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魔法を願った少年  作者: 彩音りあ
第三章 正反対の姉妹
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弱み

 俺たちは迷路づくりに取り掛かった。

 ウキウキしながら構想を練る。


「まずはここに、これを置いて」

「おお、いいな。じゃあここにこれはどうだ?」


 まずは土壁を使い、空間を区切っていく。

 何層も重ねることで、万が一壁に穴を開けられても、すぐ先に道があることを悟られにくくできる。

 もちろん、そのままでは人工物だと分かってしまう。

 そうなれば、真っ先に破壊されるだろう。


 そこで、土壁の周囲を植物で覆うことにした。

 魔力を吸収して育つ植物を壁際へ植え直し、水球で水分と魔力を注ぎ込む。

 すると、みるみるうちに植物が成長し、土壁を覆い隠していった。

 強力な魔法までは防げない。

 だが、低級魔法程度なら吸収してくれる。

 この植物は低級魔法耐性装備の素材として使われるほど、

 魔力耐性に優れているのだ。

 これなら、土壁の防御としても十分役立つ。


「「《大火球(ハイフレア)》!」」


 ルナと二人で火球を撃ち込み、地面を爆ぜさせる。

 轟音と共に土が吹き飛び、広範囲に巨大な穴が掘り起こされていった。


「《水瀑流(ウォーターフォール)》!」


 続いて放ったのは、水の中級魔法。

 滝のような激流が空から降り注ぎ、穿たれた穴を満たしていく。

 やがてそこには、大きな人工湖が出来上がっていた。


「うわぁ……!大きい湖だー!」


 ルナが目を輝かせる。

 もちろん、泳いで渡ることもできるだろう。

 飛行魔法で越えられる可能性もある。

 だが、侵入者側からすれば、水棲魔物の存在や、瘴気に侵された水の危険性を警戒するはずだ。

 わざわざ水上を進もうとは思わないだろうし、水上で外部へ魔術による連絡を行う危険性も低い。


 他にも、植物を利用した罠。

 水球と土壁を組み合わせた沼地。

 巧妙に隠した落とし穴。

 道と道の境目には植物を密集させ、時には土砂の山を置き、行き止まりを作る。


 さらに、こちらの存在を悟られにくくする細工も施した。

 入口付近には、人の手で整備されたような道をあえて作る。

 先駆者が切り開いた道だと思わせれば、

 侵入者は自然とそこを進む可能性が高くなる。

 逆に、奥へ進むほど人工の道には植物や土砂を配置し、

 長らく放置された道に見せかける。


 そして最後は、完全な自然地帯。

 人工の痕跡そのものを消し、本格的な迷路へと変えていく。

 上空から見られる危険についても考慮済みだった。

 瘴気は上空に溜まりやすい性質がある。

 高度ほど危険性が増す。

 既に瘴気は無いが、それを知る由もない。


 加えて、森に自生する植物が放つ微弱な魔力には、魔力制御を乱す性質がある。

 さらに入口付近だけ妨害魔術の結界高度を低く設定しておけば、

 侵入者側に「上空からの索敵が妨害されている」と誤認させることもできる。

 上空からの索敵は入口で行うのが基礎中の基礎。

 安全を確保しつつ、攻略を有効に進める王道手段。

 それを逆手に取る。


 付け焼き刃の迷路ではある。

 だが、目的は完璧な防衛ではない。

 森の外へ状況を伝達させないこと。

 情報を持ったまま生きて帰さないこと。

 それを考えれば、十分すぎるほどだった。


-----------------------------------------------------------


 その頃、人間の国。


「あなたに召集令状が届いております」


 病院の一室。

 病床を見守っていた女戦士の前に、国軍の使者が現れた。

 令状を読んだ瞬間、少女は激昂する。


「ふざけるな……深淵の森に侵攻だと!?」


 命を軽んじているとしか思えない命令だった。

 瘴気が満ちるあの森へ足を踏み入れるなど、自殺行為に等しい。


 病床で眠る少女。

 彼女の妹だ。

 妹は瘴気に侵され、精気を奪われ続けている。


 元々は治療部隊に所属しており、負傷兵の治療を担当していた。

 だが、その中に瘴気へ侵された兵士が紛れ込んでいた。

 結果、その場にいた全員が感染した。

 当然、兵士も治療部隊も全員殺処分された。

 妹を除いて。

 研究材料として。

 そして、この女戦士――国内有数の実力者を縛る弱みとして。


「お従いいただけない場合、妹さんの命の保証はできませんよ」

「……っ!?」


 少女は唇を強く噛み締めた。

 瘴気汚染は不治の病とされている。

 助かる見込みなど、ほとんど無い。

 伝承では、聖魔法と呼ばれる力で浄化できるらしい。

 だが、そんな使い手に心当たりはなかった。


 噂では、とある宗教団体の修道院長が、僅かな聖魔力を宿す

 奇跡の存在だと言われている。

 だが、それも真偽不明の与太話に過ぎない。

 仮に接触できたとしても、治療してもらえる保証はない。

 そもそも、本当に治療可能なのかすら分からない。


「……分かった。従えばいいんだろ」


 少女は低く吐き捨てる。


「妹は、妹の身の保証はしてくれるんだよな?」

「ええ、もちろんですとも。

 その程度、我々にとって何の負担にもなりません」


 それでも、妹を助けたかった。

 僅かでも、生き残る可能性に縋りたかった。

 唯一残された私の家族。

 深淵の森から帰って来られないかもしれない。

 だが、もし瘴気の秘密に辿り着ければ。

 あるいは、治療法の手掛かりを掴めるかもしれない。


「待ってろ……絶対に治す方法を見つけるから」


 病床の妹へ優しく声をかける。

 そして女戦士は、静かに病室を後にした。


-----------------------------------------------------------


「……国軍、動き出したか」


 ロイは変身魔術で姿を変え、国軍拠点を見渡せる場所へ潜伏していた。

 双眼鏡を覗く。

 視界の先には、およそ百人規模の部隊。

 だが隊列を見る限り、統率は甘い。

 正規軍とは思えなかった。


 目的は深淵の森の調査。

 つまり、瘴気を外へ持ち出させないための使い捨て。

 囚人や罪人を寄せ集めた烏合の衆なのだろう。

 注意すべきは、一部に混ざっている連絡係の正規兵くらいか。


 とはいえ、この距離ではそれ以上の詳細までは掴めない。

 近づけば感知される危険もある。

 情報によれば、瘴気の影響が最も薄まるのは早朝とされているようだ。

 侵攻が始まるとしても、早くて明日の朝だろう。


 ロイは双眼鏡を下ろす。

 そして、迫り来る脅威を迎え撃つため、深淵の森へと戻っていった。

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