇るのだろう。


夢の中で魘されることもあった。


「近くにいてくれると……安心するから……」


年頃の少女と同じ布団で眠るのは気が引けた。


だが、

それ以上に。


少しでも、

ルナの孤独を和らげてやりたいと思った。


人の体温というのは、

不思議と安心するものなのだろう。


実際、

自分自身も夜の寂しさが薄れている気がした。


血は繋がっていない。


それでも、

本当の兄妹のように思えた。



再び《魔法創造》が使えるようになった。


変身魔術で情報収集を続けていたこともあり、

人間国が不穏な動きを見せていることは察知している。


だが、

まだ本格的に動くまでには時間がかかりそうだった。


ならば、

その間に準備を整える。


「《魔法創造》!」


新たに生み出したのは――


妨害魔術(ジャミング)》。


結界を張り、

内部を外から認識できなくする魔術。


さらに、

内部から外へ影響を及ぼす魔術も無力化できる。


制約:

『結界の展開・拡張・修復中は睡眠と同様の状態になる』

『結界展開中、時間経過と範囲に比例して脳へ負荷を受ける』


効果だけを見れば、

今回の対策として理想的だった。


だが――


制約が重すぎる。


展開・修復中の無防備については、

まだ対策可能だ。


事前に展開しておけばいい。


問題は、

もう一つの制約。


脳へのダメージだった。


変身魔術の制約は、

ある程度調整できる。


変身した身体は、

結局は自身の延長だからだ。


完全に自我を失うレベルとなれば、

年単位で維持するか、

高頻度の変身を繰り返した場合くらいだろう。


使用を控えれば、

負担もある程度軽減されていく。


霊体化魔術も重い制約を持つが、

あちらは一時間ほど身体が動かなくなるだけで済む。


しかも、

火事場の馬鹿力のように、

精神力次第で多少は動けることも分かった。


だが、

今回の結界は違う。


この広大な森全体を覆う必要がある。


長時間維持すれば、

最悪、

脳そのものが壊れる可能性すらあった。


「この問題をどう解決するか……」


一度、

試験的に森全体へ結界を展開してみる。


その瞬間、

意識が闇へと落ちた。


ルナには、

目覚めるまでの時間を測ってもらっている。


結果は――


展開完了まで、

およそ十分。


想定以上に早かった。


恐らく、

以前瘴気として使われていた世界樹の残留魔力が、

空気中に今も残っているのだろう。


それが《妨害魔術(ジャミング)》へ呼応し、

効果を増幅させている可能性があった。


実際、

後日ソルヌ跡地で小規模展開した際には、

森の百分の一程度の範囲でも同じくらい時間がかかっている。


つまり、

この森だからこそ成立する魔術だった。


さらに、

展開時間を十分、一時間と試してみたが、

今のところ異常は感じない。


恒久的な維持は無理でも、

ある程度の長時間運用なら現実的かもしれない。


「だけど……さすがにリスクはもう少し減らしたいな」


思考を巡らせる。


だが、

決定打となる案が浮かばない。


その時だった。


するとルナが、

ふと思い出したように口を開いた。


「そういえば……

 この前、少し森の中で迷子になりかけたんだよねー」

「え?」


思わず聞き返す。


ルナは苦笑しながら続けた。


「記憶にある森と全然違ったの。

 昔はもっと見通しが良かった場所も、

 今は植物だらけで道が塞がってたりして」


根源が消滅したことで、

瘴気に侵されていた植物が一気に活性化した。

この前まで存在しなかった植物を見かけるようになった。


加えて、

長い年月の変化もあるのだろう。


ルナの記憶にある森とは、

地形も景色も大きく変わっていた。


「今のこの森って、

 天然の迷路みたいになってるよねぇ」


記憶と乖離する今の森で思わず迷子になりかけていたのだった。


その瞬間、

頭の中で全てが繋がった。


「――その手があったか」


戦術知識を得たことで、

逆に発想が固くなっていた。


ヴァントの山で戦った司令官と同じ。


固定観念に囚われていたのだ。


「ルナ、ありがとう!

 おかげですごく良いことを思いついた!」

「えっ、なになに!?どういうこと?」


興味津々といった様子で身を乗り出してくる。


妨害魔術の制約は、

展開範囲に比例する。


ならば――


展開範囲そのものを減らせばいい。


通れない道を作れば、

そこに結界を張る必要はない。


植物を利用して侵入経路を限定し、

結界の範囲内へ誘導する。


侵入者の足止めにもなり、

一石二鳥だった。


「この森に――迷路を作ろう!」

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